競馬小説・オレたちのエリ女【Paddockシート的馬券回顧】
~エリザベス女王杯当日、プロ馬券集団【P】の出来事~
N「D君とK君、今日の阪神の芝状態はどうかね?」
D「先ほどエリ女と同距離の8Rが終わったのですが、かなりスタミナ寄りですね」
K「パワーも必要ですね。1番人気の小柄で非力のオヌールが伸び負けして4着でした」
N「困ったな。エリ女の予想コラムではスタミナを重視してテルツェットに◎を打ったけど、想定以上にパワーが必要となると小柄なこの馬は厳しいかも知れない。」
D「エリ女はケンしますか?」
N「いや、コラムで書いたように人気馬がかなり危ない。馬券的には大チャンスだよ。ギリギリまで詰めて考えよう。三人寄れば文殊の知恵というじゃないか」
K「こういう時はどういうイメージでアプローチすれば良いのですか?」
N「一番人気はスピードがある先行馬のレイパパレだ。かなり前がかりの展開になるはずで、馬場を考慮すると狙いは外差しの差し・追い込み馬だよ」
K「ソダシが負けてスタミナがあるユーバーレーベンが勝った今年のオークスのイメージですね。だったら同じゴルシ産駒のウインキートスで良いのじゃないですか?」
N「それは早計だよ。ウインキートスの直近のパフォーマンスはスローペースの上がり勝負で力を発揮しているだろう。そういう馬はハイペースになると案外もろいものだよ」
K「なるほど、血統だけで軽々と判断してはいけないのですね」
N「そういうこと。そのためにPシートの馬評コメントは丁寧に記載されている。お、エリ女のパドックが始まったな。オレは東京のパドックを見なくてはいけないので、K君はシートを良く読んでスタミナとハイペース実績のある馬を選んでくれ。パドック担当のD君はパワーありそうな馬をチョイスして伝えてくれ。勝負馬券の最終判断はオレが下すから」
K、D「了解しました!」
K「良い馬が見つかりましたよ。ソフトフルート、シートに時計・上がり掛かる芝2000mでスタミナ発揮とあります。昨年の秋華賞ですね。G1実績ありますしどうでしょう?」
D「パドックで見る限り絶好調ですね。確かに良いかも知れない」
N「ヤネは誰だっけ?」
D「岩田の息子ですね。」
N「G1勝ったことあったっけ?」
D「G1どころかまだ重賞も勝ったことないです」
N「だったらダメだな。G1の騎乗はかなりの攻めぎ合いになるので一瞬の判断が命とりになる。そういう経験不足の騎手に大枚は張れないよ」
K「あ、そういえば最近増設された『型』をチェックするの忘れてました。一頭だけ【外】とありますが、これどういう意味でしたっけ?」
N「それは馬群の外回して好走した馬のことだ。どの馬だ?」
K「アカイイトですね。ハイペース実績ありますし、脚長くて長く脚を使えるとコメントにあります。」
N「今日の外伸びの馬場にはピッタリの馬だな。あとは、パワーがあるかどうか。D君、パドックの見立てではどう?」
D「状態はまずまずといったところです。出走馬中一番重い馬でパワーなら間違いなくあります。でも、指数がかなり足りてないのが気になりますね」
N「指数はスピードが問われるレースや安定した馬場で行われるダートでは反映されやすいが、今日のようなスタミナ馬場の場合、そのスピードが逆に仇となる場合があるのだよ」
D「Nさんが秋の福島でボロボロ馬場になった時、スピードがある良い馬だから、あえて評価を下げると言いますが、そういうイメージで良いのでしょうか?」
N「ま、そうだね。そういう特殊状況に対応出来るようにPシートには馬評コメントと『型』を添付してあるのだよ」
K「締め切り時間が近づきましたが、馬券はどうしましょう?」
N「よし、人気もないしアカイイトの単複で攻めよう。ここに天皇賞(秋)でエフフォーリア→コントレイルを馬単一点で当てた馬券がある。払い戻せば100万円にはなる。K君悪いが、ちょっとそこのWINSまで一走りして単勝と複勝を50万円ずつ買って来てくれ」
K「お安いご用で」
実況「なんとなんと、勝ったのは赤は赤でもアカイイト!!」
D「やりましたね。払い戻しは4000万円近くになりましたよ」
N「これは事業資金に回そう。これでユーザーの方々にもっと手厚いサービスを施せるよ。それにしてもK君帰って来るのが遅いな」
D「出て行く時、嫁の体調が悪いから帰りに家に寄って様子を伺ってくると言ってましたよ」
N「なんだ、K君は結婚してたのか?」
D「あれ?知らなかったですか。最近、良家の嫁を貰いましたよ」
N「逆玉の輿か、上手いことやりやがったなアイツ」
D「それがそうでもないらしいですよ。結婚の支度金として嫁さんの実家から1億円を用意される予定でしたが、K君のバクチ好きがバレて駆け落ち同然で結婚したみたいです」
N「なんか、どこかで聞いたことあるような話だな。それにしても遅いな、D君悪いが家に様子を見に行ってくれ」
D「了解しました」
ボーン………ボーン………
N「ボーン……ボーン……」
D「4000万円当たったせいか、いつになくテンションが高いですね。にしてもまだその着メロですか?」
N「この着メロのどこが悪い。歴史的ヒット曲だぞ」
D「いまどき、Bruce Springsteenを聴いているのNさんくらいですよ」
N「そうか?それよりK君はいたか?」
D「いや~、それがどうも4000万円を持ってトンズラこいたみたいです」
N「なに、それを早く言えよ」
D「手紙とちんけな当たり馬券を置いていって、アメリカに逃亡したみたいです。馬券はラインで送ります。手紙を読み上げますね」
Nさんへ
嫁の実家からの支度金1億円を元手に夢であった杵打ち麺屋をアメリカの競馬場で開業するつもりでしたが、頓挫してしまいました。
WINSで4000万円の払い戻しを受けた時、諦めた夢が実現出来るかと思うと居ても立ってもいられなくなりました。
借りたお金は、事業を成功させ必ずお返します。
お詫びといっては何ですが、僕の当たり馬券を置いていきます。これで美味しいお酒でも飲んで下さい。
N「杵打ち麺か…難しいのじゃないか?東京も中山もなくなったしな。鳥千のフライドチキンなら下地もあるし成功したかも知れないが…」
D「それを言うなら、やっぱりmona monaのカレーでしょ。日本一のカレー通の僕からも太鼓判を押せます…って、そういう問題じゃないですよ。4000万円を持ち逃げですよ。通報しますか?」
N「いや、オレたちが買ったという証拠もないし警察も相手にしてくれないよ」
D「しかし、ふざけた野郎ですね。この当たり馬券もアカイイト、キズナ、コトブキって新婚のバカカップルが考えそうな語呂合わせの馬券ですよ」
N「まあ、そう怒るな。情は人の為にならずといって、巡り巡って自分に返って来るものだよ。実は、オレも3年後を目処にPシートをアメリカで事業展開しようと思っていたところだ。Kには今回のことは許すから、アメリカの競馬事情を良く調べるよう伝えておいてくれ」
D「えっ?アメリカ進出するつもりですか?」
N「反対か?」
D「いや、反対ではないですけど、その…」
N「なんだその奥歯に物が引っ掛かった言い方は…ハッキリ言ってくれ」
D「だってNさん、『Born』の後の『in the U.S.A』をまともに歌えないじゃないですかwそれなのにアメリカって…ププッ」
N「うるせいよww それは言わない約束だろw」
完
この物語は全てフィクションです。
今回は久しぶりにふざけさせて貰いました。
Nさんに怒られるかも(笑)
私の伝えたいことは、難関と思えるスタミナレースも馬評コメントを熟読すれば手掛かりはあるということです。特に人気上位が危ないと思われるレースは、コメントや型には注目して欲しいです。