競馬小説『パドッカーの夜🌃』・【Paddockシート的馬券回顧】
日曜日の晩、道男は疲れていた。
今年から始めた仕事で、今日も朝から夕方まで休むことなくモニターとにらめっこ。
クールダウンするつもりで、あてもなく散歩していたら、いつの間に飲み屋街に来てた。
せっかくだし少し飲んで行くかとおもったが、立ち呑み屋は疲れるし、かといって若い女の子のいる店ではしゃぐ気分でもなかった。
【Bar 真理】
ある看板が道男の足を止めた。
変わった店名だな、髪と髭を伸ばした年老いたマスターが人生の教訓を語ってくれるのだろうか?
たまにはそういうのも良かろうと店の扉を開けた。
「いらっしゃい」
道男の予想はハズレた。
出迎えたのは、小柄で年の頃は道男と同じ30代後半くらいの女性だった。
ママ「あら、どうしました?怪訝なお顔をして」
道男「いや、表の看板に『真理』とあったのでてっきりお爺さんが出て来ると思っていました」
ママ「アハハ、お客さん面白いわね。『真理』じゃなくて『真里』よ。私、マリというのよろしくね」
道男「ごめんなさい。見間違えしちゃった」
真里「だいぶお疲れのようね。調子3くらいに見えるわ」
道男「そんなですか?10点満点の3とは…」
真里「いや、7点満点の3よ」
道男「なんで7点満点やねん、ママ面白いね」
真里「日曜日で他にお客さん来ないから、ゆっくりしていったら。何飲みます?」
頭に酒類千円均一と書かれたメニューを眺めて行くと【知多〜special 1200】の所で目が止まった。
知多は好きなウイスキーだが、スペシャルなんてあったっけ?千円均一と書いているのに千二百円するのもそのせいか?
道男「知多スペシャルをハイボールで。あ、ママも何か飲んで」
真里「ありがとう?じゃ、私は富士エクセレントのハイボールをいただくわ」
道男は、内心「図々しいママだな」と思った。
メニューに【富士〜Excellent 1600】もあった。普通、こういう時お客より安い酒を頼むものだ。
道男「乾杯。知多にスペシャルバージョンってあったんだね。知らなかったよ」
真里「あ、それね。普通の知多よ。スペシャルを和訳すると何?」
道男「え?特別かな」
真里「つなげて読むと?」
道男「知多…特別。あ、知多特別だ。もしかしてこの1200は値段じゃなくて距離のこと?」
真里「ご名答。そうそう、この富士〜Excellentも富士ステークスのことね。最近、メニューを新しくしようとして、それを競馬好きの常連さんに依頼したらコレよ」
道男「良いじゃないですか。ユーモアがあって」
真里「どうも。お客さんも、かなり競馬がお好きみたいね」
道男「ええ、好きが高じて仕事になっちゃった」
真里「あら、トラックマンさんだったのね」
道男「いや、そっちじゃなくてネット系の競馬情報関連の仕事」
真里「今の時代は、何でもネットよね。競馬新聞もネットが便利だし」
道男「ママもネットで競馬情報を利用しているんだ?」
真里「さっきの常連さんに薦められてね。今年から利用してるのよ。Paddock Labって知ってる?通称パドラボ」
道男「ええ、まあ…一応は知っているよ…ママはどんな感じで使っているの?」
真里「私は単勝が好きなんで、MTP◎や○でクラス基準値を超えた馬を買うことにしてるわ。パドック情報で調子1が入ればGOという感じ」
真里「まずオープンの基準値が68。それで70を超えているのがMTP◎72の7番マテンロウスカイだけ。こういうのが臭いのよ」
道男「パドック情報も調子1が入っているから単勝勝負に行っても良い場面だね」
真里「そう、しかも3番人気だしね」
道男「シンプルイズベスト。ママは馬券が上手いんだね」
真里「ありがとう。でもなかなかこういう簡単なレースが出現しないのが競馬の難しいところよね」
道男「ところでパドラボさんのパドック担当は何人かいるけどお気に入りの人いる?」
真里「みんな好きだけど、justawayさんが可愛いわ」
道男「可愛い…なんで?」
真里「当たった時、『あじゃす』と言うのよ。で、知ってるかな?今年加入したせいかパドラボのゴマキって言われているの」
道男「実は、言いづらいのだけど…」
真里「えっ?あなたさっき競馬配信のお仕事って言ってたわよね…まさか」
道男「そう、私がゴマキ」
真里「え?嘘でしょ。冗談はやめてよ」
道男はおもむろにスマホを取り出し1枚の写真を真里に見せた。
真里「あ、この写真はツイッターで見たことあるわ。N鈴さんが関西に遠征した時の集合写真じゃない。確かにあなたも一緒に写っているわ」
justaway「いつ切り出そうと迷っていたのだけど…ゴメンね」
真里「じゃあ、この人は誰?」
justaway「よすーけさん」
真里「あの人予想も上手いし、馬券も強いだけあって賢い顔立ちしてるわね。じゃこのメガネの人は?」
justaway「週末さん」
真里「えっ?あのコーヒーとタバコの…?」
justaway「そうその週末さん」
真里「ワイドの穴掘りが好きで、深夜に飯テロをぶち込む…あの?」
justaway「そうそう、その週末さん」
真里「で、SPACEを終わる時の決まり文句が『ほな、オレも嫁さんのケツ触りながら寝るわ』でお馴染のあの週末競馬さん?」
justaway「おい、アンタどんだけ週末さんのことが好きやねん(笑)」
真里「パドラボの周辺には楽しい人が集まってくるよね。競馬は勝つことも大事だけど、それだけじゃつまんない。やっぱり楽しくないと続かないと思うわ」
justaway「ユーザーの方にそう言って頂けると本望です。あじゃす!」
真里「あー、生あじゃす聞けた。感激だわ。ねぇ、ジャスタさんせっかくだし一緒に歌おうよ」
justaway「パドラボの未来は♪」
真里「wow wow wow wow♫」
justaway「世界が羨む♪」
真里「あじゃす あじゃす あじゃす あじゃす♫」
justaway「競馬をしようじゃないか♪」
真里「wow wow wow wow♫」
justaway「ダンス!ダンスインザダークナイト♪菊花賞!」
justaway「今日は楽しかった。ママに元気を貰ったし」
真里「お店に入って来た時は、東スポ杯のイクイノックスみたいな歩き方で心配したけどね」
justaway「あの時は体幹3でヒョロヒョロしてたしね。今のオレはどう?」
真里「今年の秋の天皇賞くらい完璧よ」
justaway「体幹アップして最高値の7だね。ママ、最後にお願いがあるのだけど…」
真里「お願いって何?」
justaway「アレ、アレやってよ」
真里「仕方ないわね。特別サービスよ。
セクシービーム!」
justaway「あじゃす!あじゃす!」
店を出ると道男の疲れは吹き飛んでいた。
ユーザーの生の声を聞いた嬉しさで、胸がいっぱいだった。
「盗んだソダシで走り出す♪」
得意の替え歌を口ずさみながら、ドゥラメンテの行進歩きで家路につくのであった。
【完】
皿うどん「こらこら、先輩ふざけ過ぎですよ」
カステラ「そうか?感動の名作だろ。直木賞行けるかもしれん」
皿うどん「そもそもjustawayさん、よすーけさん、そして週末競馬さんの許可を取ってないでしょ。訴えられるかも知れませんよ」
カステラ「アホな。あの三人がこれくらいのことで訴えたりするかよ。そんな器の小さい男達じゃないよ」
皿うどん「そうですよね。それはそうと、文中の歌はモー娘の『LOVEマシーン』の替え歌でしょうけど、歌詞が無茶苦茶ですやん。合いの手が、あじゃす あじゃすって」
カステラ「これからパドラボ民はそう歌ってくれ」
皿うどん「そもそも、なんでこんな小説というかコントの台本的なものを書く気になったのですか?」
カステラ「先週の回顧の後、よすーけさんに伏線を張って貰ったからその回収だよ」
皿うどん「いやー、よすーけさんはそういう意味で言ったとは思えませんよ」
カステラ「まあ、そうだけど、もしジャスタさんが『私がゴマキ』を使う場面を想像したらこの名作が出来た」
皿うどん「迷作ですけどね。ジャスタさんといえば、先週の阪神JFが的確なパドック情報だったのでそれを振り返って行きますか」
カステラ「これは、お見事だったね。調子1を6頭打ってその内5頭で掲示板独占」
皿うどん「しかも、7番6番は上位評価の2頭でした」
カステラ「やはり、2歳戦はパドックを見れる人には敵わないよね」
皿うどん「先輩もこの情報を活かしてバッチリ当てましたよね?」
カステラ「それが、まあその〜」
皿うどん「あらら。なんで13番から入ったのですか?」
カステラ「いやー、去年このレースMTPを重視して大儲けしたでしょ。だから、MTP◎13番から前売りで買っちゃったw」
皿うどん「そうそう柳の下にはどじょうはいないものですねw」
カステラ「そうだね。自分でいつも2歳戦はパドックって言っているのにね。反省します」