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「そもそも、“超音波測定”って何?」―CASTの超音波センサー生みの親・小林牧子先生に聞く、超音波の仕組みとCASTの歩み

株式会社CASTは「あらゆる場所にセンサーを」をビジョンに掲げ、研究開発を行っています。

2022年は、CASTにとって初めての製品である配管減肉モニタリングシステムのリリースや、実証先の確保・技術開発のための資金調達を実施するなど、事業拡大に向けて加速中です。

CASTのセンサーは薄型でフレキシブル、そして高温に耐えられるのが特徴。これら3つを兼ね備えながら、超音波を使って測定をしているのがCASTのコア技術なのです。

以前の記事ではセンサーの3つの特徴を紹介しましたが、「そもそも超音波で測るとは、どういうことなのか」について触れていませんでした。

今回はCASTの技術の根幹でもある「超音波」に迫ります。CASTはなぜ、超音波センサーを実用化することになったのでしょう。背景には、創業者の一人であり、超音波センサーの生みの親でもある熊本大学の小林牧子(こばやし まきこ)先生が大きく関わっています。ご本人に、超音波センサーとの出会いやCASTとの歩みを伺いました。



超音波測定とは「速度×時間」

CASTの製品「配管減肉モニタリングシステム」

―CASTのセンサーは、超音波を使って測定していると伺いました。そもそも「超音波」とは、どのようなものですか?

超音波は、狭義と広義それぞれの定義があります。狭義では「人の耳で聞くことができない、高い周波数の音」とされています。20キロヘルツ以上の周波数という定義ですね。

広義では「音を聞く以外で使用した音」とされています。例えばアメリカでは、橋が壊れていないかを検査するためにドローンで超音波を出し、跳ね返ってくる音を聞いて異常があるか・ないかを判定しています。人の耳には聞こえているけど、音楽のように聞くための音ではないので“超音波”である、ということです。


―明確な定義があるのですね。では「超音波測定」とは、どのように測っているのでしょうか。

簡単に言うと、小学校の時に算数で習った「速度×時間=距離」の理論を使って測定しています。仮に超音波を一定の速度で出す場合、あらかじめ設定した超音波の速度に、音が跳ね返ってくる時間を掛け合わせて物の厚さなどを測っているんですね。

CASTの製品の場合、配管にセンサーを装着して超音波を出し、配管内部の空気に触れると音が跳ね返ってきます。それで配管の厚さが分かるから、経時的に配管がすり減る様子なども分かるわけです。

配管がすり減ると検知できる仕組み

超音波は、固体と気体との境界面でものすごく跳ね返ってくる特性があります。それを活用して、実用化しているのが現在の製品です。


超音波センサーの研究内容が、CASTのコア技術に

大学院生時代の小林先生(前列右側)

―なぜCASTは、超音波測定の技術を実用化することになったのですか?

話は、私がカナダで大学院生だった頃に遡ります。当時私は、院生の立場で超音波センサーの研究をするようになりまして。その後、熊本大学に戻った私と赴任してきた中妻先生が出会って、実用化に向けて動いてくださいました。そして創業したのがCASTですね。

CASTを創業したのが2019年、私が超音波センサーで研究を始めたのが2000年なので、約20年前から技術開発はしていたんですよ。


―小林先生は当時、どのような研究を?

超音波を使った、機械の内部にあるマグネシウムのプロセスモニタリングをしていました。

……というより、研究を始めたのは本当に偶然なんですよ。カナダの恩師のところに「超音波センサーがほしい」と依頼があって、たまたま作ることになったみたいで。そして私の進学時期と重なっていて、私もたまたま研究に加わったということ。


―具体的には、どのような依頼だったのですか?

今のCASTの製品は配管の厚さを測るために超音波を使っていますが、当時恩師のところへ来た依頼は「機械の中にある材料の、温度や圧力を読み取るセンサーがほしい」との内容でした。

研究当初、恩師は市販のセンサーを買ってきて試すも、機械の温度が400度もあったためすぐに壊れてしまったんですね。それから機械に穴をあけて、センサーと冷却装置を棒に付けて機械内部に差し込んだこともあったのですが、実際のメーカーが機械に穴をあけることを許すとは思えないじゃないですか。
だから作るセンサーは、高温に耐えられるのが一つの条件。もう一つは、機械内部に無理やりセンサーを入れなくても測れるよう、機械の配管やノズルなどの曲面に貼れること。そういう超音波センサーがほしい、という要望でした。


超音波センサーを作ること自体、そんなに難しくなかった

センサーの役割を担う液体をスプレー塗布する機械

―先ほど院生時代に「たまたま研究に加わった」とおっしゃっていましたが、超音波測定には興味があったのですか?

いやいや、全然知らないですよ。大学生の頃、研究室の先生から「カナダに行ってみない?」と言われたのがきっかけで進学しましたが、超音波について知ったのはカナダに行ってからです。

正直「超音波って何?」という状態だったんですけど一生懸命やってはいました。“リサーチアシスタント”として研究室に所属していたので、研究に参加するとお金がもらえたんです。「成果が出ないとクビになるから」という、初めはそんな理由で研究をしていました。

恩師からは「1年くらいのテーマだと思うけど」と言われていたけど、1年どころのテーマではなく、20年以上経った今も研究は続いている。こんなこともあるんですね。


―超音波センサーの面白さに、徐々に気が付いたということでしょうか?

そうですね。恩師も超音波センサーのことをほとんど知らなかったから、独学で開発を進めていたんですけど、1年くらい経ったときにセンサーを作ること自体はそんなに難しくないと気が付きまして。

もちろん「いいものを作ろう」と思えば難しいけど、センサーが動く理論を理解できれば作るのは簡単だったんです。ただ、どうやら他の人が研究しようとすると難しいみたいでした。

たまたまチームに日本人のエンジニアがいて「この研究は誰がやってもできるテーマですよ」と話していたら「そんなことない。誰でもできるようなテーマじゃないと思います」と言われて「そうなの?!」って。私にとってはごく当たり前の理論で、むしろどこが難しいのかよく分からなくて。


―他の方にとっては難しくて、小林先生にとっては難しくない……。

壊れないセンサーにするための理論があるんですけど、どうやらそれを理解するのが難しいようです。

そもそもセンサーは、セラミックの部材に電圧をかけて分極し、圧電体が作用することで機能を果たせるようになります。“分極”とは、電界の向きを揃えること。磁石のN極とS極を揃えるのと似たような理論です。

分極するときは高温になりやすくて、すぐにショートしてしまうんですね。CASTのセンサーは、構造的にスポンジのように穴がたくさん開いているから、熱が逃げて高温に耐えられる。このあたりの理論を理解して、開発するのが難しいみたいですね。

拡大すると、穴がたくさん開いているのが分かる

あとは当然ながら、いい膜を作ることも薄型フレキシブルセンサーにするには必要な技術です。「膜」とは、センサーの役割を担う液体をスプレー塗布した状態のことを指しています。

CASTのセンサーは「ゾルゲルスプレー法」と言って圧電セラミック粉と圧電ゾルゲル溶液を混合攪拌し、スプレー塗布して付着させています。特許も取得している技術ですが、私、研究当初からこの膜を作るのが上手かったんですよ。

今は機械で均一に薄い膜を塗布できるようになったものの、機械ができる前は手作業でした。その手作業でのスプレー塗布が上手くて。反対に、上手くない人が塗布するとムラができるから、やっぱり壊れやすいんですね。

恩師からは当時「牧子がずっとスプレーしていればいいんだよ」なんて、とんでもないことまで言われましたが……。今は中妻先生やみなさんのご協力があって、無事にようやく自動化できました。


あらゆる場所で、CASTセンサーが使える未来を

CAST代表の中妻さん(左)との2ショット

―研究を始めたときから、20年以上が経ちました。研究内容は、当時から変化していますか?

今は1周周って、当時の研究に戻ってきました。途中で研究がストップしていた、マグネシウムのモニタリング用センサーの研究を再開しています。

カナダから日本に戻り、センサーの構造の話や高温で使える技術、オンラインでのモニタリングなどを研究していたら、あっという間に20年以上が経ちました。他のことを研究している間に、データサイエンスの技術が向上してきまして。パソコンの容量増加やクラウドでのデータ管理ができるようになったことで、研究を再開できました。

というのも、今までは研究できてもデータの蓄積に限界があったんですよ。フロッピーディスクやDVDにデータを逐一移動させていました。そういう膨大な時間がかかる作業をしなくてよくなったのは、研究を再開できた大きな理由の一つです。

昔は何の役に立つの?と言われながら研究していたけど、何より私が「研究したいからやっている」というのも純粋な理由。自分の好きに、心赴くままに。それが役に立つか立たないかは、正直二の次な気がします。趣味ですね、もう。


―小林先生にとって、超音波センサーの興味深いポイントはどこなのでしょう。

やっている人があまりいない、ということでしょうか。もともとニーズが分かりにくいところから生み出していましたから、やっている人が少ないのかもしれません。

でもニーズが全くないわけではないので、こういうフレキシブルかつ薄型で、高温に耐えられる超音波センサーがあることを世界に広く発信しないと、と思っています。どうやって発信するかは、これから考える必要がありますね。


―他にも、今後やってみたいことはありますか?

高温AEセンサーですかね。「AE」とは「アコースティックエミッション(Acoustic Emission)」の略です。音響の放射を検知するセンサーでして、地すべりの前兆を検知できたり、溶接不良を検知できたりします。

学会でもたくさんの発表がありました。まさに今需要が高いようなので、私も研究を続けていきたいと思います。



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CASTの技術や製品について興味を持った方は、ぜひお話ししましょう!info@cast-sensing.comまで、お気軽にお問い合わせください。

また、CASTではともに働く仲間を募集しています。CASTでの働き方に興味を持った方は、深山までDMでご連絡ください。


取材・執筆:小溝朱里



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