FE4356
TRADITIONAL FOLK DANCES OF JAPAN (全国)
(LP FOLKWAYS FE4356 1959)
レア度:☆☆
内容 :★★★★★
そういえばとあるところでアンビエンスについて考える機会を得たのでうってつけの一枚を。
出自も肩書も不明というところからしてそもそも民謡的なMary L. Evans女史が録音した日本各地の盆踊。ほとんどの録音が音頭取りから遠く、民謡として聴くには肝心の声が朧気、という余りにロウなフィールド・レコーディング集なのですが、だからこそ封じ込められたJapanのアンビエンスがそこかしこに詰まっています。空気感。空気の感覚。とは。
様々の盆踊会場に足を運びながらも あくまで中心からではなく周縁の傍観者のような立ち位置で録音された音たちは、まさしく現代的聞き流しリスナー感覚に合致するサラウンドを保ちます。
現地の民謡の録音というとよくありがちな、生活まで含めて保存会や伝承者に深く入り込んでいかなければその真髄まで録れはしないはず、その土地の記憶や歴史を学んでこそ理解できるもののはず、という固定観念を取り外して聞く音の塊としての盆踊り。
音頭取りよりも踊り手の囃子を中心に捉え直される鳥取の"傘踊り"、子供が跳ねた足音の連続をミニマルなリフとして味わう大阪の"住吉踊り"、その幽玄な胡弓や柔らかな喉ではなく太鼓の低音をメインにもう一度聞き直してみる富山の"麦屋節"、転がる打ち手の妙を楽しむ佐渡の"佐渡おけさ"。さらに太鼓に重く低く迫ることで耳が暴発する一連の風流系太鼓踊り、佐賀は鹿島の"面浮立"や岩手は岩崎の"鬼剣舞"に盛岡の"鹿踊"、見物人のノイズすらも巻き込んでいく徳島の"阿波踊り"。
唄う人間や踊る人間の個を識別することすら困難で、というかそもそも不必要な、土地に溶けて漂うアンビエント・ミュージック。町田佳聲が言っていた土地の匂いとは。山地には山地のアンビエンス、平地には平地のアンビエンスがあるよね。