わたしを通り過ぎた本/松本かおりさんの場合
阪急宝塚線、雲雀ケ丘花屋敷駅を降り、山の方へ向かう阪急バスに5分ほど揺られて下車。そこから坂をすこしあがった一軒家に「pō」はあります。2019年12月にオープンしました。お菓子を担当する坂田さんと布小物を担当する松本さんのお二人で営んでいます。まず、松本さんにお話をうかがいました。
手を動かすのが好き
小さい頃は、母が洋服を作ってくれたので既製品はほとんど着たことがなかった。その影響で作るのが好きで、小学生のときは手芸部に入りフェルト人形を作ったりしていた。中学生のときはバレー部の仲の良い友だちにシューズケースをお揃いで作ったことがある。シューズケース本体は母がつくり、わたしは名前をフェルトでつくってパッチワークをした。「手芸が好きだから」という理由だけで服飾の専門学校へ行ったら目標がある人ばかりだった。入ってすぐの自己紹介では「ブランドを立ち上げたい」「〇〇に入りたい」などと言う人たちの中でわたしだけ「3年間で決めたいと思います」と(笑)。
学校は3年間通って、絵を描いたり、型紙や洋服を作ったりと一通りのことを教わった。だから、就職は必然的に服飾のところへ。はじめ就職したところは、ミセスのブランドだった。出荷を手伝うことも多くてあんまり型紙を作るということはしなかった。3年で辞めて、次に行った会社はいろんなブランドを展開をしていた。パタンナーということで入ったけれど、洋服は型紙を作って完成までに時間がかかるので苦手だった。仕事としても苦痛だった…(笑)。パタンナーとしても自信がなかったので、グレーディングという、例えばMサイズからLサイズに型紙をかえる仕事に配置換えしてもらった。CADに入力してサイズ違いの型紙をつくるという専門的な仕事だった。専門的と言っても人が作った型紙を基にしてサイズを入力する作業だからたいへんではなかった。結局十数年働いていたのだけれど、その間に東京にも支店ができたから2年半くらい東京へ行って家の事情で辞めて関西に戻ってきた。
洋服は自分のものを作るのは良いけれど、不特定多数の人の着心地などを求められると自信がなくなる。着る人にそれぞれの思いがあるから、正解がないし…。「型紙をつくることも苦手だ」ということはわかっていたからなんどか辞めようと思っても「苦手ながらもやっていたらできる」と同僚に言われて「じゃぁもうすこしがんばります」と続けてきた。つらいながらも自分の居場所をすぐ見つけて、異動させてもらってやってきた(笑)。
関西に戻ってきてからは友だちが経営していたこども服の会社で働いた。こども服は同じ洋服でもわからないから気にならなかったし、洋服はなんでもかわいい。「かわいいからできるかな」と思ったらこども服はサイズ展開がめちゃくちゃ多くて…。結局そこは、解散したのでアルバイトで神戸の帽子屋さんに行った。
洋服づくりにも少しずつ自信を持つように
帽子屋さんでははじめ検品作業をしていたけれど、ぜんぜん検品できていなくて…(笑)。それで、検品をしてから工場に戻していたものを引き取ってチクチクと直していた。帽子にリボンをつけたり、穴を直したり、量が多くてひたすら作業をしなければならなかったけれど帽子屋さんで働いていたときの仕事がいちばんあっていた。ということに今、話しながらきがつきました(笑)。洋服は身体全体なので作業対象としていたものが大きかった。通っていた学校が服飾だったから洋服の仕事へむかったけれど、働きはじめたときから小物に行けばよかったのかもしれない…。
帽子屋さんはpōをはじめるから辞めた。帽子屋さんの社長さんに「店をしようと思うんです」と言ったら「それはやっていかれへんやろ」と言われた(笑)。落ちついて時間ができたら週一回でも来てくれたらと言ってもらった。たぶん作業は手が覚えていて、なんにも考えずに手を動かすだけだからたのしいだろうなとは思う。
洋服づくりは苦手でも頼まれたら作ったりはしていた。それでも作るのは部屋着くらいだった。知人の開いているカフェで「ワークコートを売りたい」ということで、声をかけてもらったのが洋服をつくるきっかけだった。それから、大阪や、京都の知人のお店の方から「縫製おねがししてもいい?」と言ってもらってやらせてもらっていたら「意外とできるかな」と思うようになった。
それで、いろいろ作ってネットで販売してみようかなとちょうど思っていたときに、坂田さんから声をかけてもらった。坂田さんも料理教室を辞めてお店をするというときで、「それやったら一緒に」となんも考えずに決めた。声をかけてもらわなかったらこんな風にお店を持つことはなかった。
いま、pōに置いているものは小物ももちろん型紙を起こして作っている。洋服の型紙をつくるときにわからないことがあれば、専門学校の先生をしているともだちに相談をして作っている。型紙を作るよりやっぱり縫う方が好き。縫うのはぜんぜん苦じゃない。
料理とわたし
もともと坂田さんとは先生と生徒だった。東京から関西に戻ってきたときにともだちに教えてもらって坂田さんの料理教室へ行ったのが出会い。料理教室は結局7年くらい行っていたと思う。もともと食いしん坊だけど、自分でつくることはようやらんかった。料理は母にやってもらって手伝いもしなかった。東京行ったときに、一人暮しだから自分でやらなあかんくなって料理をやりはじめて、向こうにいた友だちに教えてもらった。30歳くらいからかな。それまでは、洗濯もお弁当も全部やってもらってた。家は二層式の洗濯機で、一人暮らしをしたら全自動洗濯機で「どうつかうん?」と聞いたら「自動やからスイッチ押すだけやで」と言われた(笑)。
料理教室に行きだしてから食べに行くことも増えた。坂田さんの料理教室は大皿に盛ってみんなで食べるからパーティーみたいでたのしかった。みんなおいしいのが好きだから、「どこどこがおいしい」という情報をくれたらせっかちだから「行かな!」と訪れた。
『酒肴ごよみ365日』カワウソ(誠文堂新光社)が好きで「鶏胸肉と塩麹のサラダ」はよく作る。365日、毎日の一品の大きな写真とレシピがちょっとだけのっている。とうもろこしをフライパンで焼いてから身を離して、枝豆を茹でたのと混ぜて、パクチーを散らしてオリーブオイルと塩で味つけという料理もおいしい。簡単で、手軽な料理が多いからけっこうこの本を見て作っている。卵料理をしたいときは、索引から引いて見ている。
料理教室に行きだしたのも母が他界してからだったので、母の料理は作れないことは後悔している。母はレシピを残すタイプではなくて、テレビを見てこれやってみようとチャチャッとメモして作っていたから「あれおいしかった」と言っても「わからへん」と…。あんまりおんなじ料理がでてこなかった。
わたしは、レシピを見ないと料理は作れない。よく見るのは、有元葉子さんの本や師匠の坂田さんのレシピ。坂田さんの料理はどれを作っても食べた人がおいしいと言うてくれるからよく作る。トラネコボンボンさんのレシピも簡単なものだけよく作っている。「生クリームとかぼちゃとたまねぎのグラタン」はよく作る。材料を炒めてから生クリームをかけて焼く。それの海老バージョンもあって作っている(笑)。
あと、お味噌汁は好きでよくつくる。水に昆布に切込みを入れていっぱい入れて冷蔵庫に入れておく。ズルンズルンでアロエみたいになる。使うときはそれを刻んで、お味噌汁に入れる。煮干しだけ或いは昆布だけのときが多いかな。カツオを入れるのは面倒くさい。昆布を切るのは仕方ないと思ってするけれど、濾すのは面倒くさい(笑)。いちばん好きな具材はジャガイモと玉ねぎ。
苦手な本も一歩ずつ…
『みをつくし料理帖』は唯一読んだ小説かもしれない。小さい頃もマンガしか読んでいない。『りぼん』や『なかよし』は読んでいた。でもいまはマンガも読まなくなった。『ONE PIECE』は第一部は読んだけれど第二部は読めなかった。主人公のルフィが大きくなってきておもしろくなくなったのと、最初はともだちがそろえているのをまとめて借りて読めたけれど、新刊を一冊ずつは待たれへん(笑)。
本を読むことになれていないから、読んでいたら違うこと考えているんです。進んでいるようでぜんぜん頭の中にはいっていない。「あかん集中しよう」と思うのに違うこと考えてしまう。すごい特技やなと思うのですが…(笑)。
『みをつくし料理帖』は「友だちがいいよー」と言うので、何人かで回し読みをした。登場人物の名前が覚えられなかったりして前に戻ってみたり...それでも次を待っている人がいるから、急かされている感じがして時間はかかるけれど読んだ。それぞれの巻末にすこしだけレシピも載っているけれど、本格的だから作らない(笑)。
テレビっ子だから、テレビの話ならめちゃできる。本となるとなんにも読まないから…。今まで読んで寝ぇへんかったのは、芸能人の書いたエッセイなど。『夢をかなえるゾウ』水野敬也(飛鳥新社)はすこし前に読んだ。だいぶ前に買ったけれど読まなくて…。本を読んで想像できると聞くけれど、登場人物の想像ができないから、はじめドラマとか見て映像として残す。それからようやく読める。それでも、「あれ?ここなんやったっけ?」と二歩進んで一歩下がる感じ(笑)。
家族が本を読んでいる姿も見たことない。大人になって「読めへんって恥ずかしいな」と思って読みはじめたけれど、ぜんぜん読まれへん(笑)。すすめられたら読んでみようと思って読んでみるけれど、すごく時間がかかる。本が好きな人は何冊もかけもちして読むというのも、話がごちゃごやにならないのかなと思う。
やっぱり手を動かしていたい
手紙を書くのは好き。『手作りする手紙』木下綾乃(文化出版局)を参考にして手紙や年賀状は書いていた。文章ではなく図で説明されているからすぐにわかる。紙が好きなんだと思う。DMなどもあまったらすぐに封筒を作っている。硬い紙はサシ(定規)で線を入れて折る。裏に透ける紙を貼ったりして作る。封筒をつくるのは人と話をしながらでもテレビを見ながらでもできるけれど、本は手も動かせないし、集中しないといけない。たぶん、じっとしているのが苦手なんだと思う(笑)。
その他、紹介いただいた本
『ポストオフィスマニア』森井ユカ(講談社)
切手はこどものときから集めていた。郵便局や郵便博物館が好き。海外に行ったら必ず郵便局へ寄る。
pō(ポー)
〒665-0807 兵庫県宝塚市長尾台1-9-13
電 話:なし
営業時間: 11:00〜17:00
定休日 :水・木・金
最寄駅 :阪急宝塚線雲雀ケ丘花屋敷駅下車 阪急バス「長尾台」バス停すぐ
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2020.09.15
インタビュー・構成:福島杏子(casimasi)
写真:米田真也