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No.1「回」(2016/2/16)

そうだ、あの怪談は面白かった。粘り気のある文体による描写は非常におそろしく、可聴帯域外の低い周波数が耳の裏で常に流れている気がした。あの怪談は確かここに……。

居住区の端の、取壊し寸前の図書館で、僕は目的の怪談を探し当てた。懐かしい背表紙は変わらず壊れかけている。棚から慎重に抜き出す。丁寧にページを捲り、おや、と思う。ページが逆さになっている。

背表紙を確認するが、天地はあっている。再び本を開く。やはりページが逆さになっている。乱丁じゃなかったはずだけど、と訝しみながら本を逆さにする。するとまたページが逆さに……

いや、何かが違う。

本の天地を背表紙に合わせた状態で読んでみる。単語の文字の並び順は合っているが、逆さ文字で、かつセンテンスの並びが逆になっている。これは読めそうで読めない。
もう一度、本を逆さにする。すると文字がくるりと回転し、またもや読めそうで読めない。

何度か本を回転させていると、耳の裏から(ギギ……)と音がする。振り返っても誰もいない。

僕はなんとかして読めないかと本を回し続ける。耳裏の音が強くなる。どうにか読めないか。音がうるさい。本を台に置き、自分が台の周りを回る。文字が逆回転し続ける。音が頭全体にミシミシと鳴り響く。耐えきれなくなり、ハァッ!と息を吐く。そして気づく。

音の正体は自分の歯軋りだった。

本を見ると、まだ文字が回転している。耳の裏から低い音が聞こえ始める。
 


歯軋りの音で起きた日の夢。起きてから暫くは顎関節が痛んだ。

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