【謎の人物ファイル】 中年の田中さんとの一夏(おっさんとラブ)
まず、田中さんは、60歳ぐらいの男性です。
僕は、男、当時19歳。そんな2人の、ひと夏の、淡い思い出です。
*
20年前、僕が大学1年生の夏。
田舎から上京してきた僕は、東京生活に刺激を求めていた。
しかし、まだ友達が少なく、夏休み、暇だった。
アパートの近くには大きな川があり、河川敷では、楽器を演奏する人や運動をする人など、思い思いの時間を過ごしていた。
僕は、海パン一丁で、日焼けをしながら寝ていた。
「お兄ちゃん、いい髭だねぇ」
突然、声をかけられた。
目を開けると、60歳ぐらいのおじさんが、僕を覗き込んでいた。
その人が、田中さん。と愛犬。
田中さんは、近所に住んでいて、よくここを散歩しているという。
知らない謎のおじさんに、戸惑いはあった。
しかし、東京に出会いと刺激を求めていた僕は、好奇心が勝った。
田中さんは、とても優しい雰囲気だったし。
週に2・3回のペースで、河川敷で、会話をするようになった。
聞けば、田中さんは、音楽関係の仕事をしているらしい。
有名なレーベルに所属しているらしい。
これまでCDを何度も発売している「作詞家」らしい。
すごい人と出会ったな。ワクワク。
時には夕方から夜まで長時間、語り合った。
徐々に、田中さんとの距離が近くなっていった。
田中さんは、僕の髭を、何回も触るようになっていった。ドキドキ。
おやっ、、、と思ったが、田中さんと会うのは、とても楽しく勉強になるし、その辺は、スルーしていた。
自宅にも誘われるようになったが、やんわりと断り続けていた。
田中さんが、嫌な気持ちにならないよう、とても気を遣いながら断り続けた。ヒラリヒラリ。
そんな日が、2ヶ月ほど続いた時、2人の関係に終わりがやってきた。
*
僕に、彼女ができたのだ。
彼女は、僕が、見ず知らずのおじさんと遊んでいるのが、怖いという。
田中さんに、別れを伝えなければならない。
「これからは、会えなくなってしまいます。すみません」
「そうか・・・残念だよ。でもおめでとう。今度、記念にプレゼントを持ってくるね。」
最後の日、
田中さんが、僕にシングルCDをくれた。
田中さんが、作詞したものだ。
その曲名は・・・
女の気持ち
わかってはいたけど、田中さんの心は、女性だった。
「私はね、女の気持ちがわかるんだよ。男性が好きなんだよ。
君との時間は楽しかった。ありがとう・・・」
*
あれから、およそ20年。
僕は、仕事の飲み会が嫌いで、誘われても断り続けている。
それでも、けっこう好かれている。(と思っている)
それは、あの夏、田中さんを嫌な気持ちにさせないよう、やんわり断り続けた経験が生きていると思っている。
ありがとう、田中さん。
お元気してますか?
〜完〜
人物名は仮名です。CDタイトルも、かなり近い名称ですが、仮名称にさせていただきました。