ミラノ暮らし、10年
ミラノにたどり着くまで
今週、ミラノに移り住んで10年となりました。少しだけ住んだヴェローナで大型タクシーを頼み、荷物を全部積み込んで到着したミラノは、サローネが始まっていて街に人が溢れ、藤の花が綺麗に咲き誇っていました。ミラノが一番華やかな季節。
2009年に東京からイタリアに。その年はスローフードが運営するUniversita' degli Scienze Gastronomiche 食科学大学の大学院にて1年間、イタリア食文化を学びました。日本の仕事はそのまま続けていたので、学生との二足の草鞋生活でしたが、いま考えると贅沢な時間。もう一度違うテーマで学び直したいほど。
その母校で2015年からはGastronomy in the Worldという1年間のマスタープログラムで日本の食文化を担当することになり、年に数回ですが教える立場になりました。毎回、間違えなく自分が一番学んでいるので、有難い機会に恵まれていると思います。大学のアカデミックな雰囲気に触れ、国際色豊かな若者たちと対峙するのは純粋に楽しいし、自国の文化を伝えられることは、やっぱり嬉しい。
たまたまここにいる、だった
1年間の大学生活を終えて、北イタリアの美しい都市ヴェローナにで数ヶ月過ごし、2010年の4月にミラノへ。私はイタリアの食品(加工品。生鮮品やワインは取り扱っていません)を日本に紹介しているので、イタリア中の畑や工房に足を運びます。日本に帰国するにしても、交通の拠点としてミラノは圧倒的に便利です。
また外国人も多く、地方出身者も多く、自分で異質である度合いが薄まるといいましょうか。ただパリやロンドンのようなコスモポリタンでなく規模も小さいし、ちょっと田舎っぽい。そこに安心感もあり。異邦人の一人暮らしにはちょうど良いと思っています、都市のほどよい加減の無関心と、ほどよいおせっかいなイタリアらしさのバランスも含めて。
20代に学生として2年ほど住んだパリに対して抱いたような熱意や愛をミラノには持てずにいました。ローマやべニス、フィレンツェのような美しさがあるわけでなく、どちらかというとビルが多く無表情。イタリアという国が好きで、仕事に便利、そしてほどよい都市の規模感、人の距離感が心地良いからたまたまたここにいる、という感覚がいつもどこかにありました。
そしてコロナがやって来た
まさかこんなことになるなんて。2月末から外出を控え、3月8日からはミラノを州都とするロンバルディア州に移動制限が発令され今日で39日目になります。私は幸い仕事ができ、この1ヶ月間はとにかく日本に荷物をだせるのか手配に必死だったので、瞬く間に過ぎていきました。
毎日18時に行われる市民保護局の記者会見が、暮らしの中で唯一時間を気にするイベントとなり、その日の感染者数、集中治療室の患者数、治癒した人の数、犠牲者数を追うことが日常に。この間いろんな感情が生まれました。無力さ、哀しみ、怒り、絶望、不安。そして祈り、光。
光は、人命があたりまえに最優先というこの国の姿勢。また人の善意。具体的には市民保護局が呼びかけた甚大な被害地への300名の医師タスクフォースの募集に8000近くの医師からの応募があったというニュース。(このニュースを聞いたとき、初めて泣く)その後の500名の看護士の募集にも9400名の応募が。これでもかというほどに深い傷を受けていても、まだイタリアには力と愛があるとわかったこと。
あまりに突然に日常が奪われてはじめて、いかにこのミラノという街が好きかを自覚した次第です。市場の賑わい、バールで新聞読みながらの朝ごはん、季節のものを郊外から運んでくれる八百屋さんとの会話、早く注文しないと怒られる近所の食堂。美しい中庭がある800年代のパラッツォ(建物)を通る散歩道、ゴツゴツ荒い石畳の自転車道、たっぷりの緑が気持ちよい公園。チェントロ(中心街)の美しいファサード、そしてゴシックの大聖堂・ドゥオモ、、、。
藤の花、綺麗なんだろうなぁと外の世界を思います。藤の花には間に合わなくても6月には、医療の現場も落ち着きが戻り、過酷な状況が過ぎ、私たちも外を闊歩できますように。そして世界に穏やかな日常が戻ってきますように。
追伸:今日の市民保護局の発表で、初めて検査数に締める感染者数が6%台となりました。3月までは20%ぐらいが平均的だったので、大きなサインです。まだまだ日々非現実的と感じるぐらい、多くの人が亡くなっていますが。
2020年4月15日 イタリアの状況
検査数43,715件
感染者数 2,667人(6.1%)
その他のデータ カッコ内は4月15日増加分
現在感染者数 105,418 (+1,127)
-うち症状なしあるいはごく軽症で自宅隔離 74,696 (+1,602)
-うち入院治療中 27,643( -368)
-うち集中治療室 3,079( -107)
犠牲者 21,645( +578)
治癒した人38,092( +962)
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