それって何クライミング?こんなにある「〇〇クライミング」
クライミングがオリンピック競技になり、「スポーツクライミング」という言葉がメディアで当たり前のように使われるようになりました。
一方で、山登りをする人は「アルパインクライミング」をしたり、有名な岩場では「フリークライミング」が行われています。
こうした「〇〇クライミング」という名称については厳格な分類がなされているわけではなく、曖昧で、人によっては違う意味で捉えられていることもあったりして、それによって誤解も生じているなぁと思うこともあります。
ここでは様々な「〇〇クライミング」という言葉について解説していきたいと思います。
登山と登攀と、クライミングの歴史
まず基本となる「クライミング」ですが英語の「climbing」は直訳すると「登る」で、例えば「mountain climbing」と言ったら「登山」のことです。
ただし、今回出てくるような「〇〇クライミング」で使うクライミングはいわゆる山登りは含まず、急峻な崖や岩を足だけではなく手や用具を使って登ることで、日本語では「登攀」と言います。それに対し、よじ登ったり用具を使ったりせずに歩いていく、「登山」は英語で「mountaineering」と言います。
さて、ここから歴史の話になりますが、「登攀 / climbing」はそもそも山を登るためのものでした。
山登りの歴史について詳しく説明するとキリがなく、ざっくり流れだけいうと、まだ未踏の山が多かった時代は、どんな手を使ってでも山の頂に立つことが目標で、アルプス級の高山に登るためにざまざまな技術が生み出されました。
まず行われたのが、安全を確保するためにボルトを打って、そこにアブミをかけて登る「人工登攀(エイドクライミング)/ aid climbing」です。
そして時代が移り変わり、メジャーな山々の初登がなされると、今度はその山のどの斜面をどう登ったか、ということに重きが置かれ。道具は安全確保のためのみに使用し、登攀は自分の力のみで行う「フリークライミング / free climbing」が勃興しました。
日本におけるフリークライミングの歴史に関しては以下が参考になります。
そして、この先はだいぶ端折りますが、そうした登攀をするクライマーたちが主にトレーニングとしてやっていたことが、徐々に広まり、オリンピック競技にまでなりました。
さて、ではそれぞれの「〇〇クライミングについて、どのような分類からどう呼ばれているのかを解説していきます。
どこを登るか
高山を登る: アルパインクライミング
登攀技術を使って高山を登ることを「アルパインクライミング」と言います。
登山の要素が大きく、場合によっては登攀要素がほとんどないような、バリエーションルートの延長のようなところでもアルパインクライミングと言われることもあります。
このあたりは初登時にどうだったとかの歴史的経緯があるかもしれません。
国内では、穂高、劔、谷川が三大岩場と言われ、このあたりにいく場合は「アルパインクライミング」と言えます。世界的にはアルプス山脈やヒマラヤ山脈などの印象が強く、標高的にもそれに伴う技術的にも違いが大きそうです。
山を登るのが目的なので、「フリークライミング」で登る場合もあれば、「エイドクライミング」で登ったり、「アイスクライミング」で登ったりすることもあります。
大岸壁を登る: マルチピッチクライミング
クライミングを行う際にはロープで安全を確保するのが基本ですが、そうなると、登れる距離がロープの長さによって制限されてしまうことになります。
複数に分割して登攀をする際の一本一本を「ピッチ」、複数のピッチを繋いで登ることを「マルチピッチクライミング」、その中でも特に1000mクラスの巨大岸壁を登ることを「ビッグウォールクライミング」と言い、アメリカ、カリフォルニア州のヨセミテのエル・キャピタンなどが有名です。
マルチピッチクライミングという言葉自体には複数のピッチを登る、という意味しかないので、広義にはアルパインもマルチの一種だし、短くてもピッチを切ればマルチということになります。
小川山レイバックもいちおうマルチです^^;
氷壁を登る
氷壁をアイスアックスやアイゼンを使って登ることを「アイスクライミング」と言います。
世界レベルのアルパインクライミングともなると標高が高く氷に覆われた世界なので、アイスクライミングの技術は必須となります。
日本では冬期アルパインと言っても雪や岩を登ることが多く、氷壁という感じにはならず、アイスクライミングと言えばしっかりと凍った滝を登る場合のことを差すことが多い気がします。
※自分自身、アイスはやらないためあまり確なことは言えません
まとめると、
高山を登る: アルパインクライミング
スタイルとして、フリーもエイドもアイスもある
大きい岸壁を登る:マルチピッチクライミング
ビッグウォールクライミング
氷壁を登る
アイスクライミング
ギアの使用ありかなしか
登る対象によって様々な呼び方があるのがわかりました。次に、同じルートを登る場合でも、ギアを使うか使わないかによって区別する呼び方について見ていきましょう。
ギアを活用して登る: エイドクライミング(人工登攀) / aid climbing
歴史のところで触れたように、クライミングの目的が登頂だった時代に採られた方法で、前進するためにボルトを打って、アブミをかけたりして人工物をaid: 補助にして登っていくスタイルです。
現在では、ボルトやそのたの人工物を残置することは自然保護の観点からよくないとされているため、積極的にエイドのルートを開拓することは少ないでしょう。
フリーで抜けられないときにボルトにかけたクイックドローやスリングを掴んで登ったり、過去に拓かれたエイドルートを登る場合にはありますが、この場合でもボルトを打ち足すことはないでしょう。
自らの力のみで登る: フリークライミング / free climbing
いよいよ本題っぽくなってきましたw
今、多くの人が「クライミング」として行っているのがこの「フリークライミング」です。
フリークライミングの「フリー」は「自由」の意味ではなく、aid free、つまりエイドを使わない、という意味で、「バリアフリー」とか「ストレスフリー」などと同じ意味のフリーです。
フリークライミングは更に分類があるのでそれに関しては後述します。
アックス・アイゼンなどを使う: アイスクライミング
登るためにアックスやアイゼンなど限られた道具を使うスタイルのことで、基本的には氷壁を登るための技術です。
岩と氷が混じっているところでアックスを使ったり使わなかったりすると「ミックスクライミング」と言ったりもします。
まとめると
ギアを活用して登る:エイドクライミング
自分の力のみで登る:フリークライミング
アックス・アイゼンなどを使って登る: アイスクライミング
フリークライミングのプロテクション設置による違い
フリークライミングは自らの力のみで岸壁を登っていきますが、安全を確保するためにプロテクションを設置し、ロープをかけて登っていきます。
プロテクションの取り方による違いは以下の通りです。
プロテクションを自ら設置して登る: トラッドクライミング / Trad climbing
岸壁をを登る際に、自らプロテクションを設置して登るスタイルです。
プロテクションにはカムやナッツといった、ナチュラルプロテクション(NP)が使われるため、トラッドで登るルートのことを"NPルート"ということもあります。
また、NPを設置するにはクラックが必要となるため、必然的にクラックのあるルートとなり、ジャミングなどの技術を用いた"クラッククライミング"となることが多いです。
ルートの途中でボルトがある場合にスポートとトラッドのミックスと言う意味で「ミックスクライミング」ということもあるようですがあまり聞いたことはありません。
一時期はやる人が少なくなりましたが、近年は自然保護の観点や過去に打たれたボルトの老朽化による管理の問題などから、見直されているようです。
ボルトが打ってあるルートを登る: スポーツクライミング / Sport Climbing
ボルトを打って、比較的に安全に登れるようにしたルートを登るスタイルです。
当初はトレーニング要素が強く、人工壁などは完全にトレーニングのためだったのが、今やオリンピック競技となり、現代フリークライミングの主流と言っていいでしょう。
ボルトがあるのでNPに対して「ボルトルート / bolted route」と言うこともあります。
ボルトを打つと言ってもやはり自然保護などの観点から最小限に留めるべきで、NPで登れるルートには設置しないことが多いため、クラックではなくフェイスを登ることがほとんどです。
フリーソロ / Free solo
アレックス・オノルド主演で「Free solo」というそのままのタイトルの映画が公開されたため、フリーソロと言ったらこれを思い浮かべる人が多いと思います。
しかし、実際ここまで冒険的なフリーソロは例外的で、一般的には簡単なルートを登るのに荷物を減らしたり、スピードを上げたりするためプロテクション無しで登っていくことがほとんどです。
ボルダリング、ボルダー / Bouldering, Boulder
「〇〇クライミング」ではないですが、スタイルとしては数メートル程度の岩をフリーソロするのがボルダリングです。
近年、競技の世界ではボルダーに統一されつつあるようですが、以前はボルダリングと言われており、日本でジムがバンバンできた頃にボルダリング、ボルダリングジム、という言葉が広まったこともあって根強い人気?があります。
ボルダリングも今や競技人口で言えばジムで登る人が多いと思いますが、ジムが増えたのはここ10年ほどで、それ以前は外岩で行うのが主流でした。
近年では外岩でも週末とも慣ればメジャーな岩場には人が多く集まり、クラッシュパッドが全面に敷き詰められていることも多いですが、80年代後半まではクラッシュパッドというものがなく、現在ある有名ルートのほとんどの初登はノーマットで登られているということもあり、今もノーマットスタイルを貫く人もいます。
また、ここまで出てきませんでしたがボルダリングに対してロープを使ったクライミングのことを「ルートクライミング」と言います。
まとめると
プロテクションを自ら設置して登る:トラッド / Traditional climbing
クラッククライミング / Crack climbing
ボルトが打ってあるルートを登る: スポーツ / Sport climbing
フェイスクライミング / Face climbing
プロテクションなしで岸壁を登る: フリーソロ / free solo
プロテクションなしで岩を登る: ボルダリング、ボルダー / Bouldering, Boulder
クライマーの登攀スタイルによる違い
ボルトルートにおいて、岩に設置されるのはクイックドローをかけるためのボルト及びハンガーのみで、クイックドロー自体は
マスタースタイル
ボルトに自らクイックドローをかけて登っていくスタイルです。マスタースタイルのリードクライミング、ということで単にマスターやマスタースタイルと言われます。
マルチやアルパイン、またシングルピッチでも外岩で最初に登る際はマスタースタイルになります。
マスタースタイルで、オンサイト=初見で登った場合はマスターオンサイト(MOS)と言います。
他人が登るのを見た場合などはオンサイトではなくレッドポイント(RP)となりますが、MRPという言い方はあまり用いられません。
NPの場合は、毎回自らプロテクションを設置して登るのが一般的なので、OS/RPでマスターの意味も含めるのが一般的で、プロテクションを事前に設置して登った場合はRPではなくPink Point(PP)と言われることもあります。
リードクライミング
クイックドロー設置済みのルートをクリップしながら登るスタイルです。
ヨーロッパで、クライミングが広まった際に、登られたルートに赤丸印を付けたことからこのスタイルで登ったことをレッドポイント(RP)と言い、クライミングで「完登した」といったらこのスタイルのことです。
一般的に「クライミング」と言った際に最もメジャーなスタイルがこのリードクライミングと言っていいでしょう。
Red Pointはドイツ語ではRot punktとなり、その起源についてはこちらの動画の前半に出てきます。
トップロープクライミング
終了点に張ったロープを使い、上から吊られる形で登るスタイルです。
このスタイルで落ちずに登ったことをホワイトポイント(WP)と言いますが、「完登」とは言わないことが一般的です。
トップロープで確保しながら、ロープをもう一本付けてクリップしていきリードの練習をすることを「疑似リード」と言ったりします。
まとめると
クイックドローを設置しながら登る: マスタースタイル
設置されたクイックドローを利用して登る:リードクライミング
上から吊られる形で登る: トップロープクライミング
コンテとスタカット、サイマルクライミングとピッチクライミング
クライミングを行う際の標準的なシステムは2名一組で行われます。一人が登っている間もう一人が確保することを「スタカット」、2名が同時に昇ることを「同時登攀」もしくは「コンテ(コンティニュアスビレイシステム)」と言うことがあります。
この言葉は日本の山岳会などで普及しているものと思われますが、正直どのように伝わったのかはよくわかりません。
コンティニュアス=continuousは「継続的な」という意味なので「同時」の意味は持ちませんし、"continuous belay"は別の意味で使われているようです。
参考) https://www.challengetowers.com/what-is-a-continuous-belay/
スタカットはStacuttoで、音楽で休符を意味する「スタッカート」と同じなので意味は伝わりますが、英語圏で使われている様子はありません。
英語圏では同時登攀のことを"simul climbing"、確保して登攀することを"pitching / pitch climbing"と言うようです。
最近では日本後でも"サイマルクライミング"、"ピッチクライミング"と呼ぶ動きも出てきているようで、以下の書籍ではこれらの言葉が使われています。
ソロクライミング
上記でクライミングのシステムは基本2人一組と述べましたが、それに対して一人でクライミングを行うことを「ソロクライミング」と言います。
通常「ソロクライミング」と言った場合はロープを使ったクライミングを一人ですることを指し、フリーソロは含みません。フリーソロは前述の通り、ノープロテクションで登ることなので、2人いても3人いてもそれぞれノープロテクションならフリーソロです。
ビレイヤーと行うクライミングと同様、リードとトップロープがあり、それぞれ「リードロープソロ / Lead rope solo (LRS)」「トップロープソロ / Top rope solo (TRS)」と言われます。
スポーツクライミング(競技)
クライミングがオリンピック競技となり、種目は以下3種目となっています。
リード
ボルダー
スピード
リード、ボルダーは基本的には前述した通りですが、競技においては細かいルールがあります。
例えばボルダーの場合、外岩では通常岩に乗り上がって完登となりますが、競技の場合は一番最後のホールド(トップホールド)を両手で持って安定したら完登したことになります。
リードの場合、ルール上クリップを飛ばしてはいけません。
プロテクションはルート設定者が安全を考慮して設置し、必要に応じてスリングの長さが調節されたりして、順当に行けば手順的に問題のない場所にあり、プロテクションさえ取っていれば大怪我につながることがないようになっているからです。
スピードに関しては、山との関連が薄いためあまり調べてませんm(_ _)m
スポーツクライミングとスポートクライミング、競技クライミング
トラッドとの比較で、ボルトを打ったルートを登ることをスポーツクライミングということは前述のとおりですが、一部では近年の競技クライミングと分けるために、外岩のボルトルートのことを「スポートクライミング」、競技を「スポーツクライミング」という人もいますが、どちらも同じ「Sport climbing」です。
英語圏では競技で行うクライミングを区別する場合には「Competition climbing」と言うので、日本語でも「競技クライミング」と呼ぶのが良さそうですが、協会(JMSCA)がスポーツクライミングを名乗っているので簡単には変わらなそうです。
英語のWikipedia、Competition climbingのページより
まとめ
以上、思いつく限り「〇〇クライミング」について解説してみました。
私自身、クライミング歴がそこまで長いわけではなく、ここ数年で調べたり自分がやっている中で理解したものをまとめたものなので、間違いもあるかもしれません。
その際はコメントなどでご指摘いただけると嬉しいです。
Happy climbing!