ロードバイクと仲間と② 世界に想いを馳せて
夏至のロングライド
6月の夏至にいちばん近い週末、私が所属しているサイクリングクラブ、RCC(Rapha Cycling Club)では、「The Longest Day」と銘打ち、明け方から日が暮れるまで、自転車に乗るというイベントが開催される。
クラブのライドリーダーたちが、いくつかのライドを立ち上げてくれて、そこにジョインしてもいいし、各自が自分なりのライドを企画するのもありだ。
今年の「The Longest Day」には、都内から自走で静岡にあるブルワリーまで200km近い道のりを自転車で走り、ビールで乾杯。帰りは自転車を輪行袋に入れ、新幹線で帰ってくるというライドにジョインした。
1グループ8人ぐらいで、いくつかのグループに分かれ、コースはそれぞれのライドリーダーオリジナル。ゴール地点は同じだから、最後は違うグループで走った仲間とも顔を合わせ、ビールを飲みながら、今日の旅の話で盛り上がる。名古屋から出発して合流するグループもあった。
地中海の国、キプロスからの参加者
私が参加したグループは、朝5時集合。東京在住のクラブメンバーたちに加えて、今回はキプロスから日本を旅行中という外国人もメンバーだった。東京でRCC東京の会員になり(RCCは世界各地に支部があるクラブだ)、クラブハウスで自転車をレンタルして、このライドに参加したのだという。
キプロスは地中海にある島国だ。自宅近くには山があり、よく、ロードバイクで近くの山を走っているという。
キプロスだなんて…。きっと景色のよいところなんだろうな…。
青い海がきれいで、東京発のライドなんかよりずっといい景色の中を日々走っているのだろうと想像してしまったが、旅で訪れる景色は、自分の日常と違えば違うほ ど、好奇心が刺激されて興味深く、エクサイティングだ。
尾根幹を抜け、長い上りの道志道へ。上りで遅れがちな私を、ときどき待ってもらったり、メンバーの誰かが合わせてくれたりしながら進み、道の駅でランチをとって、山中湖まで。そこから富士山の北側を回って静岡県の興津へと降りてくるルートは、アップダウンはあるものの、車通りの少ない林道や田園風景が続く、気持ちのよい道だった。
最後は海岸沿いをまっすぐ走り、静岡市の用宗漁港にあるブルワリーのゴールには17時半すぎに到着した。
先に到着して、隣接する温泉に入ってすでにさっぱりしているグループもいれば、上りの多いハードな道を選び、あとから到着するグループもいる。
それぞれのペースで飲み始め、乾杯し、今日はどんなコースを走ったとか、どんな寄り道をしたとか、話は尽きない。
地域を堪能できる、自転車海外旅
キプロスから参加した彼は、こんな充実した旅を体験できるなんてと興奮気味に語っていた。
「街でショッピングをしたり、電車やバスに乗って観光地を巡ったり。それだってOK、十分に楽しい旅だよ。だけど、こんなふうに日本の自転車仲間と出会って、決して一人では知りえなかった道を行き、走りながらずっとその風景を味わうなんて。こんな貴重な体験はほかにないよ」と。
私もキプロスの道を自転車で走る風景を見てみたいと思い、インスタグラムをフォローし合った。
共通の趣味があって、同じ道を走り、美しい景色に心打たれる体験を共有したら、英語なんてカタコトでも、気持ちは通じるのだ。
こうした体験は、この日が初めてではない。
前の年の「The Longest Day」では、同じグループにモザンビークからの参加者がいて、「モザンビークではまともな舗装路がほとんどないから、グラベルバイクじゃないと走れないんだよ」と、自分のグラベルロードバイク、スペシャライズドのディバージュにかなり太いタイヤをはかせて、炎天下の200kmを走った。
モザンビーク人と知り合ったのは、彼が初めてだ。いったいどんな場所なのだろうと、想像に胸がふくらむ。
日本好きで、仕事でもプライベートでもよく来日しているシンガポールの友人は、都内をめぐるグループライドで知り合ったのちSNSで交流が続き、その後、来日した際に郊外のライドを企画して一緒に走った。
先日はコロナがひと段落して数年ぶりに来日し、カフェで待ち合わせて朝のコーヒーを飲み、再会を喜んだ。
シドニー・グループライドの思い出
そもそも夫と私がRCCに加入したきっかけも、2017年のオーストラリア旅行だった。
シドニーのクラブハウス(現在は閉鎖してしまった)でロードバイクをレンタルし、平日早朝の市内グループライドに参加した。
夜明け前にクラブハウスに集合し、30kmほどのコースをグループで走り、最後はクラブハウスでコーヒーを飲む。「初心者ライド」という割には早いスピードにあたふたしながらも、面倒見のよいメンバーにフォローしてもらいながら、街を駆け抜ける。
オーストラリア独自の交通ルールや自転車の走り方も教えてもらいながら、安心して走れるのも、グループライドのメリットだ。
コーヒーを飲みながら、クラブハウスでシドニー郊外のおすすめルートや、そこまで行くときの注意点を教えてもらい、翌日は電車で輪行し、シドニー郊外で夫婦2人、ライドを楽しんだ。
ホーンズビーという駅からスタートし、緑豊かでアップダウンのある林道を走り、牧場の前を抜けて、カンガルー注意の看板に思わす立ち止まって写真を撮り…。
早朝ライドを一緒に走ったメンバーの何人かとはSNSでフォローし合い、今でも「こんな道を走っているんだな」などと、元気な様子が確認できてうれしい。
シドニー旅行が今でも私たち夫婦の特別な体験として心に残っていのも、趣味を通じた仲間との交流があってこそだ。
旅をするのも、旅人を迎えるのも楽しい。自転車でつながる地域、世界
なんだかRCCの宣伝のようになってしまったが、方法はRCCに限らず、いろいろあるのだと思う。
近くに住む仲間はもちろん、日本全国、自転車乗りはあらゆる場所にいて、彼らとの交流は自転車に乗る喜びや旅の楽しさを何倍、何十倍にも広げてくれる。
さらに、世界に目を向ければ、日本より自転車が趣味として定着している国はたくさんあり、たくさんの仲間がいる。
自転車は、世界へと通じる魅力的なツールでもあるのだ。
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