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夫をわが家のレク係に任命した

共通の趣味は自転車。得意なことは全く違う

うちの夫婦の共通の趣味は、なんといっても自転車だ。
2人してすっかりのめり込み、土、日のどちらかは必ずロードバイクかグラベルバイクで、近くでも遠くでも、どこかへ走りに行くし、旅行するにも“自転車に乗って楽しい場所”が条件だ。
2人とも旅が好きだし、旅先でおいしいものを食べるのが大好き。美しい景色に包まれることが快感だ。

ただ、もう少し細かく考えると、お互いの好きなこと、得意なことはだいぶ違う。
夫はそもそも、乗り物と機械いじりが大好物。結婚前はクラシックカーが趣味で、古い車をあれこれいじったり、修理したりして乗るのが楽しみだったし、今でも自転車のメンテナンスは夫の担当。
わが家のリビングの一角にはツーバイフォーの木材でつくったバイクラックに4台の自転車がかけてあり、半ば夫が自転車の整備をする作業場のようになっている。
自転車でどこを走るか、ルートを考えるのも夫の得意技だ。
平日でも暇さえあればGoogleマップを眺め、目的地に行くのにどんな道を通るとより車が少なくて快適か、景色がいいか、ライド中のちょっとしたアトラクションになりそうな坂や未舗装の道がないか、ずっと考えている。

一方、私は自転車で走って遠くまで行ったり、自然の中に包まれる感覚や、1日中体を動かす感覚を味わうことは大好きだし、仲間と一緒にワイワイ、いろんな場所に出かけるのも楽しみだ。行動力はあって、ここに行きたい!となったら宿泊先や交通手段の手配は素早く、全く苦にならない。
けれど、機械いじりは苦手だし、ひどい方向音痴。
夫がいなければ、おそらく自転車の整備は自転車屋さん任せ。初めての道を走るのは楽しいけれど、一人で走るなら、道に迷わないよう目的地までまっすぐ行ける無難な道か、走ったことのあるルートをトレースして走るし、毎回違う道を通ると、道を全く覚えられない。

時間があると、夫はパソコンに向かい、アプリを使ってルート作りに励む。
ときどき、このコースをこの時間で走れると思うかとか、立ち寄る休憩スポットはこれでいいと思うかとか、相談を受けはするけれど、
基本的には夫が作ってくれたルートのおかげで私は深く考えず、コースを堪能し、おいしいおやつやランチにもありつける。

好きなことに没頭しすぎな夫。文句を言いたくなるのを、ひと呼吸

けれど、一緒に暮らしているとイライラもするのだ。
その時間を使って、もう少し仕事のステップアップにつながるような勉強をするとか、もうちょっと実用的なことをしたらどうなのか。
だいたい今年2人で立ち上げた会社の設立に関わる面倒な事務作業や、お金にまつわることは、大部分を私がやっている。
夫に頼んでも、お金や事務に関することは苦手で、やろうと努力はするものの、ちょっとしたことに取り掛かってはなかなか進まず、気がつくとパソコンの画面は、自転車ルート作成のアプリに切り替わっていたりする。
私だって事務作業は夫よりはマシというだけで決して得意ではなく、試行錯誤しながらやっているというのに…。

文句を言いたくなるのをグッと堪えて、待てよ、と思い直す。
ルート作りに熱中することは、今すぐお金を稼ぐことにも、おなかがいっぱいになることにも直結はしないのだけれど、ここまで熱中し、楽しく走れるルートを作るのは、誰にでもできることではない。少なくとも私にはできない。
そして、おかげで私だけでなく、趣味の仲間たちも夫が作ったルートを一緒に走り、楽しみ、喜んでくれるのだ。
人に喜んでもらえる特技があるのは素晴らしいことだし、私もその仲間たちとの楽しい時間を、享受している。

ならばいっそのこと、わが家のレクリエーション係になってもらおう、と思いついた。

レク係として、役目を果たしてもらおう!

時間を忘れてルート作りをしていても文句を言わないから、走りがいのあるルートを作成し、おいしいカフェやレストランなどの立ち寄りスポットをリサーチし、レク係として責任を持って楽しませてください、ということだ。
ついでにその他のアウトドアレジャーの準備もお願いする。
そして私は、週末の遊びの準備や自転車の整備を夫に任せっきりでも、罪悪感や劣等感を持つのはやめよう、と。
正直に言えば、私は自分の時間が空いたら、ルートの下調べをしたり自転車の整備をしたりするよりは、読書をしたり、ネットフリックスで韓国ドラマを見ていたい。

「レク係として、責任を持って楽しい計画を立ててね」と夫に提案したら、まんざらでもなさそうだった。

猛暑日のイライラ。レク係失格!?

先日、とても暑い日曜日に、その日は2人だけで都内にある自宅から多摩湖、狭山湖を走り、埼玉県の飯能市に抜けた。
あまりの暑さに、つい2人ともイライラしてしまった。
体力を維持するために週1回は走りたいと言う気持ちで出てきたものの、昼間の最高気温は38℃。尋常ではない。

「ランチまで、あとどのくらい?」
と私が聞くと、
「わかんないよ。初めて走るルートなんだから」
と、夫。
朝から何度もサイクルコンピュータに表示されるルートを確認し、「こっちだったかな?」などとつぶやいている。
もともとその日は私の仕事の日程があいまいだったために事前に計画を立てることができず、直前になってどこに行くか迷って、自宅から自走で行ける範囲の目的地を決めたのだった。

お互い苛立った口調になる。
「こんなに暑いし、急に決めたんだから、行ったことあるルートにすればよかったじゃない」
と私。
この辺りまでは何度も来ているけれど、ルートは夫がずいぶん前にパソコン上で作ったまま、初めて走る道順だったのだ。
「だったら自分でやればいいだろ。だいたい、直前に決めるのは嫌なんだよ。前もって準備するから気持ちが盛り上がって楽しいんだよ」
かなり険悪なムードになってきたが、いったん近くのコンビニを探し、涼んでランチのお店の場所を再確認することにした。
予定していたお店まではあと5キロ。自転車ならもうすぐの場所だ。坂はあるけど、ゆっくり行けば問題ない。
ちょっとホッとしたとろで、
「レク係なんだからさ、前もって準備しなきゃとかつべこべ言わないで、ちゃんと楽しくなるように考えてよ」
と、最初は膨れっ面で、途中で半分笑い出しそうになりながら文句を言ったら、ちょっとすっきりした。

おいしく食べれば、それでよし

お店に着いて、ジビエハンバーグのランチセットを注文した。
メインの前に、新鮮なトウモロコシを使った冷たいポタージュと、たっぷりの野菜のサラダが出てきて、熱った体にうれしい。
「そうだね、レク係なんだから、つべこべ言わないで楽しいことを考えなきゃってことか」
と夫。

お腹いっぱい、栄養たっぷりのおいしい料理を食べて満足したあと、
ちょっとだけ遠回りして畑を横切る未舗装路を走り、牧場にアイスクリームを食べに向かう。

なかなか充実した一日になった。


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