連載版「十束神剣百鬼夜行千本塚」 #7
あっという間に僕の忍者は手際よく、そして念入りに荒縄で姉上を縛り上げた。それは見たことも無い縛り方であった。その姉上に帯同していた高嶺家に仕える忍者どもはどうなったかと言えば、ぞんざいに袋に詰められて床に転がっているのであった。未だに目を覚ます気配が一向に無いとはいえ、こっちの方を念入りに縛らないと危ないような気がするのだが。
「良いのです。そ奴ら男の忍者は珍しいだけで金になりませぬゆえ、袋の上から若様ご自慢の金棒で軽く叩いて総身の骨を折っておけば十分です」
……金にならない。そんなことは無いはずだが。今でこそ僕の忍者に一掃されれて床に転がされている彼らも、一見して中忍に相当する技量の忍者ばかりだった。僕が雇おうとすれば一年も経たずに我が家の財貨を出し尽くす羽目になるだろう。そこまで考えて我が家の忍者が空恐ろしいことを口走っていることに気が付いた。姉上は、金になる?
「はい。若様が高嶺様の口を封じることが出来ぬというならば止むを得ません。葦原に行って買い手を探しましょう。何と言っても高嶺家の姫君です。きっと高値が付くことでしょう」
葦原の名前は聞いたことがある。兄上は「侍が遊ぶ場所」だと言っていた。そして「多くの侍が身を持ち崩す悪所」であるとも。きっと賭け事でも盛んな街なのだろうと僕は思っていたのだが、何やら雲行が怪しくなってきた。
「若様、葦原とは女が売り買いされる場所なのです。父君も兄君も足繁く通われていたのですから悪し様に言うものではありませんよ? 何より、若様とて一人前の侍になれば、そこでお気に入りを見つけて楽しい一時を過ごされるようになるかと思います。……侍とは、そういう生き物なのですから」
売られた姉上は、どうなる? 何処かの家の下女として、飯を炊いて、風呂を沸かして、それから床を磨く日々を送ることになるのだろうか。それとも忍者としての想像を絶する厳しい修行を始めることになるのだろうか。
「買われた女は下女ではなく牛馬として扱われることになると思います。何にせよ、姫様は忍者の修行を始めるには少々お年を召しておられますので」
僕は馬小屋に繋がれて藁の上で眠りに就く姉上の姿を瞼の裏に思い描いた。確かに諸家の興亡は世の常かもしれない。僕の家だって、今まさに断絶の危機にある。しかし家が取り潰しとなろうが、男だろうが女だろうが、侍であろうと只人であろうと、一人の人間として生きることは出来るはずだ。そんな僕の煩悶を知ってか知らずか、僕の忍者が姉上の乳房を面白くもなさそうに揉んでいる。
「高嶺様。そういう次第でございますので、若様に何か言い残すことがあれば今のうちにどうぞ。若様も高嶺様の牛の如き乳房にお別れを告げるならば今のうちに御座いますよ」(続く)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?