連載版「十束神剣百鬼夜行千本塚」 #30
そして空拳入道とやらの群れが隊伍を組んで突撃してきた。見上げた根性ではあるまいか。まずは先頭集団に名誉の死をくれてやった。侍の命ともいえる金棒で叩き潰してやったのだ。先陣を切って挽肉になった仲間を見ても後続は怯まずに殴りかかってくる。当方は甲冑の上から殴られたところで痛くも痒くもないのだが。しかし僕の隣に躍り出た行商人が自慢の直剣を一振りするや、一度に三匹の怪異が細切れになって死んでいくのが不愉快ではあった。それから僕の方を見てニッカリ笑ったのだから尚更だ。
「へっへっへ。ご自慢の金棒も、数を恃んで押し寄せる小兵の群れを相手取るには分が悪いようで」
あまりにも酷い言い草だ。あんたを巻き込まないように遠慮しながら金棒を振っているのだと言ってやりたいところである。敵の群れに向き直る僕に対して行商人は尚も言い募った。
「おっとっとっと、お侍サマに喧嘩を売っているわけではありませんぜ。戦いは相手に合わせて取り回しの良い武器を使うが吉、そう言いたいだけでさ。お腰に付けた立派な剣は飾りなんですか?」
余計なお世話だ。それに鶏に牛刀の喩えもあるぞ、と言いかけて思いとどまる。それでは金棒よりも魔剣こそが大事に対して用いるべき武器だと認めているようではないか。
「へへ、それで抜くんですかい。それとも抜かないんですかい……?」
抜くか、抜かいでか。それが問題であった。よもや、この行商は僕が腰に吊っている剣が禁じられた魔剣であることを知りながら僕を焚きつけているのではないだろうか。逡巡する間にも、行商人の振るう眩い直剣は死肉の山を生み出し続けている。
「お侍さん、賭けをしませんか。今から怪異の首を獲った数を競うんです。負けた方は今日一日、勝った方の家来になるというのは」
受けて立つ、と言うことは出来なかった。後衛で沈黙を守っていた忍者の繰り出した空刃が怪異どもの首を一つ残らず刈り取っていたからだ。(続く)
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