連載版「十束神剣百鬼夜行千本塚」 #28
「……若様の偽らざる気持ちが私にも伝わりましてございます。打ち明けてくださったことを、家臣として嬉しく思います……」
僕の腕の中で忍者が瞑目して呟いた。それきり黙ってしまったのが恐ろしくなかったと言えば嘘になる。今後、大成する見込みの無い主君の首を今まさに手刀で刎ねる算段でもしているのかもしれないからだ。
「……そのようなことはしません。若様は未完の大器。いずれ、この十束の国にて一廉の人物となられることでしょう。かつての大王の如くに……」
僕が大王? まさしく大時代的な喩えであった。泰平の世に於いて、古代の王のようになるには如何なる手柄を立てればよいものか。
「何も戦功だけが手柄ではございません。太古の失せ物を見出せば、それも立身出世に続く道の一つとなるでしょう」
確かに王朝時代の貴人の装飾品には貴金属や宝玉としての価値だけではなく、往時の人々の暮らしを知る手がかりとしての価値が上乗せされるかもしれない。それも魔剣を探す冒険の途上で運よく見つかればの話だが。
「それが若様。この魔窟の最果てに魔剣をも凌ぐ剣、この国の成り立ちに関わる剣、王の王たる証とされる剣、神剣が眠っているとしたら如何です」
……神剣。それは雲を掴むような話にしか思えなかった。しかし、現実に僕の腰には既に二振りの魔剣があるのだ。世に魔剣があるならば、同じように神剣があってもおかしくはない。おかしくはないが……。
「若様は御存知ですか? この泰平の世にあって、将軍家に侍る忍者の仕事の一つに神剣の捜索が含まれていることを……」
周囲を憚るような忍者の囁きが僕の耳朶を打った。あの将軍家が、食い扶持を惜しんで、次から次へと武家を潰して止まぬ、あの将軍家が、忍者を使って絵空事めいた宝物の捜索に躍起になっているとでもいうのか。
「そして将軍家が為すことを❝火の巫女❞の一門が座して観ている筈もなく」(続く)
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