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連載版「十束神剣百鬼夜行千本塚」 #31

そういう事情で、僕は少将の位に就くことと相成った。それも大将、中将、少将の三人組における少将である。これでは母上の心の闇も晴れぬことであろう。ちなみに大将となりしは単独で敵の約半数を撃滅せし僕の忍者で、中将となりしは恐るべき剛剣を振るいし行き摺りの行商人である。

「へへ、残念です。アタシが大将になった暁には、ダンナにあんな事や、こんな事を合法的に強要できると思っていたのですが……」

行商人の刺すような視線が恐ろしい。五体が自由であるのに、手足を枷に嵌められた罪人の気持ちがわかるような気がした。仮に彼女が僕に無体な命令を出したとして、そして仮に僕の忍者がそれを諫めなければ僕は、その命令を果たさねばならないのだ。ちなみに僕は歌も踊りも出来はしない。笛も琴も駄目だ。出来るのは太鼓を叩いて雷鳴を呼び寄せることぐらいである。

「では、大将として命じます。中将、お前は放逐です」

行商人の笑顔が凍り付くように見えたが、そんな猶予は実際には無かったのかもしれない。毬のように丸い、墨のように黒い何かが突如として現れたかと思うや否や、膨らんで行商人を飲み込んだ。その「何か」が縮れて消えると、後には何も残りはしなかった。魔窟に足を踏み入れた時と同じように、玄室には僕と僕の忍者が二人で立ち尽くすばかりであった。

「はい、これで若様の心を乱す愚か者はいなくなりました」

人間が一人、目の前で消え失せた。戦って死んだのでも、魔窟の罠にかかったのでも、ましてや怪物に喰われたのでもない。今のも忍術であろうか。しかし僕が目の当たりにしたのは忍者が戦場から遁走する奇術とは違う。人間を問答無用で、それも文字通りの意味で消し去るなど尋常ではない。

「……ああ、彼女のことならば心配は無用です。今頃は裸一貫で魔窟の外に放り出されていることと思います。また会うこともあるかもしれませんね」

事もなげに僕の忍者は言い放った。いつもの調子で。(続く



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