連載版「十束神剣百鬼夜行千本塚」 #44

己を強いて掻盾を構えるも、般若の敵意は既に僕ではなく忍者に向けられている。どうやら僕は後回しにしても問題ない弱敵だと判断されたらしい。敵意に晒された後衛の忍者も戦意は十分、殺気に満ち満ちていると来た。
僕が田舎の貧乏侍の次男坊とて、それに加えて相手が怪異だとしても、「無い者」として扱われるのは堪えられなかった。悔しくて掻盾を叩いた。僕を無視して般若は突進し、それを忍者は紙一重で躱して風車めいた手裏剣を次から次へと投げている。悔しくて、更に力強く掻盾を叩いた。その騒音は魔窟に響き渡った。忍者が困惑している。般若も僕に向き直る。

「若様、その技を何処で……」

魔剣も金棒も通じなかった怪異が僕を黙らせるべく再び突進してきた。ここまでは僕の思惑通りだ。強がりではない。押して駄目なら引いてみるのだと兄上は言っていた。斬っても叩いても仕方ない敵を討ち滅ぼすには如何にすべきか。まだ試してない武器があるではないか。

「無謀です、若様……!」

一瞬で脱いだ甲冑を囮にして突進をやり過ごし、怪異の背後をとって、そのまま組み伏せた。斬っても叩いても仕方がないなら、ただ只管に力を加えてやるだけだ。まず二つに折った。更に二つに折って手頃な大きさになったところで、濡れた服を絞るようにして思い切り絞ってやった。
般若は断末魔の苦しみに怒り狂ったか、僕の手から逃れると青、黒、紫の炎をまき散らしながら凄まじい速さで玄室を右往左往した。まるで闇の色の花火、あるいは流れ星だった。玄室の中央に何かが落ちて来た。それは正真正銘、真っ当な寸法の般若の能面であった。僕は怪異の死を感じ取った。強敵の死を悼んで、僕はお面を拾って装備した。忍者の悲鳴が聞こえた。

「なりません、それを身に着けては……!」

外した。

「え……外せるのですか?」

外せない装備などあるものか。甲冑とて一人で着るのは難儀するが、脱ぐのは一瞬で出来るのだ。鍛錬の賜物である。(続く)

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