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連載版「十束神剣百鬼夜行千本塚」 #6

僕が、此処で、何をしているか。部屋住みの青二才が自分の部屋で食事をしているだけである。それ以外には何も話すことなどあるまい。

「若様、高嶺様には話しても良いかと存じます。魔剣のことを」

そっと忍者が僕に耳打ちする。それを見た姉上の刺すような視線が彼女に向けられた。「魔剣」の一語を聞き咎めたのであろう。

「二人で何か良からぬことを企んでいるのですね」

企んでいるのではない。既に実行に移している。僕は歪徒わいとの背の如く歪んだ剣を二振り、姉上の前に差し出した。これこそが今日の探索で手に入れた魔剣、僕の首を落とした〈首実検〉と僕の腹を刺した〈開腹丸〉である。姉上も只人とはいえ武門の家の女子、この武器が恐るべき禁制品であることは鞘を一見しただけで察したらしかった。

「お前、これは一体どういうつもりなのですか」

「察しの悪いお姫様ですね。父君を討つ為の備えですよ。それとも、若様が無策で試練に挑んで生きて帰ることが叶うとでも思っているのですか?」

一触即発。姉上の眉間に皺が寄る。忍者は判っているのだろうか。この一件を姉上が奉行所にでも知らせれば、僕は一巻の終わりである。そして姉上には僕を庇う理由が何一つとして無いのだ。それでも僕が法度を破って危険な綱渡りを始めたのは誰かに頼まれたのではない。自分の意思の赴くまま始めたことである。誰かを恨むのは筋違いというものであろう。進退窮まって天を仰ぎ見る。見慣れぬ忍者が見慣れた天井に張り付いていた。姉上に帯同する高嶺家の忍者であろう。こうやって目視した上で、更に目を凝らして一切の敵意が感じられない。凄まじい技量の隠身だった。

「ご安心を。話が外部に漏れることはありませぬ。眠らせておりますので」

ぼとり。顔も名も知らぬ高嶺家の忍者が床に落ちて来た。耳を凝らせば静かな寝息が聞こえてきた。一呼吸の後に、障子戸の向こうから、襖の奥から、同じような音が聞こえて来た。姉上は普段から三匹もの忍者を連れて歩いているということか。

「後は若様の秘密を知った高嶺様を口封じをすれば、めでたしめでたし。嗚呼、将来を誓い合った男子を失った姫君が悲しみのあまり彼の後を追う……という筋書きで良いですよね、若様?」

少しも良くない。なので、これ見よがしに忍者が振り回す鎖鎌を掴んで取り上げる。確かめるまでもなく僕の忍者が本気で姉上を始末する気など無いことは長い付き合いで判っている。その気になれば、瞬きをする間に背後に回って背骨を抜くなり手刀で胸を突くなり首を刎ねるなり出来るのだから。

「……おっと、本命は此処に潜んでいましたか」

僕の忍者が畳をひっくり返す。そこにも高嶺家の手の者が潜んでいた。

「ふふ、三つ見つければ安心してしまうのが只人のサガというものです。四つ目の罠があるなどとは誰も思わない……」

「……お前たち、私に何をさせようというのですか」

一人、残された姉上は青い顔をして呟いた。(続く)

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