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連載版「十束神剣百鬼夜行千本塚」 #25

「何はともあれ、アタシを力尽くで排除するのは悪手だというのが理解しておられるのは話が早くて助かります。時は金なりとも言いますのでね」

金尽くの行商は言ってのけた。金貨で時間が買えるとも思えないが、金があれば遠ざけられる煩わしさもあるだろう。

「そう来なくっちゃ。これでもアタシは頭の中で地図を書くのは得意なんです。力を合わせて、手際よく迷宮を踏破するとしましょうや……」

言うが早いが、石段を滑るように駆け下りてアッという間もなく行商人の姿は闇の中に消え失せた。ここで後れをとるわけには行かない。行く手に如何なる罠が待ち受けていようとも、侍が暗闇に臆したと思われるのは死ぬよりも辛いことだからだ。

「ところで若様、お腹など空かせてはいませんか」

勇気を出して最初の一歩を、まさに踏み出そうとした瞬間のことだった。

「いえ、差し出がましいことを言いました。ただ、平素であれば今頃は疾うに床に就いておられる時分。夜更かしなどをすれば小腹が空くものです」

ただ一人の僕の家臣が僕の身を案じての言葉だ。内心の苛立ちを抑えて、今は小腹も空いていないとだけ言って巨大な飯櫃を抱えた忍者に背を向けて階段に向かって今度こそ足を踏み出そうとした。その瞬間のことだった。

「ところで若様。そろそろ眠くなってなどいませんか」

眠くなどなるものか。此処に到るまでの魔法の如き高飛び、この玄室に充満していた瘴気を吸い込むことで垣間見た恐ろしい幻覚、そして敵か味方か、謎の行商と立て続けに僕を驚かせる事柄ばかりだったからだ。

「ところで若様。私としたことが、朝餉の支度をせずに屋敷を飛び出してしまったことを今更ながら思い出してしまいました」

さっきから何なのだ。なぜ僕の前進を阻もうとするのか。

「では率直に申し上げます。さっき若様が受け取った金貨を数えれば、怪異から姉君を取り戻して葦原に売り飛ばすことで得られる財貨など端金もいいところでございます」(続く)

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