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連載版「十束神剣百鬼夜行千本塚」 #29

……火の巫女。そして将軍家。何やら大掛かりな話になって来た。僕は自分の家を守りたいだけなのだ。どう考えても、その神剣とやらは僕の手には余る業物である。

「おっと、そうこうしている間に若様。石段の終わりと地下二層の床が見えて参りましたよ。一層とは比べ物にならぬ負の気、それから地の底に押し込められた怪異どもの憎悪が渦巻いているのが若様には感じ取れますか?

僕には忍者の言う気配は微塵も感じ取れなかった。もっともっと怪異を仕留めて負の気を身に纏い、敵からの憎悪を一身に集める必要があるようだ。

「申し訳ございません、そういった意図で言ったのではなく……おや?」

先行していた行商人が岩肌そのものと言った具合の玄室の床に倒れていた。うつ伏せでも仰向けでもない。肘を枕にして横臥している。具合でも悪いのかと問い掛けるべく近寄ろうとして思わず立ち止まる。行商人の視線の先に、僕らの行く手を何者かが陣形を組んで塞き止めているのだ。

「……やっと来ましたか。ヒヒッ、ひょっとすると家に帰りたがる家来を説得するのに手間取ってましたか?」

そいつらは一見すると僕の家を襲ったような牛馬の怪異とは似ても似つかない。何処にでもいる町人どもにしか見えないのだ。それが一匹だけならば。

「ヘヘヘ、心してお聞きください。どうやら私らが動くまでは連中も身動きが取れないようです。だからダンナが来るまで、アタシはご覧のように横になって待っていたという次第でさ……」

見方によっては暗がりの中で蠢く者どもの進軍を、行商人が眼差しだけで塞き止めているようにも見て取れる。行商人とは思えぬ器量であった。

「若様、あれは空拳入道くうけんたうろすですよ」

空拳入道と呼ばれた怪異を眺めてみる。外観は何処にでもいる町人のようであると思ったが、やはり奇異なのは肌の色だ。忍者のような夜の住人特有の白い肌とは違う。それは太陽の光を知らぬ者の青白い肌をしていた。(続く)

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