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連載版「十束神剣百鬼夜行千本塚」 #21

「とっておきの名剣、銅狸どうたぬきも旦那のお眼鏡に適いませんでしたか。するとですね。もしかしてアレを探しに、態々この魔窟に来たんですかい?」

御明察。僕は禁足地に忍び込んで、禁じられた魔剣を探して彷徨っている、と言うことは出来なかった。どうあっても口から言葉が出て来ないのだ。

「おっしゃる意味がわかりかねます。夕方、魔窟の入口が何者かによって開かれたままになっていると領民からの報告を受けた若様は、朝を待たずして飛び出したという次第でございまして……」

僕を庇うようにして前に出た忍者が口火を切った。僕が注連縄を千切って大岩を動かしたのは今日の昼頃のことであるから、地上に彷徨い出た〈歪徒〉が近隣住民を脅かしたのは事実であるかもしれなかった。

「なるほど。そうなると、勇猛果敢なお侍さんに一人だけ付き従うアンタも只者ではございませんね。相当に腕の立つ忍者とお見受けしやすが……」

「滅相もないことです。私は幼馴染の誼で若様に仕えることを許されただけの飯炊き女にございまして……」

一つ嘘をつけば、それを隠し通す為に更なる嘘を突き続けなければならないという。ただの飯炊き女が、どうして危険な魔窟の道連れに選ばれることがあるだろうか。その疑問に対する忍者の解答は不可解ここに極まるものであった。

「……私には戦いで昂った若様の内なる獣を鎮める役目があるからです」

「嘘でしょ」

一刀両断。真偽を保留するまでもない嘘だと行商人の眼差しは物語っているようだった。

「なぜ嘘だと思うのです。貴方が玄室に入って来なければ今頃、私は若様の、まだ青い糸瓜を口一杯に頬張っていたところで……」

僕の咳払いに、二人の視線が僕に集まった。どうやら声が出せるようになったらしい。そもそも魔剣のことなど言う必要もない。ただ、真夜中の怪異に拐かされた高嶺家の令嬢を連れ戻す為に危険を冒して魔窟に来ている。初めからそう言えば良かったというのに。(続く)

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