連載版「十束神剣百鬼夜行千本塚」 #12
地獄戦士とは何なのか。いや、考えるだけ無駄であろう。紆余曲折はあったにせよ、その戦士とやらも生者の国こと地上から姿を消して、今では僕ら侍の末裔が栄えているのだから。それも、このような子供騙しの与太話に一片でも歴史の真実が含まれているならばの話であるが。
「それがですね。この国の侍は地獄戦士どもに駆逐されているのですよ」
忍者が言い放った。ならば『最後の侍』とやらが何らかの奇策によって地獄戦士どもを掃討して地上に平和をもたらした、ということなのだろうか。
「いいえ。その最後の侍とやらは生き様も死に様も伝承には残っていません。きっと十把一絡げに平凡な殺され方をしたのでしょうね」
にべもなかった。とはいえ、大昔の出来事とはいえ侍の名前が残されていないというのは、つまりそういうことなのであろう。
「しかし、その奥方は夫と子の仇討ちを果たすべく一計を案じました。力でも数でも敵わない強敵に、どうやって対抗したものか……」
話が見えてきた。有用な教訓が含まれているならば、いかに荒唐無稽な与太話とはいえ時代を越えて語り継がれるのも納得がいくというものであった。
「その最初の忍者と呼ばれるようになった女性は、地獄戦士が寝床としている邸宅に潜り込みました。戦う為ではありません。彼らの為に歌って、踊って、美味しい料理と酒を振る舞い、自分に敵意がないと信じ込ませることに成功しました」
敵の弱点を探す為の内偵であろうか。強大な敵こそ意外な弱点を抱えているもの。敵を知り己を知れば、ということだ。
「……その忍者の本当の目的は地獄戦士の❝宝❞を持ち帰ることでした」
死の国の戦士どもの宝。死の呪いが込められた強力な武具であろうか。
「子宝ですよ。忍者は家族と住んでいた邸宅へ戻ると、誰の助けも借りずに地獄戦士との子を産み落としたということです。逆立ちしても勝てない怪物ならば、怪物の血を引いた人間を生み出せばいいと思ったのですね」(続く)
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