AG論証集の「手引」


AG論証集のうち、抑える必要がないと思われるものについて、独断と偏見に基づいて示します。

本当は、司法試験の採点実感、基本書の参照ページ、具体的な修正案などをまとめた一元化教材を作成し、販売しようと考えていたのですが、著作権法上の懸念点があり、同法に抵触しないとしても仁義を切ってAGに許可を取るなどをする余裕が今の私にはありません。

私は去年の予備試験論文を、法律学習から1年2ヶ月(勉強時間1800時間)の段階で受験し、大差落ち(900位)しているのですが、その敗因の一つとして、勝手がわかっておらず、論証集に掲載されている論点はすべて抑える必要があると思っていたところにあります。その結果、重要な論点に対する理解、暗記の精度が下がり、論点落としを繰り返し、当然のように大差落ちとなりました。

その後、司法試験の対策をする過程で、論証集の内容を本当に血肉化するためには、そもそも抑えるべき論点を絞る必要があると考えました。また、そもそも論証集の中には、論文で出るとは思えないものや、旧司の時代にあった伝統的論点と思われるものも散見され、その意味でもそのままでは実用に耐えないと考えています。

ということで、市販されている論証集のなかで、もっとも高品質であり、市場シェアが高いと思われるAGの論証集の「手引」を示すことにします。

この手引をもとに、今年の予備論文受験生が、ご自身の実力を十分に発揮できることを願ってやみません。

※本稿執筆者は、司法試験に在学中受験で合格しました(2023年11月追記)。

注意事項
削除推奨の論点が出題されても、私は責任を負いかねます。
・短答知識としては抑える必要があるものも含まれます。
・大上段として理解すべき必要があるものの、論証としては抑える必要がないものも含まれます。
・あくまで、私のように加齢によって記憶力が著しく低減した、弱者受験生のための戦略です。ここまで割り切って削除することに、異論はあるでしょう。
・「修正すべき論点」は、代表的なものを挙げているにとどまり、細かいところでは無限にあります。また、修正内容は私の趣味のようなものなので、参考程度でお願いします。客観的な誤りがあれば、訂正しますのでお知らせください。

憲法

不要です。私の定義集をおすすめします。

行政法

【削除すべき論点】
・法律の留保
・法律の留保と緊急の措置
・公法私法二元論
・租税法律関係における信義則
・行政計画と信義則
・委任命令の限界
・通達
・公定力
・瑕疵の治癒・違法行為の転換
・職権取消しに対する司法審査
・民事法上の強制執行と行政法上の強制執行の関係
・建物の使用許可の取消しと物の搬出の代執行
・行政調査手続に係る裁量の有無
・行政調査結果の他目的利用
・「正当の理由」(水道法15条1項)の意義
・受理概念の否定
・「届出」の不受理
・国家賠償法1条の法的性質
・国家賠償請求と公務員個人の責任
・申請に対する不作為の「違法」性

【修正すべき論点】
・公害防止協定
⇒全体的に長いのと、判旨の重要なポイントを的確にまとめられていません。基本行政法判例演習を参考に、自分なりにまとめ直しましょう。
・処分性
⇒土壌汚染対策法通知の重要判例が抜けていることが非常に痛いです。いつ出てもおかしくない判例なので、基本行政法判例演習を参考に追記しましょう。
・食品衛生法違反通知事件
⇒一種の行政指導というのは、判例に書いていないので、修正したほうがいいと思います。この前の論点の労災就学援護費の支給決定と併せて、この2つの超重要判例の論旨を的確にまとめた論証になっていないと思います。基本行政法判例演習を参考に、自分なりにまとめてみましょう。

【その他】
重要判例である君が代事件が抜けています。理解が難しい判例ですが、出されても文句は言えないので、自分なりのまとめを作りましょう。

民法

【削除すべき論点】
・法人学説
・目的の範囲内の意義
・目的の範囲の判断方法
・目的の範囲外の行為の効力
・法人の不法行為能力の肯否
・一般社団・財団法人法78条と理事個人の責任
・職務を行うについての意義
・一般社団・財団法人法78条又は77条5項と民法110条
・善意(94条2項)の意義
・第三者(94条2項)と登記の要否
・第三者(96条3項)と登記の要否
・代理行為の本質
・代理行為における他人効の根拠
・表示機関の錯誤
・代理権授与行為
・事務処理契約・代理権授与行為の瑕疵と第三者の関係
・代理と詐欺
・表見代理と無権代理の関係
・期限の利益喪失約款付債権の消滅時効の起算点
・時効学説
・物権行為の独自性
・登記が必要な物権変動の範囲
・二重譲渡の法律構成
・抵当権に基づく損害賠償請求
・法定地上権の成否
・共有と法定地上権
・代理受領
・債権侵害に対する不法行為の成否
・同時履行の抗弁権ー弁済証書
・不安の抗弁
・弁済提供と催告の関係
・土地利用権の瑕疵と担保責任ー2 土地利用権が地上権の場合
・担保責任の期間制限と消滅時効ー1 担保責任の期間制限
・担保責任と錯誤の関係
・賃貸借契約が債務不履行解除された場合の建物買取請求、造作買取請求の可否
・不法行為に基づく原状回復請求及び差止請求の可否
・失火責任法と特殊的不法行為
・土地の工作物の意義
・債務不履行責任と不法行為責任の関係
・遺留分侵害額請求に対する時効取得援用の可否

【修正すべき論点】
・分離物と第三者
⇒公示の衣説はもはや誰も支持していないので、学説で書くしかない本論点では、一定の支持がある学説に修正すべき。抵当権の対抗力が及ぶ範囲で抵当権の効力が及ぶという学説がいいと思う(安永第三版p275)。
・集合物の譲渡担保化
⇒一物一権主義の話を書く必要はないと思われる。意味不明な論証。ローの授業でも聞いたこともないし安永本にも書いてないと思われる(p429)。集合物論は書く必要はある。
・集合物譲渡担保における設定者側の譲渡(応用判例)
⇒集合物徹底論と集合物論を混同している。つまり、集合物論(判例)は個々の動産にも譲渡担保権の効力が及んでいると考えるところ、この論証は個々の動産には実行通知による固定化までは譲渡担保の効力が及んでいないとする集合物徹底論に立脚しているようにも読める(安永p431)。つまり、集合物論と集合物徹底論を接ぎ木するような論証になってしまい、印象が悪いと思う。
・保証債務の範囲
⇒保証債務の付従性と適合しない論証になっている。ローの授業ではこの条文解釈はおかしいとして、不文構成をとっていた。基本書でもこの解釈は発見できていない(潮見p624)。

【その他】
・集合物譲渡担保と物上代位の重要判例が抜けている
・安全配慮義務の論証を載せるなら、保護義務の論証も併せて載せて欲しい
・JR東海事件、サッカーボール事件という重要判例が抜けている
・建物の相続と居住利益(H8.12.17)の判例が抜けている

商法

【削除すべき論点】
・商人資格の取得時期
・「正当な事由」の意義
・9条1項後段と表見法理の適用関係
・「営業所」としての実質の要否
・504条本文とただし書の関係
・株券の成立時期
・株券発行前の株式譲渡の効力
・株券発行遅滞中の株式譲渡
・自己株式取得の規制違反の効果ー3 不法原因給付との関係
・自己株式取得の規制違反の効果~役員等の責任
・株式の持合いと譲渡制限契約
・代理人が指示に違反した場合の議決権行使の効力
・担保提供制度における「悪意」の意義

【修正すべき論点】
・善管注意義務と経営判断の原則
⇒規範が細かすぎる。予備校論証集の弊害の典型例。①判断の過程、②判断の内容に著しく不合理な点がないか、という覚えやすい規範でいいじゃないか。

【その他】
会社法事例演習教材第2部の範囲のうち、司法・予備で出題された以下の論点は自分なりに論証を準備する必要がある。
・デットエクイティスワップ
・キャッシュアウト
・優先株式の諸問題

民事訴訟法

【削除すべき論点】
・法人格なき社団の当事者能力・当事者適格ー32条1項類推適用
・訴訟物理論
・紛争管理権
・債権者代位訴訟と二重起訴
・送達と再審事由ー控訴の追完との関係
・証明責任の配分
・限定承認と遮断効ー事例2
・114条2項の「既判力を有する」の具体的内容
・法人格否認の法理における背後者への判決効の拡張ー事例2
・口頭弁論終結後の承継人の意義(訴訟物理論との関係)
・反訴請求と本訴との関連性
・固有必要的共同訴訟と非同調者の取扱いー2 給付の訴え

【修正すべき論点】
・死者を当事者とする訴訟
⇒訴えの提起の前後で場合分けしているのはよくわからない。瀬木民訴(初版p134)では任意的当事者変更と潜在的な訴訟係属を並列的に書いており、訴えの提起の前後で場合分けしているわけではない。
・和解権限の範囲
⇒2項の論証がグダりすぎている。つべこべ言わず、55条3項肯定説に経てば良い。
・一部請求の可否
⇒不意打ちの具体的内容(債務不存在確認の反訴)を書いていない。
・一部請求において残部を相殺の抗弁に供することの可否
⇒二重起訴の禁止の趣旨が妥当するとは判例は言っていない。
・訴訟契約(訴訟上の合意)
⇒証拠制限契約は、弁論主義になじむというのが通説ではないか(長谷部p11)
・訴訟上の形成権の行使
⇒「確かに~」以下がグダりすぎている。
・所有権の来歴経過
⇒「所有権の来歴経過」という名称がいかにも論点主義であり、金太郎飴答案に誘う。所有権喪失の抗弁の要件事実(=主要事実)であることを的確に理解していることを反映した論証にすべき。つまり、太字にする部分がおかしい。
・裁判上の自白の効力(裁判拘束力)
⇒まず、自白の定義を覚えることが先決なので、追記しましょう。
・権利自白
⇒日常的な法律概念(所有権など)については、私的自治になじみやすく、拘束力を認めて良い、とする論証のほうがいいと思います(H23司法)。
・争点効理論
⇒「基準が不明確」というのは典型的なダメ理由付けです。むしろ信義則のほうがよっぽど基準が不明確です。この理由付けを書くと低く評価されます。と、ローの授業で習いました。
・係争物の仮装譲渡と既判力
⇒グダりすぎ。固有の利益がないとして、素直に類推すればよい。
・類似必要的共同訴訟となる場合
⇒グダりすぎ。太字以外全部削除。
・類似必要的共同訴訟における一人の上訴の他の者への効果
⇒原告個人の利益が直接問題となっている場合に、全員が上訴人となる重要判例があるので、この判例の存在を排除するものではないことに注意(長谷部p340)。
・被承継人からの引受申し立ての可否
⇒グダりすぎ。素直に裁判例に従えば良い。
・承継原因がないことが判明した場合の処理
⇒理由付け意味不明。瀬木民訴(p604)の理由付け(既判力との関係)のほうが優れているのでは。
・上訴の利益
⇒昭和31年の規範を導く上で、グダりすぎ。太字以外削除。

刑法

【削除すべき論点】
・択一的競合
・仮定的因果関係
・故意の意味
・許された危険
・違法性の本質
・主観的違法要素
・被害者の推定的同意
・結果的加重犯における重い結果と過失
・事実の錯誤と法律の錯誤の区別
・規範的構成要件要素の錯誤
・作為義務の錯誤
・中止行為と結果発生との間の因果関係
・予備の中止
・予備の共同正犯
・教唆と精神的幇助の区別
・連鎖的共犯
・中立的行為による幇助
・「一個の行為」の意義
・監禁罪と恐喝罪の関係
・監禁罪と傷害罪の関係
・詐欺後の偽造文書行使
・詐欺後と背任罪の関係
・自殺関与罪の処罰根拠、実行の着手時期
・同意殺人罪における承諾と錯誤
・胎児性障害
・傷害の故意
・強制わいせつ罪における主観的要素の要否
・強制性交等致死傷罪における死傷結果に故意ある場合
・死者の居住権
・強盗致傷罪における傷害の程度
・財産上の利益(246Ⅱ)の意義ー2物の請求権の取得
・三角詐欺
・キセル乗車
・収賄と恐喝・詐欺


【修正すべき論点】
・具体的事実の錯誤
⇒正しくは「規範の問題」らしいです。教授いわく。なぜ問題を追記しないといけないのかは授業を聞いてもさっぱり分かりませんでした。
・違法性の錯誤(法律の錯誤)
⇒制限故意説で書かれているが、通説通り制限責任説でいいのでは。過失犯を論じる必要がないので。
・共謀の射程
⇒考慮要素(行為態様の類似性、法益侵害の同一性、犯意の単一性、動機目的の共通性)を追記すべき。
・共同正犯の成立要件(共謀共同正犯論)
⇒論証集記載の因果的共犯論に立つのであれば、準実行行為説に立つほうがいいと思われる。「相互利用補充関係~」の論証は、個人的にいつ読んでもよくわからない謎センテンスです、、
・詐欺罪の成立要件としての財産的損害の有無
⇒実質的個別財産説は削除しましょう。欺罔行為の要件で検討する必要があると、ローの授業では繰り返し教わりました。別要件として検討すると、判例の理解が怪しいとして、低く評価されると思われます。
・業務上横領と共犯
⇒この理由付けは現場で再現できないので、「罪名従属性を重視すべきだから」のような覚えやすい理由付けのほうが個人的にはいいと思います。そもそも理由付けすら不要かもしれませんが….。
・虚偽公文書作成罪の間接正犯
⇒判例と異なる立場から論証しているが、どうしてそんな天邪鬼なことをするのか?

【その他】
・論点以外に、構成要件の定義を覚える必要があるので、以下の定義集がおすすめです。

・刑法では、学説問題が出ます。秒速先生がTwitterであげてくださった論点と対応する基本刑法(総論第3版、各論第2版)の参照ページを示します。

①殺人罪の不真正不作為犯と保護責任者遺棄致死罪の区別 p25
②相当因果関係説VS危険の現実化説 p70
③間接正犯事例における故意なき幇助的道具 p314
④間接正犯の実行の着手時期 p261
⑤離隔犯における実行の着手時期 p261
⑥被害者の承諾における法益関係的錯誤説VS条件関係的錯誤説 p161
⑦実行の着手時期における形式的客観説、従来の実質的客観説、新しい客観説(危険性+密接性)の対立 p253
⑧原因において自由な行為の法理 P224
⑨承継的共同正犯 P390
⑩幇助の因果性における学説対立(条件関係の要否) p353
⑪逮捕・監禁罪における可能性自由説VS現実的自由説の対立 p56
⑫業務妨害罪の「業務」に公務が含まれるか p113
⑬窃盗罪における本権説VS占有説の対立(H27司法のように主観面で問題となる場合を含む) p131
⑭詐欺罪における意識的処分行為説VS無意識的処分行為説 p242
⑮「焼損」に関する学説対立 p373
⑯「公共の危険」の客観的範囲 p382
⑰「公共の危険」の認識の要否 p385
⑱代理名義の文書に関する学説対立 p422
⑲公務執行妨害罪の「公務」の範囲 p493

刑事訴訟法

【削除すべき論点】
・告訴を欠く親告罪捜査の可否
・告訴の客観的不可分
・告訴の主観的不可分
・無差別一斉検問の可否
・被処分者の承諾ある強制捜査の可否
・出頭要求と逮捕の必要性
・秘密録音ー1私人による秘密録音
・余罪捜査を理由とする接見指定
・面会接見
・控訴権濫用論
・訴因と罪数
・中間訴因が介在する場合の訴因変更の可否
・不適法訴因への変更の可否
・適法訴因への変更の可否
・321条1項2号前段における特進情況の要否
・「証明力を争う」「証拠」の範囲ー3「前の供述」である必要があるか。
・任意性のない第三者の供述の証拠能力
・違法性の承継
・共同被告人の供述ー1 共同被告人の証人適格・2 共同被告人の公判廷における被告人としての供述

【修正すべき論点】
・任意取調べの限界
⇒基本刑訴の立場では、行動の自由や意思決定の制約が問題となるのではなく、心身の苦労・疲労といった負担、不利益からの自由が被制約利益であることに注意。また、留め置きの場合も同様の論点が問題となることに注意(H28司法、基本刑訴p100)。
・一罪一逮捕・一勾留の原則
⇒次の論点との対比から、本論点はあくまで重複逮捕・重複勾留の原則を論証していることに注意。保釈中も勾留の効力は継続している。
また、全体的にグダりすぎているので、基本刑訴を参考に書き直したほうがいい。
・余罪取り調べの可否及び限界
⇒実体喪失説に立つ場合、本論点を独立して論じる必要性はないと思われる。
・場所に対する令状による捜索の範囲
⇒捜索・差押えの対象が、管理権者の管理権に服するのか不明な場合、令状の効力を的確に論じる必要があることに注意(H24・29司法、R4予備)。
・別件捜索・差押えの可否
⇒被疑事実関連性(99条1項)の問題性とすれば足りる。
・被告人に対する余罪の取調べ
⇒基本刑訴p168、H26刑訴に相当する内容がごっそり抜けている。
・共謀の日時・場所の特定の程度
⇒共謀は密かに行われるという、詳らかにすることが出来ない特殊事情を論証に的確に反映する必要がある(基本p156)。
・訴因変更の要否
⇒争点逸脱認定(R4司法)の論証が抜けている(基本p193)。確か昔の予備でも出ていたはず。
・自白法則の根拠
⇒違法性が認定出来ない場合(虚偽排除説)、毒樹の果実の理論を採ることが難しいので、別の理屈(自白法則貫徹説)を論証として用意する必要がある(リークエp446あたり)。司法試験でも出ている。
・択一的認定
⇒全体的に精査されていない。基本p322~を参考に、自分なりにまとめ直すことを勧める。

【その他】
・逮捕の理由・必要性(199条1項、199条2項但書、規則143条の3)、勾留の理由・必要性(207条1項、60条1項、87条1項)、勾留延長の要件(208条2項)は論文であてはめを聞かれることがあるので、必ず抑える。罪証隠滅・逃亡を判断する考慮要素(基本1p99)も抑える。
・領置の処理手順を追記する必要がある(基本p94)。


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