狩りと採り4
この山には親父と一緒に中学の頃から通っていた。もちろんその頃の自分はキノコ採りをするなどというレベルではない。ここに松茸が出てると言われても見つけられないような有様だ。ただ親父の後ろについて歩くだけ、到底戦力外だ。でも山を歩くのはとても好きだった。気持ちよくそして清々しかった。初秋の山には夏の盛りから実りの季節へと移り変わる何とも言えない趣きがある。汗だくになりながら山を駆け巡り、ふと立ち止まると爽やかな秋の風が全身を撫でてゆく。周りではチッチゼミが鳴き、遠くを眺めると木々の切れ間から山頂が少しだけ色づいたH山が見える。孤独な山のなかでそんな安らぎを感じる一瞬がとても好きだった。
20代の半ばくらいになるとB尾根とC尾根の松茸は最盛期を迎えた。今から25年程前だ。この頃はお袋も一緒にきのこ採りに行くようになっていた。3人でザルが一杯になるほどの松茸を取ったこともあった。今思えば誰でも松茸が取れる山だった。それくらい豊富に松茸が出ていたのだ。毎回B尾根から入り沢まで下ってC尾根を登っていくルートを通った。そしてC尾根を登り切る頃には3人ともそれなりの数の松茸をリュックに納めていた。そのなかでもやはり親父が取る松茸の数はスバ抜けていた。あの頃の親父も体力的にみてもまさしく絶頂期であっただろう。
それから仕事の転勤で他県に移動した自分は山から離れる年が続いた。忙しい毎日で山のことなど考える余裕もなかった。長い転勤が解けて地元に戻り、再度山に入ったのはあれから8年後のことだった。