狩りと採り2
山で遭難した場合、体力を奪うのは雨と風だ。食料や飲料の有無に関わらず、この二つが同時に起きれば確実に体力を削っていく。だが今のところ風は穏やかで空には月と満天の星が輝いている。10月も下旬に差し掛かったが気温もさほど低くはない。もし父が負傷して動けなかったとしてもこの山が命を守ってくれるだろう。
そう自分に言い聞かせてスマホを取り出した。電波はギリギリ繋がっていた。妻に電話を掛けて車を見つけたこと、車に父はいなかったことを伝えた。そして警察へ電話を掛けた。集中力で自分の脳がとてもクリアになっているのを感じた。今に至るまでの状況と現状を簡潔にまとめて説明することができた。警察からはこう言われた。準備ができ次第すぐにそちらに向かうと。ただ父の車のある山の中は危険なので、私には一度自分の車まで戻ってほしい。そこからもう一度警察に電話してほしい。そのGPSを頼りにそちらに向かうと。この警官もなかなかクリアな脳の持ち主だった。客観的に見ても的確な指示だろう。私は父の車を離れ妻の待つ自分の車に向かって来た道を戻っていった。