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コロナ前、最後の遠出。日本最長の洞窟へ

「穴があったら入りたい」と、強く思った。

だから私は、日本最長の洞窟へ潜ることにした。


冬の平日、夜に軽い気持ちで見始めた穴潜りアニメ「メイドインアビス」。

美しい背景美術、可愛らしいキャラ、精神を削られるような残酷な展開に心をやられながら、アニメの舞台である「アビス」について思いを馳せていた。

アビスは、約1900年前にとある孤島で発見された直径約1000メートル、深さ不明の縦穴である。

穴中に特殊な力場が存在するため地上からの観測は困難である。

縦穴は途中で何度か横に大きく広がっており、深界二層、四層、五層の広がりはアビスの入り口のある島自体より広く、五層に至っては果ての見えない広大な海のようになっている。

さらに、深層と地上では力場の影響で時間の流れすらも異なることが確認されており、深層での数年が地上での十数年の時間の経過となりうると予測されている。

ーーwikipediaより


ワクワクしないだろうか。
もう一度言う、ワクワクしないだろうか。

私はというと、ものすごくワクワクしてしまった

そして、とにかく穴という穴に入りたくなってしまった

私は思った。

旅に出よう。
出発は今週末。つまり3日後である。

旅に大切なのは、こういう勢いだと私は思う。

まずは穴を押さえる

すぐにgoogle mapで「洞窟」と調べる。
すると、岩手付近にたくさんの洞窟が固まっていることがわかった。

スクリーンショット 2020-12-19 16.31.50

自分の心が「入りたい!」と叫ぶまで、穴という穴を調べていく。
すると、こんな洞窟を見つけた。

2001年 12,786m, 2006年 23,700mと、 年を追う毎にその距離を伸ばし、 いまだに全貌が明らかにされていない、日本最長最古の迷宮型鍾乳洞
(ホームページより)


いまだに全貌が明らかにされていない
日本最長最古の迷宮型鍾乳洞

そして、明らかになっている部分だけの地図。

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名前を、「安家洞(あっかどう)」といった。

入りたい!

と心が叫んだ。
しかし、ホームページにはこう書いてあった。

「4月中旬~11月下旬 9:00~16:00 冬季休業

今は1月。完全にアウトである。
しかし、どうしても諦められなかった。

私はホームページを隅から隅まで、血眼になって探した。
すると、観光コースの他に「探検コース」というものがあることがわかった。

安家洞指定のガイドの方が、安家洞の奥深くまで皆さんを案内しています。(予約制)
12月からの冬季休業の期間でも探検コースは営業しています。

これだ。

結構値は張るが、全ては穴のためである。

私はすぐに電話をし、「探検4時間コース※」の予約をとり、当日、安家洞の前で大崎さん(担当ガイドの方)と待ち合わせすることになった。

※8時間まで可能

次に宿を押さえる

次は宿である。
洞窟にほど近い宿を調べてみると、インターネット経由で予約できる宿は全滅していた。だって出発3日後だもん。そりゃそうだ。

しかたなく電話する。

受話器からスロー再生のような音声がした。
おばあちゃんの声である。

開口一番、おばあちゃんはぶっきらぼうにこう言った。

うちは、観光客は泊めん

話を聞くと、岩泉付近で工事作業をする作業員のための宿で、観光客は泊まれないらしい。

私は焦った。

「そこをなんとか!朝食夕食抜きでもいいので!お手を煩わせませんから!!」

こっちは必死である。もう洞窟は予約してしまった。
3日後の出発を死守するためには、なんとしてもここで食い下がらなければならない。

あまりにも私が食い下がるので、おばあちゃんは不気味に思ったらしい。

「あんた、どこいくの」

冷たい声でこう聞かれた。

さて困った。

ここで正直に答えたら、ただの観光客と判断され二度とこの宿に泊まれなくなってしまう可能性が非常に高い。

ふと私は思い出した。先程、安家洞で私が予約したのは探検コースだった。
そう、穴に入ることは観光ではない。探検である。
私は胸を張って答えた。

安家洞に行きます

一瞬の間。

そして、

まあ〜〜!!はやくいってくれればええのに〜、泊まっていきなさい」

おばあちゃんが豹変した。

さっきまでのおばあちゃんとはまるで別人である。
この洞窟名は、RPGで言う「合言葉」だったのか。

何事もなかったかのようにトントン拍子に話がすすみ、
無事、宿を押さえることができた。

旅の支度は整った。

もう、あとは出発をするだけである。

そして洞窟へ

前日に盛岡入りをし、盛岡からバスで揺られることさらに2時間。
私は岩泉町にある「安家(あっか)」と呼ばれる場所にきていた。

季節は冬真っ只中で、周りはほぼ一面真っ白である。

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足元には深い雪。足を踏み出すために足を取られ、非常に歩きにくい。

「ここを登ったらもうすぐだよ」

軽々とあるきながら、ガイドの大崎さんは言った。
大崎さんは40代の男性で、このあたりの洞窟13個すべてガイドできるらしい。
縄梯子をしかけ、30メートルの昇降をこなすようなベテランのガイドである。そんな大崎さんと、洞窟はほぼ初めての私。

大丈夫だろうか。

雪に取られる我が足を見ながらそう思う。

「ここが入り口だ」

大崎さんが指をさす。私はその先を見た。

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防空壕だった。

防空壕を実際に見たことはない。でも圧倒的に防空壕だった。

門にはでかい南京錠がかかっていた。

門の鍵を外しながら大崎さんはいった。

「勝手に入られると、中で迷って死んでしまうから、常に鍵をかけてるんだよねえ」

そのとき私は思い出した。安家洞について調べているとき、google が私にサジェスチョンしたワードについて。

安家洞 遺体

ーー勢いに任せてここまできてしまったことを、今になって若干後悔し始める。

「さて、入るか」

大崎さんは私にヘルメットとヘッドライトを渡した。

そして「私を先頭にたたせて」ガイドを始めたのだった。

洗礼

入ってすぐ、大崎さんは「誰かが入ってこれないように」といって門に鍵をかけた。

いきなりさっき会ったばかりのおじさんと密室になり、若干焦る。

そのまま数歩歩いた。
洞窟に入った途端いきなり真っ暗になるかと思いきや、鉄格子から入ってくる明かりでまだ若干の明るさがあった。

ホッとしていたのもつかの間、私の視界はひっくり返った。

勢いよくコケてしまったのである。開始30秒で。

「やったなあ」

笑いながら大崎さんはいった。

入り口に入ってすぐ、地面が完全に凍結して氷の床をつくっていた。
ところどころぬかるんでいて、そのぬかるみに尻もちをついてしまったのである。結構濡れてしまった。

尻をさすりながら起き上がると、目の前に初めて見るものがあった。

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でかい、ツララである。

本物は、はじめて見た。

「入り口は外の空気が入ってくるから、気温が低くてすぐ凍りつくんだよねえ」

大崎さんはそういった。

萎えてきた気持ちが一気に期待に変わる。
高鳴る胸を抑え、今度は慎重に慎重に、足を進める。
低い低い天井を、腰をかがめながら進むと、また少し開けたところがあった。
なにか細長いものがにょきにょきしていた。

ヘッドライトで照らしてみる。

ーー驚いた。

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氷筍である。

そして、この氷筍、デカい。
どれくらいデカイかと言うと、↓このサイズ感である。

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天井から水滴がたれ、それが冷気によって冷やされるという過程が繰り返されて、筍のように伸びていくらしい。

私は氷筍に近づいた。

氷筍の頭の部分はくぼんでいた。天井からの水滴が氷に当たるたびに、ちょっとだけ氷筍が削れて穴をほっているらしい。

そのくぼみに溜まった水へ、天井から水が落ちてくるたびに様々な音がしていた。

くぼみが浅ければ高い音。深ければ低い音。

そんな音が、四方八方から聞こえていた。

まるで得体のしれない生物たちの集会場に来てしまったみたいだ。

そう、私は思った。

コウモリと別の惑星

少しずつ奥まで進んでいくと、岩壁にいくつもの黒い点が見えた。

コウモリである。図鑑などで逆さにぶら下がっている絵を見たことがあるが、本当に逆さにぶら下がっている。

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この洞窟には5種類のコウモリがいる、と大崎さんはいった。

時期的に冬眠をしているらしく、前足で自分たちの顔を隠していた。面白い。

たまに冬眠から覚めてしまった早起きのコウモリがいて、目の前をぐるぐる旋回しているヤツもいて、「コウモリにもいろんなヤツがいるなあ」と思った。

さらに進んでいく。

見たことない景色ばかりで、もう、ここが本当に地球なのかもよくわからなくなってくる


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別の惑星?

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地下水が溜まっている暗い暗い穴
深さはわからない

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ひっくり返った針山のような石柱

私が来たのは本当に岩手だったのだろうか。

どこかで空間がねじまがって、別の惑星に来てしまったのではないだろうか。

さっきまで期待に溢れていた心が、今度はどんどん不安になってくる。

そして神殿へ

「ここが神殿だ」

大崎さんは突然怪しいことを言って、天井の方を指差した。

天井を見る。

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無数の鍾乳石が天井からぶら下がっていた。

私は一瞬で理解した。「これはたしかに神殿だ」

大崎さんは言った。

「あの今にもくっつきそうな石筍と石柱があるでしょう。あれ、くっつくまでにあと100年はかかるね」

ここで私は理解した。

どこかで空間がねじまがって、別の惑星に来てしまったのではないだろうか。

間違っていた。ねじ曲がっていたのは空間じゃなくて時間だったのだ。

ここにあるすべての自然物の時間の流れる速さ。
それは私達とは桁が全く違う。
きっと、時の流れる速さが違いすぎて、空間に対して「異質さ」を感じていたのだろう。

人の世界では、時が流れるのが早いとよく言われる。

歳月人を待たず(さいげつひとをまたず)
光陰矢の如し(こういんやのごとし)
少年老い易く学成り難し(しょうねんおいやすくがくなりがたし)

よく使われることわざだってそう言っている。でもこれは、人基準だった。

洞窟は違う。

一滴一滴、永遠かと思うような時間をかけて、人間の目にはわからないくらい、毎日ほんの少しずつ成長していく。

あまりにも違いすぎて、私は少し悲しくなった。

2つ目の南京錠と、ヘンゼルとグレーテル

神殿からちょっと行くと、2つ目の門が見えた。

大崎さんが鍵を取り出す。

「ここから先は、観光コースから外れるよ」

そう言いながら、門を南京錠で開ける。

2人とも門の中に入った後、門の鍵を締めながら大崎さんは言った。

「鍵は門の前においておくね」

もし私に何かあったら、ここに置いてある鍵をつかって門を開けて脱出してね」

いつもなら「死亡フラグですか」と突っ込んでいただろう。
でも言えなかった。その時私は知った。

本当に死ぬ可能性があるときは、そんなツッコミ怖くてできない。


さらに大崎さんは言った。

「今から分かれ道を通る。帰りに迷うといけないから、目印をおきながら歩くよ」

そういって、輪ゴムで束ねられた大量の「黄色い反射板のようなもの」を私に見せた。それは矢印の形をしていた。

大崎さんが使い方を説明する。

・反射板を地面に置く
・少し歩く
・さっき置いた反射板が視界から消えるギリギリくらいで、再び反射板を置く
・この時気をつけないといけないのは、矢印の向き。自分が来た方向を指すように反射板を地面におかなければならない。
・帰りにこの反射板の矢印の向きに進めば、もときた方向に戻れる

私は思った。ヘンゼルとグレーテルだ。それも命に関わるやつ。

童話や寓話は道徳的な話が多いと思っていた。それはちょっと違って、現代サバイバルするために必要なことを教えてくれているのかもしれない。

「さあ、どんどん奥にいくよ」

終点

そこから先はかなりの悪路が続いた。

天井が、ほぼ頭一つ分の高さなこともあった。
匍匐前進するしかなかった。ゆっくりと、ゆっくりと進む。

自分という糸を、通路という穴に通すみたいに、針に糸を通すようなこともした。

どんどん自分が汚れていくのを感じる。
洞窟の中は8度で寒いはずなのに、体が火照って汗が出てくる。
それでまた余計に泥だらけになる。

枝分かれが何度も繰り返され、自分が山のどこあたりにいるのか全くわからない。
ここでヘッドライトの明かりが消えたら完全に詰んでしまう。

足を踏み外すと50mほど落下するような穴もあった。

今、結構死に近いところにいる気がする。

私はそう思った。

不思議と、気分は高揚していた。


「あっ」

その時は突然きた。大崎さんが小声で叫んだのだ。

「あーー、やっぱりだめだったかあ!」

大崎さんの目線の先には、穴があった。

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私にはなにがだめなのかわからなった。

穴の先には向こう側があった。向こう側があれば行けばいい。

しかし大崎さんは言った。

「よく見てみ。あの穴、ほとんど水でうまってる。水面から天井まで10cmもないよ」

目を凝らす。

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穴の形をよく見てみる。

穴の形はきれいだった。ある面を堺にして、完全に対称な形をしている。

完全に対称。対称といえば、鏡。

ーーようやくわかった。

私が穴だと思っていたのは、水面に逆さに写った天井だったのだ。

15のコピー

本当の水面はここだった。

あまりにも水面が凪いでいて、完全な鏡になっていた。

それを私は穴だと思ったのだ。

「そのまま進んでたら、溺れてたよ」

やっぱり死と近いところを歩いていたようだった。

大崎さんによると、山の雪解け水が溜まって池になると、このように道を隠してしまうことがあるそうだ。

「全行程の1/4ってところかな。残念だけど、ここで行き止まりだ。
 ちょっと休憩しよう」

大崎さんはそう言って、ザックから魔法瓶を出した。

洞窟の本当の姿

大崎さんが出してくれたコーヒーを飲みながら、私達は色んな話をした。

「洞窟ってどうやってできるか知ってるか?」

大崎さんは私に尋ねる。

私は「雨水が石灰岩を溶かして、それが再び凝固して...」と、教科書どおりの説明をした。

「確かによくそう言われてるね」大崎さんはそう言った。
「でも、僕はそうは思わん」そう続ける。

「この間、東北まで台風が来たのを知ってる?」

知っている。台風19号。岩手、宮城、福島3県で数十人の死者を出した、大きな被害をもたらした台風だ。

東北では「この間の台風」というとこの19号のことを指すという。

「その時、洞窟の様子が気になってね。見に来たんだけど」

「洞窟から、鉄砲水のように水が吹き出していたんだよ」

鉄格子の南京錠も破壊されるような勢いで。

そういって大崎さんは笑った。

「考えてみれば同然のことなんだ。山に大量の雨が降る。洞窟ってのは、地下水の通り道だ。そこに大量の水が集まって川になる。どんどん勢いをまして、外界に飛び出る」

「今私達が座ってるところなんて、完全に水の中だっただろうね」

私は想像する。この穴に水が満たされているところを。

大崎さんは続ける。

「洞窟の岩を見てみると、地上の河川と同じような地形がたくさんある。河岸段丘のような地形だったり、三日月湖のような形だったり」

「だから僕はこう仮説を立てた」

「洞窟は、すこしずつ成長するだけじゃない。ときに荒々しく削り取られて変化している」

大崎さんはそう言って目をキラキラさせた。

私は驚いた。

ここにあるすべての自然物の時間の流れる速さ。
それは私達とは桁が全く違う。

あまりにも違いすぎて、私は少し悲しくなった。

確かに洞窟は、永遠とも思えるようなゆっくりした時間の流れの中で生きているのかもしれない。

でも時々、一気にそれが加速する時がある。
そう。きっと洞窟の中の時間は、伸びたり縮んだりしている。

その伸び縮みの中で、私達人間と同じ速度になることもあっただろう。

そう考えると、ちょっとだけ嬉しかった。

「さて、そろそろ行くか」

そういって大崎さんは立ち上がった。残ったコーヒーを一気飲みして、私は立ち上がる。

帰路につく。

闇と黒

帰路は本当に早かった。

行きがけにおいてきた蛍光版の威力は絶大だった。ただ矢印をたどっていけばいいだけだった。

ありがとうヘンゼルとグレーテル。サバイバル術を教えてくれて。

そんな事を考えていると、大崎さんが立ち止まる。

「ライト、ちょっと消してみるか?」

そういって、ヘッドライトを外した。

「閉所恐怖症とか暗所恐怖症とか大丈夫?」

たぶんそうだったら洞窟に来てないと思う。

それもそうだな、といって大崎さんは笑った。


3つ数えるぞ。大崎さんはそういった。

3,

2,

ヘッドライトを消す。


目の前が真っ暗になった。

というのは嘘だった。

突然、すべての奥行きが0になった

目の前、という概念がきれいに消え去った。

前も後ろもない。左も右もない。

これは闇ではない、と本能が叫んだ。これは黒だ。

自分の肌にベッタリと黒い空間が張り付くような、初めての感覚。


薄暗い、ということを表現する時「物と物との境界が曖昧になる」といったりする。

でも、これは曖昧になるどころじゃない。

物と物の境界が、無い。

自分がどこまでも広がっていくような感覚がする。


ふと、耳を澄ますと、あちこちで水が垂れ落ちる音がした。

それは今までも聞こえていた。

でも、聞こえ方が全く違う。

目が見えていたときは、どっちの方角から音が来たのか分かる。


でも今は、「すべて頭の中で聞こえてくる」感覚だった。

それは、完全に未知の体験で、

私はあっけに取られてしまった。


突然黒が逃げていった。

大崎さんがヘッドライトをつけたのだ。

一瞬で、奥行きが戻ってきた。さっきまでの黒は、なかったかのようだった。

光が無いだけで、物の捉え方がここまで変わるのは、

衝撃だった。

「さて、帰るかね」

ニヤッとしながら大崎さんは言った。

写真

その後は早かった。あっという間に2つ目の門、1つ目の門を通過して、

あっという間に出口についてしまった。

「さて、寒いし帰りますか」

大崎さんはそう言って踵を返そうとした。

「ちょっとまってください」

そういって私は、大崎さんに一枚の写真をお願いした。

突然だが、私は普段エンジニアをしている。

所属している会社では様々な技術を使っている。
その技術の中で、とてもこの洞窟と親和性の高い技術があるのだ。

その技術の名は「Akka HTTP

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その瞬間にしか取れないものがあれば、とりあえず取っておく。

旅の写真って、みんなそんな感じだと思う。

旅の終わり

こうして4時間にわたる、洞窟の旅が終わった。

そして、もうこの旅からもう一年が経とうとしている。


一年前の旅のことを、なぜ今になって書こうと思ったのか。

それは、この本がきっかけだった。

ライターの岡田悠さん(@YuuuO)が書かれた、「0メートルの旅 日常を引き剥がす16の物語」という本である。

これが、本当に本当に面白かった。

コロナで遠出できない私の鬱屈した気持ちが、一行読む毎に少しずつ晴れわたる。

そして一冊を読んだ時無性に思った。

私も旅のことを書きたい。

そう思って無我夢中で書いたのが、この文章である。


こうして過去の旅に向かい合って気づいたことがある。

思い出を反芻することだって、旅なんじゃないか。

今回、PCの前からほとんど動かず一心不乱になって書いたこと。それは、間違いなく私にとっての0メートルの旅だった。

そしてこの心地よい旅も、後少しで終わろうとしている。

でもいつだって、この0メートルの旅には戻ってこれる。

自分に旅の記憶がある限り。


そう、思うのだ。

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