
【楽器紹介】金属弦ブレイハープ(op.344)
今回は、新たに設計・制作した金属弦ブレイハープ (op.344) を紹介したいと思います。ブレイハープはルネサンス期の西洋で広く演奏されてきた楽器で、ボスやメムリンクの絵画に描かれています。ウェールズでも伝統的に演奏され続けており、3列弦のハープが取り入れられるまでは「ウェルシュ・ハープ」といえばブレイ・ハープを指していました。
カーボン弦のブレイハープ
こちらの動画の中でも解説していますが、L字型のピンが弦に触れるか触れないかの位置に調整してあり、それによってマルハナバチの羽音のようなノイズが発生します。このように意図的に倍音を出す楽器はアフリカの楽器にも見られますし、日本の琵琶や三味線も同様にノイズが出るように作られています。
現代のオーケストラで用いられているハープの音とは全く異なる響きなので、初めて聞く方は「ハープの音じゃない」と思われることもありますが、ルネサンス期のステンドグラスや絵画に描かれた天使が奏でていたブレイハープの音色はこのような響きでした。
アーチドハープ等のきのこピンによるブレイ音
ブレイピンはL字型で作られていましたが、丸いきのこピンでも同様の音響効果が得られることを発見しました。私が制作しているカーボン弦のアーチドハープ、そこから派生した低テンションのカーボン弦ハープでもきのこピンを調整してブレイ音を出しています。
このような心地よいノイズが得られるのですが、今回これを金属弦ハープでやったらどうなるのかという実験をしてみました。多分、金属弦のブレイハープを設計、製作している人はいないんじゃないかな。
op.344 のモデルとなった12弦ハープ op.253
ブレイ音は弦の長さを長めにとって、テンションをできるだけゆるく張ると良い響きが得られることを経験上学んでいました。一方で、カーボン弦はかなり緩く張っても問題なくても、金属弦の場合は一定以上テンションを下げると極めて不快な響きになり、音程が聞き取れなくなることに気づいていました。そこで、なるべく長い弦でどこまで緩く張れるのか実験を行いました。モデルにしたのはG1というかなりの低音まで出る12弦の金属弦ハープ(op.253) です。チェロの最低音がC2なのでそれよりも完全4度低い音まで出ます。
このハープも支柱は付いていますが分類上はアーチドハープになります。これをコンパクトにして今回弦長等を計算しなおして、設計、制作したのが13弦の国産ホオ/ヒノキ製金属弦ハープ(op.344) です。このハープははじめチェロの C2-A3 に調弦してこれ以上低い音域は難しそうでした。コンパクトで1050gとかなり軽く、op.253の3分の1程度の軽さになりました。
op.344 ブレイ付き C2-A3
カーボン弦のブレイハープが上品に聞こえるほど強烈なノイズを発生させています。これはこれで良いのかもしれませんが、音程が聞き取りづらいです。
音域変更F2-D4 ブレイ付き
そこで、ここから逆に音程を高くしていきました。おそらくG2-E4 位まで上げても良さそうでしたが、なるべく低テンションにしたかったので F2-D4 で調整してみました。この音域でブレイなし→ブレイオンの動画を撮ったのでお聞きください。
いかがでしょうか。先ほどのC2よりも聞きやすい気がします。
うるさいはうるさいのですが、メロディが聞き取りやすいです。楽しいダンス音楽によく調和します。奏でているといろんなことがどうでも良くなってくるような、ハッピーな気分になる大変依存性の強い音色です。
ブレイなしの音
無論、ブレイをオフにして演奏することも可能です。
最低音のみF2→D2に下げて調弦しています。
アーチドハープのように爪を使って半音操作をすることもできます。
讃美歌の Abide with me を弾いてみました。スコルダトゥーラ(変則調弦)を使って、さらにきのこピンで半音操作をしています。
低音のみブレイ
イタリア映画『自転車泥棒』(1948)で主人公のアントニオが自転車を盗まれるシーンで物乞いの少年がアコーディオンで演奏している曲を弾いてみました。これは低音の2弦のみブレイオンにしています。
次の動画は一番低い弦だけブレイオンにしてみました。
ブレイオンにすると倍音がうるさすぎるので、伴奏は単音だけで十分過ぎます。金属ブレイはまだまだ可能性があるハープなので、色々編曲して動画を上げていきたいと思います。
制作依頼受付
このハープは私が実験用に作ったもので、全く同じものは作れませんが、似たようなモデルの制作依頼は税込11万円で承ります。全額先払い、キャンセル不可。
op.344の画像









前身
実は金属弦ブレイハープは今回初めて思いついた楽器ではなく、かなり昔、2016年3月に制作した11弦のホワイトアッシュ製金属弦ハープ(op.46) という楽器がありました。