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伊賀焼のこと

ども、か~まいんです。
今日は地元の陶器祭りに行ってきましたので、陶磁器について少しお話してみますね。

焼物には陶器と磁器があるのはみなさんご存じですよね。
陶器は土物と呼ばれ、地面から掘り出した粘土を主に使ったもので、磁器はカオリン等の溶けた後にガラス質になる粘土を使ったもの言うのですが、見分け方のはいろいろあって

陶器:ごつくて表面がざらざらしている。叩くと鈍い音がする。光を通さない。
磁器:薄くてつやつやしている。叩くとガラスのようなキンッ!という音がする。薄いものは光が透過する。

他にもいろんな説がありますが、私が知ってるのはこんな感じです。

私の出身地は伊賀焼という陶器の窯元が沢山ある所でした。
父がある窯元の先生と懇意にしており、高校生の頃に伊賀焼の登り窯に火を入れている所を見せてもらった際、その場でお手伝いをしたことがきっかけとなり、そちらの登り窯に火を入れるときは、いつしか夜間の窯の番として呼ばれるようになりました。

伊賀焼の登り窯は、山の壁面に炉室を組んだもので、薪は必ず「赤松」を使います。
最近ではコストダウンのために雑木を使ったり、そもそも登り窯ではなく灰釉をかけたものを電気釜で焼いたりしている作品もありますが、古典的な伊賀焼は、登り窯を使い、赤松の灰をかぶるように焼成します。

私がお邪魔していた窯元は、この伝統的な伊賀焼の製法をなさっている所で、年に2~3回程度、登り窯に火を入れておられたと思います。

窯入れの最初は、窯の正面にお神酒を備え、良い作品が出来るように祈ります。
火を入れた最初の頃は、先生が自分で窯の様子を見ます。
窯の内部がおおよそ1,000℃を超えるくらいまでは先生が火を見て、私は、日が落ちてから翌日朝になるまでの夜間、窯の火を守っていました。

先生の窯は最低でも3日間、火を焚き続けます。
温度が上がらなければ4日以上焚くこともありました。

最初の夜の私の仕事は、この温度をできるだけ上げることです。
最終的には1,300℃まで温度を上昇させるのですが、ただ無尽蔵に薪を放り込むだけではこの温度になりません。

登り窯の特徴として「焔が走る」という言葉があります。
山の斜面を利用して作られた登り窯は、窯の中の温度が上がると上昇気流が発生し、それが斜面に沿って焔と熱せられた空気を窯の上まで運ぶのですが、窯の正面や側面の穴からそれをみると、山肌を焔が駆け上がっていくように見えます。

この走る焔を見極めながら、窯が薪を欲しがっている時に放り込むという作業を三日三晩続けます。

まずは、登り窯の口を薪で塞ぎます。
薪が徐々に燃えてくるので、それに合わせて少しずつ薪を窯の奥へ押し入れていきます。
そうして、窯の面と薪の面が並んだら、今度は薪の隙間から窯の様子を覗います。

窯の中は、焔が激しくうねって眩しく、焔色しか見えません。
ですが、薪が燃えていくにしたがって、口いっぱいに詰めてあった薪に隙が生まれ、そこから空気が吸い込まれていくと、窯の奥にぼんやりと暗くではあるけれど、中に入っている茶碗や花器の輪郭がおぼろげに見えてきます。

こんな風に「焔が透ける」状態になったら、窯の口に残っている薪をすべて中に落とし、真ん中に一本、なるべく窯の奥に届くように薪を投げ入れ、同じように左右にも1本ずつ、これは見えている焼物に当てないように、でもなるべく遠くまで投げ入れます。
あとは、最初と同じように窯の口に薪を詰めて、同じことを繰り返していきます。

それ以外では、窯の様子をみながら薪を鉈で小割にしたり、1時間に一度温度計の数値を記録したりしながら、一晩窯の前で過ごします。

私はこのお手伝いがとても好きでした。

眠いし、埃っぽいし、全身灰塗れで鼻の中まで真っ黒になるし、あと、もし、うっかり眠って火を落としてしまったら作品を台無しにしてしまうかもしれないという緊張感もありました。

でも、それ以上に肌に感じる1,300℃の照り返しや焔のにおい、薪の爆ぜる音、肺に入る空気の熱さと背中に感じる外気温の冷たさ、焔を見つめ続けている時のトランスに近い昂揚感、虫の声、トタンを打つ雨の音、薪を落とした時に煙突から空に吹き上がっていく螺旋状の焔と火の粉、霧の中から白んでいく空、体中の感覚が研ぎ澄まされているのに、見えない薄い膜があって「繋がれない」感覚。

上手く言い表せませんが、そんな状況に自分が「ある」ことが、とても気持ちよかったんですよ。

私も家庭をもつようになり、残念ながら流石に無茶なお手伝いが出来なくなって久しくなりました。
先生も亡くなられ、そちらの窯元とも年々縁が薄くなってきましたが、あの時の経験は私の人生の中でも深い底の部分に、ひっそりと残っている気がします。

さて、最後になりますが、実は私には鼻毛がありません。
1,300℃の窯の熱気を吸い込み続けたせいで、どうやら鼻の中の毛根が死んでしまったようです。

もし、お知り合いに古式豊かな登り窯で陶芸をしている方がいらっしゃったら、是非鼻毛があるかどうか聞いてみてくださいねw

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