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【11日目】サンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼ポルトガルの道 Briallos → Padrón すべては下見です

2023/05/28
BriallosからPadrón 28km

薄明

6:00
起床、昨日は雨、そして到着が遅かったのもあり、洗濯物の乾きが悪い。インナーの速乾靴下にウールの靴下を重ね、ズボンの裾を織り上げる。

このタイミングでフィルムチェンジ

6:30出発
ブドウ畑の間の道をゆく。朝の湿り気。無風。白濁した空気。その条件のためか、液体の底を歩いているようだ。さっそくカメラを取り出す。

SIGMA dp3 Quattro ƒ/11 1/1 50 mm ISO 400
SIGMA dp3 Quattro ƒ/2.8 1/125 50 mm ISO 400

7:21
今日の第1巡礼者のカタツムリ氏を撮影。これまで被写体を見つけてもチャンスを逃すということはよくあった。ネコなんかはその代表で、こちらは撮りたいと思ってもたいていはそそくさと消えてしまう。またはいい景色だなと思っても、歩みがノッて来ていたり、急いでいたり、案外写真を撮るタイミングというのも難しい。歩くのにも惰性があって、立ち止まるのもちょっとした決断となる。自分みたいな歩行者ですらそう思うのだから、自転車などではもっと億劫になるに違いない。それでも僕なんかは結構写真を多く撮っている方だと思う。

お前もゆくのか、巡礼の道を。
SIGMA dp3 Quattro ƒ/5.6 1/10 50 mm ISO 100

つらつら「逃げないでいてくれる被写体はありがたい」などと思っていたら、案外とカタツムリが進んでしまった。そろそろ移動しろというメッセージか。

SIGMA dp3 Quattro ƒ/2.8 1/125 50 mm ISO 400
電線に掛かる靴
SIGMA dp3 Quattro ƒ/4.5 1/200 50 mm ISO 100
SIGMA dp3 Quattro ƒ/16 1/40 50 mm ISO 100
SIGMA dp3 Quattro ƒ/13 1/80 50 mm ISO 400
SIGMA dp3 Quattro ƒ/4.5 1/100 50 mm ISO 100
SIGMA dp3 Quattro ƒ/3.5 1/100 50 mm ISO 100

7:41
Tivoの集落の道標であと46.850km。マラソンひとっ走りくらいの距離には来たらしい。

SIGMA dp3 Quattro ƒ/6.3 1/80 50 mm ISO 400
SIGMA dp3 Quattro ƒ/2.8 1/160 50 mm ISO 400


Caldas de Reisの道案内


SIGMA dp3 Quattro ƒ/11 1/100 50 mm ISO 400


レアスタンプ

8:13
Caldas de Reisを通過。市中心に川が流れ橋がかかる。軽く腰掛けて水分を補給した。

山道の入口に移動交番

9:00
ツーリストポリスが林への入り口で巡礼者に声掛け運動をしている。巡礼者の数が突如としてぐっと増えてきた。
今日は、この①カルダス・デ・レイスCaldas de Reis北の山道、②ポンテセスーレスPontecesures、③ポンテベドラPontevedraというようなルートで巡回するらしい。

珍しい市民警察 GUARDIA CIVIL のハンコをゲット

スタンプを押してくれるというのが親しみやすくて良い。僕も押してもらった。
「困ったことがあったら112にかけてくれ(スペインの110番)」

9:30 曇り空だったが、一部から日がさして朝日が眩しくなる。
気温は15℃から26℃と言ったあたり。湿気がある。

白馬伝説

SIGMA dp3 Quattro ƒ/11 1/160 50 mm ISO 100
SIGMA dp3 Quattro ƒ/11 1/160 50 mm ISO 100

9:50
 村の教会で休憩。ミサ待ちのおじさんたち。今日は日曜日だ。僕は石垣に腰を掛けて休憩させてもらうことにした。おじさんの一人が尖塔の鐘へとつながる長い紐を引き、手動で10時に始まる呼びかけの鐘を鳴らす。10分おきに2回鳴らしていた。

教会をあとにして進むと、地元の人達が教会に向かっていった。ガリシアの教会も集客力ある。

道端に白馬
SIGMA dp3 Quattro ƒ/5.6 1/125 50 mm ISO 100

10:00
道端に白馬がいて、その輝く馬体に驚いた。何も物を知らぬような瞳だが、長く見ていると自分の方も同様に見られていることに気が付き、なんだか知らないが恥ずかしくなってきた。写真を撮るのも程々にしよう。
巡礼者にとって白馬は意味がある。聖ヤコブは白馬にまたがっているからだ。

Giovanni Battista Tiepolo,"Saint James the Great Conquering the Moors"  ジョヴァンニ・バッティスタ・ティエポロ『ムーア人殺しの聖ヤコブ』

中世イベリア半島はイスラム勢力に支配されていた。どれくらい支配されていたかと言うと、まあ半島のほとんどだ。その半島北部にキリスト教を信奉するアストゥリアス王国があり、苦境に立たされている。なんせ処女100人を貢物にする約束まで強いられているのである。時の王ラミロ1世はこれを不満として戦いに出るが返り討ちに会い、クラビホ城に立て籠もる。そこで夢を見た。聖ヤコブ(サンティアゴ)が勝利を約束するのである。そして844年5月23日に白馬に乗った聖ヤコブが加勢してラミロ1世は勝利する。この出来事でかつてこの地で布教活動していただけのヤコブはイスラム勢力との戦いの象徴「Santiago Matamorosムーア人殺しの聖ヤコブ」としてキリスト教世界にその姿を現すのである。

今日、聖ヤコブはイベリア半島での布教とレコンキスタへの加勢、中南米へのキリスト教布教に至るまで、伝説の中では大車輪の活躍をしている。言説の殆どは史実とは考えられないだろう。それでもイベリア半島のキリスト教徒がイスラム勢力に虐げられる中で、自分たちの守護者としてヤコブに託していたたものは垣間見える。エルサレムからもローマからも程遠いこの地にあって、神とのつながりを彼によって感じられた。キリストの弟子の中でも初期メンバーのヤコブが目をかけてくれているんだから自分たちは大丈夫。そんな願いが垣間見える。

ヤコブもしっかりと期待に答えて、いろんな奇跡を起こしたりしている。巡礼者にも彼の気配りは及び、その様子がカリクストゥス写本の第二の書である『奇跡の書』に23個ものエピソードとして収められている。目や耳の不自由が治っちゃうなんてのは序の口で、手足の再生、あらゆる病気の治癒も守備範囲、果ては死者も生き返らせている。

これらの奇跡の中で、特に人気があったのは、サンティアゴ・デ・コンポステーラへ向かう途中で病気になった巡礼者の物語である。彼は仲間を置きざりにされたが、一人の男だけは最後まで彼を看病した。病気になった巡礼者がなくなると、馬に乗った聖ヤコブが枕元にあらわれて、死んだ巡礼者と最後まで看病した男を馬に乗せ、ふたりをサンティアゴ・デ・コンポステーラまで連れて行ったという。

グザヴィエ・バラル・イ・アルテ 著 / 杉崎 泰一郎 監修 / 遠藤 ゆかり 訳
『サンティアゴ・デ・コンポステーラと巡礼の道』(2013),創元社「知の再発見」双書159,p94

改めて馬を見る。これはヤコブの呼び出しを待つ、待機中の白馬に違いない。

振り向いて歩きだすと、すぐ近くの家から少女たちが3人出てきて、それぞれが馬を引いていた。小学生の少女たちが、自分たちの馬を1頭1頭持っていて世話をしている。馬の名はそれぞれファロ、アラビア、シーラというそうだ。巡礼者の増加で聖ヤコブが忙しくなった時、彼女らが手伝いをするのかもしれない。馬のある暮らしを守り続けている村と少女たち。その全体像が環境ごと愛おしいと感じられた。

今日は民営の巡礼宿に

11:50
アップダウンもある山道を抜けて、集落のチャペル近くに、レストランがあった。巡礼者ホイホイで昼も近いこのタイミングだと、人をさばききれていなかった。行列を見て諦めて先を進む。

SIGMA dp3 Quattro ƒ/16 1/200 50 mm ISO 100

12:30 Pontecesuresに入る。目的地のパドロンPadrónももう近い

13:00 高台の学校のあるあたりで写真。

SIGMA dp3 Quattro ƒ/6.3 1/500 50 mm ISO 100
SIGMA dp3 Quattro ƒ/6.3 1/500 50 mm ISO 100
市が立つ。昼過ぎると終わりかけている。

13:50パドロンPadrónではフェイラ(市)が立っていた。

14:10
アルベルゲに入る。Albergue & Rooms Murgadán
今日は民営のアルベルゲにしてみることにした。

今回の旅においてもっとも新しいベッドに出会う。受付の女性がシーツまで敷いてくれた。ちょっとしたサービスが嬉しく感じた。荷物を置いてシャワーを浴び、洗濯をした。大急ぎでことを済ませ外に出る。

こちらはカルメンの泉Fuente del Carmen

なんでも伝説では聖ヤコブが杖でポンと突いたら出てきたという泉だ。日本だと空海がよく似たようなことやってるやつだ。

カルメ修道院から町を望む View from Convento do Carme
SIGMA dp3 Quattro ƒ/4 1/125 50 mm ISO 200

タコ料理再び

15:00
受付でおすすめのレストランは聞いておいた。プッペリア・リアルPupperia Rialでタコ料理。1983年開業とあるので、まあそれでも40年経っているレストラン。30分ほど待ったが、座席数も多く回転は良い。

タコは非常に柔らかくて味もある。
赤ワインはオリジナルのデカンタで

Media de Polbo(タコの油炒めハーフサイズ)タコの油炒めにじゃがいものバター味。ワインのデカンタを盃で飲むスタイル。

サラダ
メインMedia de Polbo
ビール
ワイン(デカンタ)
プリン
コーヒー
日本円で4500円ってところか。

ペドロン? パドロン?

17:30
ポルトガルの道を来た巡礼者の一つの利点は、自ずとこのパドロンに立ち寄る事であろう。
パドロンはサンティアゴ巡礼伝説の始まりの地と行っても良い場所だ。聖ヤコブはパレスチナで処刑されたあと、弟子たちによって石船に乗せられ、かつて布教したというよしみでイベリアの地に運ばれた。どこあろうこのパドロン、かつてイリア・フラビアと呼ばれたところだ。(実際の場所はすこし離れた場所らしい)
弟子の二人はそこにあったローマの祭壇石=ペドロンPedron、これに船を舫(もや)う。ペドロンPedronとはPedra(石)+on(拡大語尾)で大きな石の意味だろう。パドロン教区サンチャゴ教会Igrexa parroquial de Santiago de Padrónにはこの石が安置されている。町の名はそこからPadrónになった。

見たい。見たいが、気づくのが遅かった。まあ今回は下見だ。またいずれ来るさ。そう思って心を落ち着かせた。

19:00
宿にもどり資料整理を始める。
すると、宿から出かけていく観光の一団。いや巡礼観光団か。こんなアルベルゲに団体観光客の宿泊があるのだろうか。

この時間でもまだ明るい。

21:50
ひょっとしてと思い立ち教会に行き、居合わせてた人に、明朝は早くから開いてないか訊いていてみた。
「少しは早く開いてるかもしれないけど、九時とか・・・」。別の女性が話に加わり、すごく早くから開いていることはないという。
 残念。朝早く出るか。待って出るか。最悪十時出発になる。諦めよう。これは下見だ。下見なのだ。

 宿に戻り、身辺を整えて、寝床でケータイを眺める。到着を明日に控えこの時間にに公式サイトを見てみたら


1795 pilgrims have arrived today
1795人が到着したと書いてある。

現実に人々が到達しているのだ。明日はその一人になる。そしてサンティアゴ到着後のことにも初めて考えを巡らせた。

コインブラ行きのバスチケットを買う。

クレデンシャルの文章を読む。信仰無き自分に巡礼の資格があるのかわからなくなる。


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