見出し画像

『リンドグレーン』

2019/12/28 岩波ホールにて

『長くつ下のピッピ』『はるかな国の兄弟』などで知られる、アストリッド・リンドグレーンの半生を描いた作品。

アストリッド・リンドグレーンと、その作品についてはあまりよく知らなかった。
ただ、GWにスウェーデンへ旅行したこともあり、実際にスウェーデンで留学経験のある先輩と見にいくことになった。

アストリッドは少女時代から好奇心旺盛で、素直で、エネルギーに溢れていた。なんでも自分の自由に、周りを気にせずに、やりたいことをやった。だから、男の子にダンスに誘われなくても、一人で踊ってその場を自分の色に変えてしまう。才能をかわれて、地元の新聞社で今でいうインターン(?)として働き出す。

時としてそのエネルギーはアストリッドを苦しい道へ導く。インターン先の新聞社のお偉いさんと恋に落ち、若くして懐妊する。お偉いさんと婚約をし、都会の学校へ出て秘書コースで勉強し始めた。

スウェーデンでの宗教(キリスト教)も、聖書に書かれた教えや戒律に厳格であったんだと感じるシーンだった。これは日本人にとってあまり近くには感じられないことだろう。その教えに背いたということ、離婚裁判中のお偉いさんとの婚約や赤ん坊を育てていけるかという不安の中、当時たった一人で都会へ出たのはアストリッドだからこそできたことだと思う。

しかしながら、離婚裁判は長引き、その不安は払拭できない。秘書の仕事は持ち前の才能を発揮しつつ、どんどん新しい不安がアストリッドの心を占領する。スウェーデンより遠いデンマークでラーズを出産する。

最愛の息子に会いに行っても、ママだと思ってくれないのはかなり辛そうだった。子どもだからこそ、嫌だとはっきり言うし、あのアストリッドさえ接しかたがわからない。だけど、結局は愛だ。

アストリッドは愛情だけでなく、すべての感情に素直で女性らしいいっぽうで、若い時からいろんな困難にぶつかってたくましさもある。何しろ、自分がどんなに苦しく悲しい状況にあっても、生きようとする気持ちがある。とても人間らしくて、わたしは好きだ。

人による技術革新によって、人を豊かにするいっぽうで、その豊かさは今までの人間の生き方のつたない部分を修正していくみたいだ。便利さは忘れさせる。タイピングが普及して、漢字が書けなくなるように。今までの人間の進化の歴史を忘れてしまったら、人間は人間でいられるのだろうか。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?