習作・ショートショートのようなもの① 「部屋」
気づくと丸い部屋の中だった。
壁が明るい。
いつからここにいるのか思い出せないが、居心地の良い場所だ。
静かに時が過ぎる。
壁の明るさが周期的に変わる。
真っ暗な時から、だんだんと明るくなり、しばらくするとまた少しずつ暗くなり、再び真っ暗になる。
その繰り返しだ。
それで時がうつろうのを知る。
いつもぼんやり寝て過ごしているが、腹が減ると、いつものスープを飲む。
スープはいつも決まった場所から飲める。
毎日そうやって過ごしていた。
体がだんだん部屋の大きさに近づいていった。
体が、部屋いっぱいいっぱいになりそうな頃、
体の中がむずがゆくなってきた。
腹も空かなくなってきたが、体の中がかゆくて、そして痛くなり…そのうちひどく眠くなってきた。
時々、体の中が痛さやかゆさで目が覚めるが、またひどい眠気に襲われ眠ってしまう。
体のかゆみも痛みもなくなったころ、今度は熱いのに気づいた。
それは体の中からでなくて、外から来る熱さだった。
どのくらい経っただろう。熱さが強くなっていき、堪らなくなって、体を動かすと、パリン。
体のそばで何かが裂けた。
熱い。
息苦しい。
たまらず部屋の壁を破ろうともがいた。
しばらくもがいていると、急に息が軽くなった。
そして、まぶしい光とともに、嗅いだことのない匂いに包まれた。
いろいろ交じった匂い。
まぶしい。
体が揺さぶられ、どこかへ飛ばされそうになる。
とにかくそばにあるものにしがみついた。
全て初めての体験。
まぶしい光に慣れてくる。
体が断続的に揺さぶられるも、それにも慣れてきて落ち着いてきた。
すると無性に動きたくなった。
ふとみると、自分と同じようにあたりを見回している奴がいる。
その時、雑多な匂いの中に、旨そうな匂いがしてきた。
腹が減った。久しぶりの感覚だ。
そいつもその匂いに気づいたのか、飛んでいった。
なんだあいつ、良いなぁ。
俺もああしたいなぁ…そう思った瞬間、体が浮いた。
背中の羽根が動いていた。
自由だ!
自由だ!
周りは広い。
壁なんかない。
さっきまで居た場所が見えた。
快適な場所だったが、この自由には代えられない。
宙を夢中で上に向かっている時、ものすごい大きな生き物が、近づいてきた。
やばい、逃げなければ!
逃げながら、そいつから目が離せなかった。
そいつは、今しがた居た場所を見ていた。
そして、俺がいた場所をむしり取って言った。
「おい、虫こぶが出来てるよ」