【 Care’s World case 04 限られた時間の中で、今しかできない私なりの看護を 〜看護師 しほさん 〜 / -前編- 】
“ケアすることは、生きること”
そんなテーマでお送りしているCare’s World。
今回の主人公は、看護師のしほさんです。
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人に寄り添う看護
しほ:私にとって看護師は身近な存在でした。それは母や親戚に看護師が多かったからかもしれません。幼少期は「バレーボール選手になりたい!」と思っていました。
心の中で「看護師になる」と決めたのは高校時代に経験した病院での職場体験でした。その時間を通して感じたんです。「人が生まれてから亡くなるまでに関われる職業って看護師しかないのでは?」って。
そこから看護の専門学校へ進学しました。もちろん、辛いことも多かったです。国試もあるし、実習もあるし、挫けそうなことも何度もありました。
でも、一緒に頑張れる友達がいたおかげで「頑張れる、まだやれる」って思えたんです。国試の前には神社へ一緒に行って神頼みしたこともありました。その時の友達とは今でも連絡取り合ったり、たまに会ったり、良い関係が続いています。
専門学校を卒業後は県外の急性期(※1)の病院で数年働きました。看護師になったのはよかったですが、わからないことだらけで毎日必死でした。それでも、地道に頑張ってきたことで少しずつ力をつけ、3~4年目になるとプリセプターやアソシエイト(※2)を担うことになります。
しほ:ただ、次第に立場が上になるにつれて「これは、本当に私がしたかった看護なのか?」と思うようになりました。一人一人の患者さんと向き合う時間が少なくなってきていると感じ始めたのが大きな理由です。
日々の業務に追われてしまう状況に嫌になってしまう自分もいました。一番ショックだったのは、話をしていた患者さんに「私のことはいいから、他の患者さんにところへ行ってあげて」と言わせてしまったことでした。
そんな時、1年目研修の際に看護師として想いを綴った紙を見つけました。そこにこのように書いてあったんです。「“人に寄り添う看護”をしたい」って。それを見た瞬間「私、それができてるのかな?」と振り返ったら、明らかに“できていないな…”と感じて…。それで、その職場を退職することを決めました。
急性期の現場は命の危機が迫るケースが多く、早い段階で処置を行うことが重要です。それは確かにそうです。でも、単に話を聞いてほしい・ただそばにいてほしい、という人も中にはいらっしゃいます。
そこが蔑ろになっている気がしていたと同時に、そこまで手が届いていない自分がとても歯痒かった…。だから、業務とは異なる違った意味でのケアもやってみたい。そう思うようになりました。
今しかできないことを
しほ:退職した病院ではすごいお世話になった副師長さんがいらっしゃいました。その方の言葉が今でも大きく影響しています。「病院の中なんて、まだまだ小さい世界だよ」「医療の世界が全てじゃない、だから、もっといろんな人に出会っておいで」って。
その言葉があったから、病院を辞めた後に「やりたい」と思ったことを実際アクションできたんだと思います。実は、病院を退職した後はパン屋さんで働くことにしたんです。看護師じゃない今だからこそ、今しかできないことをやってみたい。そう思った時、パン屋さんが頭によぎったんです。
とはいえ、正直、母にそれを伝えるときは緊張しました。でも、母は「いいんじゃない?やってみれば?」と私のことを否定せず、背中を押してくれました。そこからはトントン拍子でコトが進んでいき、とあるパン屋さんのオープニングスタッフとして働くことになりました。
当たり前のことですが、医療現場とは全然スタッフの雰囲気も違っていて、その違いが楽しかったです。学生さんもいれば、年上のママさんたちもいて。あるママさんとは今でも文通のやりとりをしています。
その方もいろんなお仕事を経験されていましたし、お子さんとも仲良くなって、病院の中にずっといたら決してなかった出会いがたくさんあったなと思います。
しほ:そんな中、新型コロナウイルスが蔓延し始め、世の中ではネガティブなニュースばかり飛び交うようになってきました。
故郷の鹿児島に戻った方がいいのではないか?看護師の資格がある私の力を今活かすときなのかもしれない。
その時期からそう思うようになりました。何より辛かったのは家族に会えないことでした。電話やメールはできても、直接会うことが普通にできない。いつでも会えるのが当たり前じゃなくなっていている状況もあって、パン屋を辞める決心をしました。
でも、オープニングから関わって1年程経っていたからか、スタッフとも信頼関係がある中で辞めることに後ろめたさもあって…。だからこその言いづらさもありました。
勇気を振り絞って、みんなに自分の想いを伝えると意外な反応が待っていました。「いつか看護師に戻ると思っていたよ」「行っておいで、いつでも戻ってきていいから」と嬉しい言葉が返ってきたんです。
加えて「“辞める”って、いつ言われるのかドキドキしてたよ」と言われて、皆は私が思っていた以上に私のことを思ってくれていたのだと感じました。私が勝手にネガティブなことばかり考えてしまっていたんです。この仲間と一緒に仕事ができてよかった…。心の底からそう思いました。
(後編へ)
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