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目からウロコ! 保育環境の「枠」のとらえ方
1 環境の「枠」を見直してみよう
保育における環境構成は、子どもの発達と学びを豊かにするために、意図的かつ計画的に行われるべき重要な取り組みです。環境とは、子どもを取り巻く全てのものであり、空間、物、人、時間、温度、明暗、規則、文化、歴史など、目に見えるものから見えないものまで、あらゆる要素が複雑に絡み合っています。
環境構成を考える上では、次の点が重要になります。
「枠」の見直し 10の視点
従来の保育環境は、場所、時間、領域、目的、役割などの「枠」に捉われがちです。これらの「枠」を見直すことで、新たな発想や資源を開拓し、保育を豊かにすることができます。ここでは、10の視点から枠の見直しを提案します。
〇場所の「枠」: 保育室や園庭だけでなく、テラスや園外、地域社会など、場所の境界を超えた環境を考慮します。
〇時間の「枠」: 主活動の時間だけでなく、通園時間、食事時間、午睡時間など、一日全体の時間、さらには年度や学期などの区切り方も見直します。
〇子どもの視点::環境構成は、子どもの興味、関心、発達段階を考慮して行う必要があります。子どもが主体的に遊びや活動に取り組めるように、安心できる環境と挑戦できる環境の両方が重要です。
〇切れ目のない支援: 子どもの育ちを支えるために、時間的、空間的な「切れ目」をなくし、家庭、地域社会と連携しながら、継続的で発展的な関係を構築する必要があります。
〇大人のウェルビーイング:子どもだけでなく、保育者をはじめとした大人たちの幸福も考慮することが重要です。保育者が安心して働ける環境を作ることで、子どもたちにも良い影響を与えることができます。
〇多様な人々の関わり:保育者だけでなく、調理員、用務員、保護者、地域の人々、アーティストなど、さまざまな立場の人が関わることで、子どもの経験がより豊かになります。
〇イマジネーションとリアリティのバランス:空想的な遊びと現実的な遊びの両方を取り入れ、それらの間を行き来することで、子どもの探究心を深めることができます。
〇素材や遊びのプロセス: 素材や遊びのプロセスをディスプレイすることで、子どもの遊びの継続や発展を促します。
〇「色」の活用:色には様々な側面があり、子どもの感情や体験を保存するメディアとして活用できます。
〇保育者の専門性:保育者は、子どもの発達や保育に関する専門的な知識と技術を活かし、環境を操作することで、子どもの学びを深めることができます。
環境構成は、単に物的環境を整えるだけでなく、子どもを取り巻くあらゆる要素を総合的に捉え、意図的に働きかける行為です。保育者は、常に子どもの視点に立ち、柔軟な発想と大胆な行動力で、より良い保育環境を創造していく必要があります。
2 こどもをまんなかに置いた環境とは?
こども家庭庁は、妊娠期から子どもが就学するまでの100か月間を、子どもの育ちにかかわる大切な時期ととらえ、点ではなく線・面での支援に取り組んでいます。
同庁による「はじめの100か月の育ちビジョン」は、これからの保育環境を考える上で、重要な視点を提供しています。このビジョンは、子どもの生涯にわたるウェルビーイング(身体的・精神的・社会的な幸福)の向上を目指しており、安心できる環境と挑戦を促す環境が循環的に働くことで、子どもの資質・能力が育まれるという考え方を示しています。
このビジョンが保育環境にもたらす主な視点は、次の通りです。
①環境の厚みと大人のウェルビーイング…子どもを支える環境の充実とともに、保育者を含む大人たちのウェルビーイングの向上も不可欠であると指摘しています。子どもに過度な刺激を与えたり、保育者に自己犠牲を強いる環境ではなく、子どもも大人も幸せな保育が実現できるような環境が求められます。
②エコシステム的な視点…子どもの育ちには、保護者や保育者だけでなく、地域や社会を構成するあらゆる人々が直接的・間接的に関与しているという視点を強調しています。保育者は、家庭への支援や地域との連携を図り、子どもの育ちを支える環境全体を構成する役割が求められます。
③「切れ目」のない支援…誕生前後、就園前後、就学前後といったライフステージの節目だけでなく、年度替わり、日々の活動のつながり、保育者間の連携など、あらゆる時間的、空間的な「切れ目」をなくすことが重要であると述べています。通園バスの利用時間も、子どもの経験に対する配慮が必要な時間として捉えられています。
④保育環境の拡張…保育環境は園の敷地内だけで完結するものではなく、家庭や地域と切れ目なく連続する子どもの生活環境として捉え、継続的で発展的な関係構築を模索する必要があります。
⑤柔軟な発想…従来の「枠」にとらわれず、物理的にも概念的にも広い視野で保育環境をとらえる必要性を強調しています。安心と挑戦が循環し、家庭や地域社会と継続的かつ発展的に関係し合い、子どもの育ちを時間的にも物理的にも切れ目なく支える保育環境の実現には、柔軟かつ大胆な発想が求められます。
これらの視点を踏まえ、保育者は、子どもの発達と学びを総合的に捉え、柔軟な発想で、より豊かな保育環境を創造していく必要があります。
3 おすすめの書籍
『これまでの枠を超えれば「ワクワク」がみえてくる 空間・時間・人を拡げる 保育環境の構成』(境愛一郎編著、栗原啓祥・濱名潔著。中央法規出版、2025年)はは、群馬県前橋市の清心幼稚園と兵庫県尼崎市の武庫・立花愛の園幼稚園の保育実践事例集です。既存の保育における「枠」(空間、時間、役割など)にとらわれず、子どもも大人もワクワクする保育環境の創造を目指した18事例を紹介しており、空間、時間、人の3つの視点から考察しています。これらの事例を通して、保育環境の柔軟な捉え方と創造的な実践方法を提案しています。
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