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ケアまち座談会vol.7「多様性と変化を包む場づくりとケア」開催レポート(ゲスト:稲田多喜夫さん)

暮らしや建築、ケアの現場に関わる実践家たちとともに、よりよい暮らしやコミュニティのあり方を探るオンラインコミュニティ「ケアまち実験室」のイベント・ケアまち座談会vol.7を開催しました。その一部をnote化しお届けします。

今回のテーマは「多様性と変化を包む場づくりとケア」です。

今回は、デイサービス『52間の縁側』(2023年グッドデザイン大賞、建築学会作品賞など)、ホスピス『いまここ』(2021年JIA優秀建築賞)、サービス付き高齢者向け住宅『ほっこり家』(2019年)などを手掛けてきたランドスケープデザイナー・稲田多喜夫さんをお招きしてお話を伺っていきます。対話の時間では、多様な利用者に寄り添い地域に根差す場づくり、変化変容に応えるランドスケープデザインについて、ともに考えていきました。

【日時】10月2日(火) 21:00-22:20
【登壇】稲田多喜夫さん
ランドスケープデザイナー/京都芸術大学准教授
【進行】守本・稲田・鈴木
ケアまち実験室ラボマネージャー / 事務局


ケアまち実験室は、ケアとまちづくりに関心のある方の入会を募集しています!実験室の詳細はこちらをご覧ください。

■ 入会特典
・ケアまち実験室slackへのご招待
・ケアまち座談会(オンライン)の参加費が無料(通常3500円)
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インプット|多様性と変化を包む場づくりとケア

ランドスケープデザインとケアの関係性

稲田といいます。今日はまず「ランドスケープデザインって何?」というお話をして、次に「ランドスケープデザインとケアの関係」といったところを主にお話していければと思います。


まず「ランドスケープデザインって何?」というところですね。
端的に言うとお庭や公園、広場などの外部空間の設計です。その外部空間の設計をやりながら環境・時間・空間といった境界線を越えていくような視点も入れていくのがランドスケープデザインの特徴かなと思います。例えば、鳥などの生きものは敷地を簡単に越えていきますし、土地が持つ歴史的な広がりといった過去の時間もありますし、日本庭園で遠方の山や月をどう借景しようか考えるような敷地を越えていく視点です。ランドスケープデザインは地域と施設をつなげることは得意なのかなと思います。
ランドスケープデザインは元々ランドスケープアーキテクチャーっていう言い方をします。アメリカ・ニューヨークのセントラルパークの設計者であるフレデリック・ロー・オルムステッドという方が「私はランドスケープアーキテクトです」と使い始めたと言われています。

次に「ランドスケープデザインとケアの関係」について考えていきます。
今回このテーマで話してくださいとお題をいただいて考えてみたんですが、ランドスケープでケアといえば管理のことだなという風に思いました。福祉のお仕事をされている方にとって、ケアは管理と言われるとちょっと違和感があるかもしれません。実は私たちランドスケープデザイナーの中でもケアは管理というのには違和感を持っていて、管理という言葉の意味が変わりつつあるなと思います。

管理には「維持管理」と「育成管理」の2種類あります。

「維持管理」はメンテナンスとも言い換えられます。お庭などが完成したとき、竣工したときが完成形であって、その形をそのまま維持することです。木が大きくなったら剪定をして、池が砂で埋まってきたらかきだしてといったことです。

一方、今ランドスケープデザインで管理と言うと、「育成管理」を指すケースが増えてきています。
育成管理はフォスタリングとも言い換えられます。竣工時点は人間でいうところの誕生の段階で、そこからどう育てていくかも含めて考えていくということです。

お庭の完成を10割とした時に、お庭を作り始めてから竣工するまでが4割くらい、竣工してから育成管理をしてお庭を作り続けていくのが6割くらいを占めるのではないか。特に日本庭園だとお庭を作り続ける段階の方が割合が大きいのではないか。そんなことが言われています。

元々のコンセプトを維持しながらも竣工してからの変化や多様性といったものを受け入れていくにはどうするか。それがランドスケープデザインが考えるケアなのかなと考えています。


3つの事例紹介

今回3つの事例をご紹介しようと思っています。
1つ目はデイサービス『52間の縁側』、2つ目は岩手県陸前高田にあるサービス付き高齢者住宅『ほっこり家』、3つ目は静岡県富士市のホスピス『いまここ』です。


デイサービス『52間の縁側』でくつろぐ人々

デイサービス『52間の縁側』は石井英寿さんという方がクライアントです。石井さん家という福祉施設を複数経営しているとても面白い方で書籍もあるのでご興味があったら読まれるといいと思います。簡単に言うとごちゃ混ぜケアっていうことをやろうということを目標にしていらっしゃいます。
ランドスケープデザインではどういうことをやるとごちゃ混ぜケアにつながるかなと考えた結果、庭作りのワークショップをやっていきました。ワークショップの中で偶発的な出会いであったり、この施設に直接関係のない地域の人や子どもたちの関わりしろみたいなものを作っていけるんじゃないかということを考えたんです。すぐそばに大きな団地があり小学校に通う子どもたちがたくさんいたので、彼らにお庭作りに積極的に参加してもらうことで、竣工した後も継続的にお庭の様子を見に来てくれてここに入所する人たちと関わりを持ち続けてくれるんじゃないかということを狙ったワークショップでした。ワークショップの中でもあのお昼休みにみんなで縁側に座ってお昼を食べてそういうところで交流が生まれていくような形を目指しました。竣工してからも定期的にコンポストを作ったり芝生を貼ったりと、遊びながら色々なお手入れをしてもらっています。


サービス付き高齢者住宅『ほっこり家』

次は岩手県陸前高田にあるサービス付き高齢者住宅『ほっこり家』です。震災復興の計画だったので、これを計画していたのはもう10年ぐらい前になります。当時、陸前高田の湾岸から嵩上げをして、街を10m高いところに移動させようという工事を街を上げてやっていて、陸前高田の元々の植生の風景っていうのが失われていました。そんな中で、元々の陸前高田の植生の種が残っている土があったので、このほっこり家の庭にその土を移動してくることで元々あった植生の風景を再現できるんじゃないかっていうことを考えてやったものです。


ホスピス『いまここ』

最後は静岡県富士市のホスピス『いまここ』です。今までの2つのフォスタリングとはちょっと違う内容になります。ホスピスなのでそんなに長くは入院されない方たちが多いです。クライアントの川村雅彦先生が「患者さんの体と心の痛みをケアするっていうのはもちろんのこと、患者さんのご家族も含めてケアしたいんだ」とおっしゃっていました。ランドスケープデザインの中でどういうやり方があるかなという風に考えた時に既存の樹木を生かしつつ多年草植栽を使っていこうということを計画しています。既存の樹林の風景みたいなものを残しつつその足元に多年草植栽と言われる変化の早い植物を中心に景色を作っています。1ヶ月、もっと言うと夏の間は1週間2週間でどんどん主役が変わっていく多年草植を入れてお庭と関係を持っていただく。入所されている 方だけではなくご家族の方たちにはお庭に出てきてもらって自由に摘んでお部屋に持って帰っていただく。そうすることでお部屋の中にこもりがちになって しまうご家族もお庭に出てくる理由みたいなものを作れないかなということを考えて計画していました。私からのお話としては以上になります。

ダイアログ|ランドスケープとケアをめぐる対話

守本陽一さん:
ランドスケープの中でのケアって管理的な意味合いなんじゃないかっていう話おっしゃってましたけど一方で管理しきれない部分というか偶然にいろんなものが生まれていったり育っていったりそこに違うものが来たりみたいなところはどのくらい許容されるのでしょうか。

稲田多喜夫さん:
管理をしていく時に何を目的にするかっていうところで、いろんな考え方はあるんですけれども、1つは多様さを損なわないということがあると思うんです。勝手に生えてくる植物の中で何を残して何を取るかっていうことを選択する選択的除草ということもするんですが、「多様さを損なう植物は取る」という判断基準で行います。ほっととくとそればっかりになっちゃう植物、他を圧倒して元々ある植物を制圧してしまうようなものは取る。もし管理をし続けられるのであればセイタカアワダチソウなどもあんまり増えすぎないように切りながら愛でるっていうやり方はあるとは思うんですけれども、それがなかなか難しい場合は取り除くということがあります。玲奈さんどうですか。

稲田玲奈さん:
そうですね。なんかちょっと話が違うかもしれないんですけど。見せたいものっていうのは1つの決まったものじゃなくていろんなこう捉え方があるものっていうものがすごく重要なのかなと思っていて。要はいろんな人によっていろんな解釈がある風景っていうものができてくるとそれも入所者の多様性に結びついていくんだろうかというか。私たち設計する側で決めすぎない。 こんな見方もあるしあんな見方もきっとあるよねみたいな余地をたくさん作ってあげるってこともランドスケープにはすごい大切なのかなとも思ったりしていました。

稲田多喜夫さん:
ほとんどのデザインって人のために作るんですけれどもランドスケープデザインは割と半分ぐらい人じゃないもののために作ることがあります。環境のため、生き物のため、植物のためみたいなことを実はこっそりやってるんです。その人のためじゃない場所っていうのは人にとってはすごく豊かという か、意味を与えられてない・名前をつけられていない場所になり得るんですよね。


noteでのお届けはここまでです。この後は座談会参加者も加わっての対話もあり、「余白のある空間こそ、居られる場所になるのかもしれない」といった話を一同噛みしめたりといった時間を過ごしました。全貌は実験室メンバーのみが視聴できるアーカイブ動画でご覧いただけます。

終わりに

ケアまち実験室では、今後もアート、建築など、様々な方を登壇者としてお招きし、座談会を行っていきます。
ケアまち実験室のメンバーになると、ケアまち座談会への参加費が無料になるほか、ケアまち座談会アフタートークへの参加(Slack)、ケアまち座談会アーカイブ視聴も可能となります。

ケアまち実験室でできること

詳細は、以下URLの公式ホームページをご覧ください。https://carekura.com/caremachi

ケアとまちづくりにご関心がある方は、ぜひ実験室にご入会ください。
ケアまち実験室にて、皆さまとお会いできることを楽しみにしています!

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(執筆:鈴木唯加、芦田遥陽)

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