【ケアまち座談会Vol.0】「なぜ「ケアとまちづくり」は必要なのか」開催レポート
2020年5月19日、21:00〜22:00、「ケアまち座談会 vol.0 なぜ「ケアとまちづくり」は必要なのか」を、オンラインで開催致しました。
コロナ禍で"暮らし"をどう再構築するかを目的に、「ケアとまちづくり未来会議」の新しいプロジェクトが始まりました。Vol.0では、総勢50名以上の方々にご参加いただけました。
アーカイブ動画
当日のプログラム
・なぜケアとまちづくりが必要なのか?
守本陽一
・ダイアローグセッション
守本陽一、密山要用、玉井友里子、吉田遼太(team TENT.)、小林弘典
・座談会
参加者全員
スピーカープロフィール
・守本陽一(もりもん)
総合診療専攻医。兵庫県豊岡市で屋台やらまち歩きやらしながら、ケア×まちづくりを模索。
・密山要用(よーよー)
家庭医。コミュニティドクター。時々、屋台。東京と栃木で医者をしながら、地域で「おせっかい」できる医療者や市民を育てる学習プログラムの研究開発・実践をしている。
・玉井友里子
家庭医をしつつ、岡山県の中山間地・上山集楽で棚田再生、にんにく生産をしている。
・吉田遼太(team TENT.)
建築デザインを仕事とし、週末は、team TENT.として、ものづくりを通してクリエィティブな場と人を育てる試みている。
・小林弘典
WEBデザイナー。WEB制作、マーケティングの知見を活かし、クリエーターのサポートをしている。
なぜケアとまちづくりが必要なのか?ー守本陽一
ケアまち会議を代表して、守本陽一(もりもん)から、「なぜケアとまちづくりは必要なのか」を、事例やデータを交えつつ、ケアとまちづくりの双方の視点からお伝えしました。
背景:医療従事者と患者とのタッチポイントの制限
医療者は、入院から退院まで、対象者の生活の一部にしか関わることができないという限界があります。
より日常的に、暮らしの導線上でコミュニケーションを取ることで、住民の方々に多様なケアを届けることができます。
そのため、全国的に「ケアとまちづくり」の活動が広がっています。
ケアとまちづくりが必要な4つの理由
1.公衆衛生の改善
健康を損なうと、生活習慣病に代表されるように「本人のせいだ」と、個人の責任に転嫁されやすい傾向にあります。
近年では、社会的地位、教育、成長過程、文化、所得、つながりなど、社会的な要因が健康に大きな影響を与えているという、エビデンスが蓄積されつつあります。
その中でも特に孤独が死亡リスクを高めている、と言われています。
孤独の解消に対するアプローチとして、医師がコミュニティを処方する「社会的処方」という概念が生まれて、日本でも導入が検討されています。*1)
社会的処方
患者に対しコミュニティを処方し、孤独の解消するという施策
2.健康生成論
健康生成論とは、健康をどうやって作るか、という考え方です。
これまでは、病院などの医療機関で、病気などで悪い部分を取り除く、マイナスからゼロに戻す医療行為が行われていました。
健康生成論では、ゼロからプラスへどう転換するか、を考えることも等しく重要だと考えます。
健康を定義した場合、重要な状態となる「Well Being」。
その構成要素は、下記の5つがあり、これらのバランスを整えることで、健康を生成できると考えられています。*2)
Well Beingの構成要素
Positive emotion(ポジティブ感情)
Engagement(没頭)
Relationship(関係性)
Meaning(生きる意味付け)
Accomplishment(達成感)
3.縮小される都市におけるまちづくり
全国の空き家の割合は、現在約14%という数値が表す通り、日本各地で過疎化が進み、その結果、人々のつながりが分断されつつあります。
都市の縮小の形式は、周辺から中心に向かい縮小する、「コンパクトシティ」が理想ですが、現実にはスポンジ上に縮小し、その空白がケアの課題となっています。
その課題に対し、「エコロジカルプランニング」の考え方を応用し、まちづくりに必要な要素を再統合し、空洞化した箇所に「小規模多機能な場」を作る取り組みが重要だと考えます。全国に、そういった取り組みが増えています。*3)
エコロジカルプランニング
地形、土壌,植生,地表水,土地利用等の地図を重ね合わせることにより、土地利用に対する可能性と制限の度合いを地図上に視覚的に表現する手法を提案した。
【例】
やまわけキッチン
駅から数キロ離れている団地の一室をキッチンとし、団地の中で皆でご飯が食べられる
ぐるんとびー
団地の一室をオープンスペースとし、地域住民のコミュニケーションの場所としている
4.地域共生社会の必要性
現在、国は、誰もが支えられ、支える関係性を作り、生きがいを持って生きられる地域共生社会の実現を求めています。
そのためには、医療・福祉従事者とまちづくり関係者が共創し、「医療・福祉」「まちづくり」両輪で、働きかけを行う必要があります。
【例】
恋する豚研究所×銀木犀
介護施設の隣にレストランを併設。普段は介護サービスをうける方々が、サービス提供者になり、生きがいを感じられる仕組み作りを行う
ケアとまちづくりの2大要素
予防
・ヘルスプロモーション
医療従事者、まちづくり関係者が一緒に、病院に来る以前の生活者と接点をもち、病気を予防する。
彩り
・コミュニティエンパワメント
地域を元気づけ、住民の主体性を刺激し、まちがwell beingになっていくはたらきかけ。
ケアとまちづくり未来会議について
ケアとまちづくりの課題を解決するため、ケアとまちづくりの活動をする人たちの悩みや事例を共有し、集える場所を作りました。
2019年8月25-26日に、兵庫県豊岡市で開催しました。当日は、ケアの関係者、まちづくりの関係者、アート関係者、行政関係者など、参加者含め、合計100人以上の方々が集まりました。
イベント内容
・豊岡市の取組紹介
・コミュニケーションとケアの関わり
・建築、アート、コミュニティの実践者のセッション
・地域のコミュニティスペースをどう、まちづくりに役立てるか考察
・ケアとまちづくりを実践している人たちからの活動報告
・悩み共有セッション
・銭湯とケアの関係性
・豊岡街歩き
etc...
企画当初は、「一歩踏み出せない人の後押し」を開催目的としていましたが、結果として、参加者はすでにケアとまちづくりを実践されている方々が多く、そんな方々の活動をさらに広がるきっかけとなりました。
今後のケアとまちづくり未来会議
「ケアとまちづくりが溶け合い、新しい価値が生まれる場へ」を今後はミッションとして捉え直した中、コロナ禍となりました。
コロナ禍で、慢性疾患の増加により重要視されたいた「Care」から、いかに感染症を治すかという「Cure」のより戻しが起きています。その中で感じた課題は下記2つです。*4)*5)
1.「地縁・血縁型コミュニティ」への影響
「地縁・血縁型コミュニティ」がオンラインへの適用が上手くいかず、取り残される傾向がある
2.移動の制限
都市間の移動が制限される中、また、都市の密集の中、生活圏内でどう生活するべきか
ダイアローグセッション
「Care」から「Cure」へ。コロナで私達の暮らしは変化を迫られています。ケア、まちづくり側の専門職の対話によって、私たちは自身の手で「暮らしを再構築」する知恵を、一緒に探ることを目的としました。
「第1回ケアまち会議 in 豊岡で得たものは?」「これからの暮らしの再構築のキーワード」に対し、事前に回答を用意し、議論を深めました。
第1回ケアまち会議 in 豊岡で得たものは?
・吉田さん
「専門領域を超えた創造」
アート、建築、医療、などなどいろんな領域の方がいた。様々な分野の方々が、共通の課題を抱えていた。現場を持っていて、大学で学んだ知識以外の貴重な経験を共有できたことも良かった。
・玉井さん
「地域はみんなでできているという再認識」
元々、色々な人とイベントを開催できたら楽しいだろうな、という気持ちから始めた。豊岡で出会い、自分の地域では、自分が関わる人しか見られていなかった部分があった。医療者以外にも色々な活動をしている人で、地域はできていることが分かって良かった。
・小林さん
「他流試合の経験値」
普段出版社でwebデザインの仕事をしている。医療従事者、建築家など、普段お会いすることのない人達と、ビジョンを共有し、一緒の時間を過ごした。今までのキャリアがその中で、どの程度価値があり、足りていないものは何か、に気づく機会となった。
・守本さん
「ケアとまちづくり」
「ムーブメント」
豊岡は東京、大阪、京都など、都市部からアクセスが悪いにも関わらず、 100人以上のメンバーが集まったことで、まちづくりのムーブメントが起こりつつあると、認識するようになった。
コロナ禍での暮らしを再構築するためのキーワードは?
・吉田さん
「自分自身で考えて、他社の違いを受け止める」
情報が100%正しくない状況で、どう自分自身で考え、洗濯するかのスキルが必要。人と考え方を共有し、違ったとしても、受け止める寛容さが必要ではないかと考えている。
・玉井さん
「交流を続ける」
人と会えなくなり、辛かった。患者さんも誰にも会えないけど、「診察でほっとする」とおっしゃられた患者さんもいらっしゃった。今まで、関われなかった方々と、関わる機会が増えた。何としてでも、交流を続けることが大事なのかな、と感じた。
・小林さん
「徐と乗」
普段はサーフィン、登山といった趣味を軸にしたライフスタイルを訴求している。コロナで、今まではできていたけど、できなくなったことがでてきた。2ステップで対応している。
今までやっていたことを割り算し、要素を洗い出す。(徐)
コロナ禍と相性の良い要素を洗い出し、既存の要素と掛け合わせ、新たな価値を創出する(乗)
・守本さん
「谷間に灯をともす」
格差は拡大する。高齢者、マイノリティの支援、など社会的弱者、支援が届かないところに、どうケア、まちづくりの専門生を活かして、灯をともせるかが大切。
登壇者同士の質問
・吉田さん
徐と乗について。元々あったものを見直し、新たな創造を生む、ということだと思う。クリエイティブのベーシックな考えだと思うし、共感できました。
・小林さん
最近、徐と乗を体現しているサービスを見つけた。
銭湯って入浴剤、フワフワのバスタオル、風呂上りのコーヒー牛乳など。一言に銭湯と言っても、自分が好きな時間はさまざま。
そんな時間を、通信販売で販売する、「銭湯のある暮らし便」が人気。
銭湯の要素を、ecというコロナと相性の良い要素と組み合わせていることがとても面白い
・玉井さん
交流でいうと、元々関係性が深い人だと、オンラインでも楽しくなれる。
子供がいる人だったり、距離的な制限があったりすると、普段は会いづらいが、オンラインだと解消されるという良い面もあるのではないか。
・守本さん
以前、オンライン屋台カフェをやってみた。一部のスタッフがアメリカに居たが、遠くの人も参加できる人メリットはあった。ただ、既存の関係性がある人ないと新たに入りづらい。オンラインの環境も整ってない人、これまでつながりが少なかった人は難しい面もあるのではないか。
どのように偶然性の出会いをデザインするか、声なき声を拾うか、が大事。専門性を掛け合わせるクリエイティブで、そのあたりを解決できる可能性を検討して行きたい。
座談会
1グループ4〜5名に分かれて、自己紹介、イベントに参加した理由、「なぜケアとまちづくりが必要なのか?」「ダイアローグセッション」を観て感じたことを、語り合いました。
医療従事者はもちろん、それ以外の職種や、様々な専門を学ばれている学生も多数参加されていました。
「ケアとまちづくり」という共通のテーマを軸に、各々のフィールドで学んだ知見を共有し合う場となり、議論を深めることができました。
今後のお知らせ
今後もアート、建築など、様々な方と登壇者としてお招きし、座談会を行いう予定です。
開催告知、開催レポートは、下記snsで配信致します。よろしければ、フォロー頂ければと思います。
note
https://note.com/caremachi
facebook
https://www.facebook.com/caremachi/
#ケアまち座談会
参照)
*1)Goverment of Canada determinant of health. Social determinants of health and health inequalities.2020-05-10閲覧
*2)Antonovsky 健康生成論.1987
*3)饗庭 伸 都市をたたむ 人口減少時代をデザインする都市計画.2015
*4)東畑開人 居るのはつらいよケアとセラピーについての覚書.2019
*5)厚生労働省保険医療2035策定懇談会 保健医療2035提言書.2015
(執筆・編集:小林弘典)