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投資家対談 かんぽNEXTパートナーズ【後編】「投資家が求める"CFO"の条件」
急転直下のリード依頼
鵜月)当社から投資検討をご依頼したときにはまだ別のリード投資家候補がいらっしゃったんですよね。最後の数億円の枠を埋めて頂けるフォロー投資家を探していますというお話をしたのが1月末頃でした。
鈴木)はい、それがあったので我々は乗らせて頂くか頂かないかという状況の中で検討が始まったと記憶しています。
鵜月)それでも結構ギリギリのスケジュールでしたよね。当社は決算期が3月なので、「期が変わるまでにクロージングしたいんです」と、自分でお願いしながらタイトだなと思っていました。
鈴木)着金までなのか、意思決定までなのかでスケジュール感は結構変わってくるのですが、キャッシュポジションを考えてもリード投資家が3月末までに入ればフォローは3月を超えても問題ないのかなという意識も実はあって、それで検討を始めた感じでしたね。
鵜月)そうですよね。そこから色々なことが起こって、「すみません、やっぱりリードお願いできないでしょうか?」と伺ったのが2月に入ってからですね。
鈴木)2月のもしかしたら真ん中ぐらいかもしれないですね。
鵜月)普通に考えたらCFOがラウンドをコントロールできていないという話ですし、検討スケジュールもさらにタイトになるじゃないですか。どう考えても悪印象しかないと思うのですが、率直にどう思われたんでしょうか?
鈴木)本件に関してはそれこそ色々な経緯や背景があってのことだと理解していますし、常に「本質的な問いを繰り返して、投資をする側・される側の双方にとって良い投資をしたい」という意識でやっているので、特には気にしませんでした。私たちは普段から事業連携の可能性と同じか同等以上に投資リターンの目線を強く持って投資しているので、むしろ投資家フレンドリーな経済条件をうまく引き出せるのではないかと直感しました。その上でもしこのラウンドがうまく繋がれば、最終的にストラテジックな連携と投資リターンをより両立しやすい形に持っていけるのではないかと思っていました。
鵜月)もちろん当社としてはそのストラテジックな連携を期待して当初お会いしたわけですが、逆に純投資の目線もお持ちであったことが幸いしたと、何が吉と出るか分からないですね。
鈴木)あとは私たちのファンドが比較的コンパクトな組織かつ良い投資をするために各キャピタリストの意見が尊重される環境なので、スピーディーに意思決定できたというのもあると思います。ファンドの特性がいい方向に働きました。
DDでみているのは何を言ったかではなく、誰が言ったか
鵜月)すごく大事なポイントですね。ファンドの特性に良い悪いはなく特徴でしかないと思っていますが、一方でそれが発行体に適しているかというのは別問題としてあって、そこを見極めるのは至難の技です。実際にファンドの裏の意思決定プロセスって、説明では聞いても実態がどうなのかは発行体側からはあまり見えない。そこを見極められるCEOやCFOは多くはないのではと思いますが、鈴木さんからご覧になっていかがですか?
鈴木)CFOの方も大別すると2パターンいらっしゃいます。財務・経理出身の方と、証券や銀行出身のファイナンスバックグラウンドの方ですね。前者の場合はラウンドをリードするというよりは社長の思いを汲もうとする一方で、見通しが甘くなってしまうケースも少なくありません。後者の場合にはエクイティのことはよく分かっているのでその難しさは理解しながら進められていても、事業についての理解が浅くなってしまうケースもあるので、どの程度事業について理解されて、それをうまくエクイティストーリーに落とし込めているかが大事になってきます。そこは今回のラウンドでも、初期の段階から鵜月さんとのコミュニケーションの中でも強く見ていたところです。
鵜月)事業を理解できているか、というのはどう判断されているんでしょうか。
鈴木)DDQでも色々と細かい質問をしましたが、返ってきた内容ばかりに注目せず、それを誰が書いたのかを見ています。回答の良し悪しよりも、誰が書いたのか、誰がそれをちゃんと補足して説明できるのかを重視しています。
鵜月)面白いですね。私も以前M&AのDDQを担当していましたが、回答者まではあまり意識していませんでした。ちなみに貴社のDDQトラッカーにも回答者情報までは書いていなかったと思うのですが、そこはどうやって見極められていたのでしょうか?
鈴木)そこは回答者のお名前を含めて書いてあることを鵜吞みにせず、ちゃんと一つ一つ説明してくださいというのを個々の場面で求めているのですが、代表者の方が説明したり、CFOの方が説明したり、色々なケースがあります。その中でCFOの方からも事業に対する理解度や熱量を示唆したコメントをもらえるようなインタビューや面談を意識してやっていますね。
鵜月)ありがとうございます。中々外には出ないDDのノウハウですね。
鈴木)良い回答、納得できる回答ではあるが、なぜか腹落ちしない回答ってあるじゃないですか。スタートアップという組織の裏側を知る上では、誰がパワーを持っているのか、誰がイニシアチブを持ってその取り組みをしているのかといった人間関係を読み解くことが重要だと思っています。
鵜月)意外と見えてくるものなんですね。場合によっては「Aさんはこう言ってるけど、Bさんは全然違うこと言ってる」みたいな話も、DDの中で出てきたりするということですよね?
鈴木)ありますね。少し外れますが、代表の方とだけお話しする場合でも、例えばAという質問を初回の面談でします。2回目の面談でも別アングルでAに近いA’の質問をします。3回目でもA’’の質問をしますというように、同じような質問を繰り返しながら回答に一貫性があるか、論理破綻していないかをチェックしています。
TAMに意味はない?
鵜月)事業性の判断についてもお伺いしたいのですが、TAMはどれだけ意識されましたか?
鈴木)意外に思われるかもしれませんが、正直に言うと今回の意思決定においては触れなかったんですよ(笑)マーケットがあることは自明なので。
鵜月)まさにですね。私も意味がないと思っていて、昨年度の当社売上が大体10億円じゃないですか。例えば数兆円の市場の中で既に1兆円の売上がある会社さんが「TAMの何%を獲るんですか」という議論をすることは意味があると思うのですが、10億円規模の売上しかなくてその売上すら伸びない市場なのであれば、スタートアップとしてその事業はやめた方がいい。逆にそうでなければ何%のシェアを取るという話には意味がないので「とにかく伸ばせ」という話だと思っています。
鈴木)はい、400Fさんの場合、どういう個人のペインやプロダクトをカバレッジするか次第でマーケットが大きくも小さくもなります。その予測はほぼ不可能なので、私たちの意思決定においては市場規模には敢えて触れず、金融オンライン・アドバイザーが個人の意思決定に関与する必然性やその理由を議論しました。その理屈がきちんと押さえられていれば十分に市場形成は可能だという整理をしています。
鵜月)TAMそのものは中立的な概念だけれども、果たしてそれが自社の事業フェーズに適した概念なのかということはよく考えないといけませんね。
CFOに求めるのは事業理解の深さ
鵜月)ちなみに先程私への評価で「話の分かるCFO(笑)」とご回答頂いたのですが、その辺りをもう少し深堀りしてもよろしいでしょうか。
鈴木)投資家とスタートアップという2人のプレイヤーがいるじゃないですか。それぞれやっていることが違うので求める志向性も少しずつ違うんですが、共通しているのはその会社や事業の成功が互いの利益を最大化するということ。ただ中にはどうしても自分たちの利益だけを優先したいという投資家やスタートアップが存在します。スタートアップ側においてそれを先導しているのがCFOだったりすることもままあります。投資条件もそうですし契約書周りでも、自分たちの権利の確保や、あるいは義務を負いたくないということばかりを主張するなどですね。そこに筋の通ったロジックがあればいいのですが、合理的な理由がないにも関わらず「嫌だ」と言われることがある。
鵜月)そうなんですか。それは交渉力に依るところも大きい気はしますが、どういう背景なんでしょうか?
鈴木)結局事業理解に帰結するんですよね。理解が深ければ「事業への影響は軽微だからここの権利は渡してもいい」と整理ができる。逆にその理解が浅いとなるべく自分たちの負担になることはしたくない。そこの合理的な判断がきちんとできるCFOの方は意外に少ないですね。
鵜月)ゼロサムゲームの交渉になってしまっているということですね。M&AにおけるFAさながら、エクスターナルなCFOみたいな意識があるとそのような動きをしがちかもしれない。
鈴木)エクスターナルかつテンポラリーなCFOだとそういう動きをしがちですね。そのため、検討当初からCFOである鵜月さんの事業に対する解像度やIR観点でのコミュニケーションのしやすさもポイントになると想定してました。
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これからのスタートアップCFOに求められるIR力
鵜月)IRというのはどういう文脈でしょうか?
鈴木)今回の資金調達でいえば、セカンダリーを含めて投資家にどう有利な条件を提供するかをご検討頂きました。Valuationは維持したいというWillもある中で、ストラクチャリングによって心理的にどう投資家を動かすかを設計できるCFOでよかったと思っています。
鵜月)そこはCFOであれば必須の共通スキルかと思っていました。
鈴木)そうでもないですね。なぜかというと、それができる場合には既存株主との関係性がいいわけです。逆にそこがうまくいっていないとすべて新株で何とかせざるを得ない。IRがうまくいっていないとセカンダリーの交渉もできないんですよ。関係性が良ければもっと応援してもらえたはずなのに、そこがうまくいっていないせいで合理的に良い投資条件をアレンジできない。
鵜月)スタートアップのファイナンスにおいて優先株での調達はもはやデフォルトですが、新しいクラスの株式発行がすべてではないですからね。エクイティだけではなくデットもありますが、株式のクラスを分けている意味や、あくまでストラクチャリングなんだという意識は今後より強く求められていくのかもしれません。先程仰っていたように、投資家に乗ってもらうためのインセンティブをどこに置いて、どうしたら近づいてきてくれるのかみたいな感覚は大事ですよね。
鈴木)はい、とても大切です。今の日本のスタートアップシーンでは「投資家は増えているのに、資金調達はあまり楽になっていない」という感覚が強いと思います。評判の良い投資先にリスクマネーが集中しているというのもありますが、業歴が比較的進んでいるスタートアップはダメかというとそうでもない。それよりもむしろ過去に調達した時の株価や投資条件がネックになってリーズナブルな条件で新株が出せないという構造もある。そこを打破するためには、既存のセカンダリーをうまく組み合わせていくという世界は必ず訪れるだろうと思っています。
鵜月)そうですね。私も2021年に当社に入社して、一番最初にやったのがCap Tableの整理でした。力技ででもCap Tableを整理し切るというのは、今後求められていく技倆かもしれません。
鈴木)投資家としてCap Tableをみるとき、特に事業会社が入っているような場合にはお金以外のメリット・ベネフィットを発行体に対して提供できているのかという目線で見ます。CFOの力量や外部投資家のリテラシーの高さが求められてきます。
エクイティに色をつける
鵜月)先程の事業理解にも直結する話ですね。 よく「銀行はお金に色をつけるのが仕事だ」といわれますが、エクイティにも色があるという話だと認識しています。
鈴木)私だけかもしれませんが、CFOからはお金の話だけではなく、事業の話を聞きたいんですよ。特にペインの深さと持続性、大手がなかなか参入しにくい理由などは重要だと思います。大手が参入しにくい理由というのは、お金だけでは解決しない、できない部分だと思うので、その説明がうまくできるとそれが参入障壁になっていると理解できる。中村さんとお食事をした際に、「鵜月には事業のことを徹底的に理解してもらうようにした」と仰っていたので、それが色々な意味で実を結んでいるのではないかと思っています。
鵜月)資本力勝負ではないということですよね。逆に資本力勝負のビジネスもあるじゃないですか。そういうところはエコノミクス勝負で、海外や国内の大型ファンドから一気に調達して投資を加速しスケールさせる戦い方でいいと思うのですが、当社は堅実にPLを作っていく類型のビジネスだと考えているので、資金調達のタイプも異なる。エクイティにどのような色を持たせるのかが大事なビジネスだと考えています。
鈴木)CFOがどのような投資家を選ぼうとしているのかというアングルもスタートアップの成長性・ポテンシャルを測る上では重要な観点です。こちらとしても「投資家の座組みはどう考えていますか、なぜそのような座組みにしようとしていますか」という部分はお聞きしたいですね。
鵜月)自社の事業およびそのフェーズを見極めて、適切な投資家を選ぶ力量はとても大事ですね。
鈴木)たとえばいわゆるレイター投資家になるとショットサイズからして全然違います。必然的にValuationも高くなるのでそれに見合った業績が求められる。
鵜月)その業績も見かけ上のPLではなくて、そのPLを作り出せている根源的な価値は何なのかを問い続けることが大切ですね。ただ、社長や他の社員が「これだけ業績が伸びているじゃないか」という中で、「まだ本当の実力がついていません」と押し返せるだけの事業理解度や、それを周りに納得させる説得力を持つ人はそうそういないだろうなとは思います。
鈴木)極端な表現ではありますが、CFOは社長と喧嘩するくらいがいいんですよね。CEOはお金を使う立場、CFOはお金を集めてリーズナブルに資金をアロケーションする立場ということで、当然対立構造が内在しています。そのため、CFOがきちんとCEOに具申できる方でなければ効率的に資本をまわせず、健全な経営ができないということに直結してしまうので、投資家からすると信用できなくなってしまいます。
鵜月)当社の場合は幸いにして中村がファイナンスに相当の理解があるので助かりましたが、一般にCFOは投資家の付託を受けた代弁者でもあるという立場を自覚する必要があり、立ち位置が難しいですよね。一定程度社内から嫌われる耐性も必要になる。
鈴木)その精神的なタフネスもDD項目ですね(笑)契約書交渉でも相手の人間性や志向性が窺い知れるし、返し方によっては事業やファイナンスへの本質的な理解度も見えてくるので面白いです。
鵜月)交渉条件でやり合うときは一時的にオポジットに立ってしまいますが、それが終わればまた同じ船に乗るわけですからね。
鈴木)そういうことも見越してコミュニケーションが取れる人がいいですよね。
鵜月)ありがとうございます。当社の事業への評価以外にも、DDの観点やCFOに求められる資質など興味深い話が伺えたと思います。この記事を読んだ方が少しでも当社に興味を持っていただけることを願います。
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