ローカルキャリアを促進する遠隔プロボノ&パラレルワーカーのススメ 前編
1.はじめに
コロナ禍においては密が避けられ、疎が好まれることからローカルに生活の拠点を移す人が発生している。これは、多くの都会的生活者がテレワークを経験することになり、働く場所と暮らす場所の物理的距離の制限から解放されたことが要因だと考えうる。
内閣府による「第2回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査(※1)」によると、東京圏在住で地方移住に関心がある人は全体の31.5%に上り、これはコロナ前の調査と比較すると移住関心層が6.4%増えていることを示しているが、
そのうち地方移住への関心理由を尋ねる項目において24.1%が「テレワークによって地方でも 同様に働けると感じたため」と回答している。これは調査対象者全体の約7.6%がテレワークによる上記の解放を感じていることを示している。
一方で、物理的距離からは解放されていたとしても、様々な理由から都会での暮らしを継続しつつローカルプロジェクトに遠隔で参画するプロボノやパラレルワーカーも出現してきている。既述の調査でも、東京圏在住の地方移住関心層が移住をするにあたっての懸念として、46.2%の高割合で「仕事や収入」を挙げており、同項目の回答としては突出して解答割合が多い状況である。そうなると、ローカルキャリアを歩み始める際に仕事や収入の不安感に対して、まずは遠隔でプロボノ・兼業などを経験することによりそれらを和らげることは理に適う選択となり得るともいえるであろう。
本文では、そのような形でローカルキャリアを促進する方法論としての遠隔プロボノ&パラレルワーカーの可能性について、①経験者アンケートからの「声」の抽出、②そのキャリア形成のモデル提示、③遠隔プロボノ・パラレルワークで磨かれる力の提示をしていきたい。それらによりローカルキャリアの第一歩としての遠隔プロボノ&パラレルワーカーのススメとしてまとめたい。
2.遠隔プロボノ&パラレルワーカーとは
本文における遠隔プロボノ&パラレルワーカー等の言葉を以下のように定義付けたい。
「遠隔」とは:
生活の拠点をローカルに移していないが、ネット等を活用・経由してローカルのプロジェクトや仕事に従事することを指す。
「プロボノ」とは:
受け入れる企業・団体からの労働の対価を得ない形で従事することを指す。
「パラレルワーク」とは:
メインの仕事を持ちながら、並行して複数の仕事に従事することを指す。パラレルワーカーは兼業者・副業者の意となる。
以上のことから
遠隔プロボノとは
「生活の拠点をローカルに移さず、ネット等を活用してローカルプロジェクトに無給で従事するもの」
遠隔パラレルワーカーとは
「生活の拠点をローカルに移さず、ネット等を利用してローカルのプロジェクト・企業において有給で従事するもの」
となり、その2者間の違いは無給か有給かである。
また、今回はローカルと都市の対比に重点を置きたいため調査の対象として、生活の拠点を都市部に持つものに限定をしたい。生活の拠点をローカルで持ちつつ、遠隔プロボノ&パラレルワーカーをやっている人は 特殊性及びケースの属人性が高くなると判断し、今回は対象外にすることでより明確な「都市部における遠隔プロボノ&パラレルワーカー」のモデルづくりにつなげる。
さらに、都市部の所属企業・団体の業務の延長としてローカルの業務に従事しているものは対象から外したい。対象とするのは、ローカル側に受け入れる企業・団体があるものとする。結果、ローカルの企業・団体との業務委託契約または雇用(プロボノ)契約等を結んで仕事に従事しているものを対象とする。尚、複数のローカルに同時に関わっているものは対象として取り扱う。
3.遠隔プロボノ&パラレルワーカーの声
今回、本文執筆にあたりよりリアルな経験者の声を反映させるべく、アンケート調査を実施した。合わせて15名の遠隔プロボノまたは遠隔パラレルワーカーの方々の協力を得ることができた。お忙しい中、ご協力いただいた皆様にはここで感謝を申し上げたい。
アンケート内容については実際に取得したアンケートのリンクをシェアする。⇒ https://forms.gle/HtV3yEoVPTSjtFzk8
※より多くの声を集められればということで、いつでも回答も可能ですので、対象者の方で興味のある方は是非どうぞ!
特に、今回はキャリアオーナーシップリビングラボ(https://co-livinglab.persol-career.co.jp/)との協働の一環としてアンケートを取得することで、キャリアオーナーシップに関する項目も合わせて今後検証できるように設定した。
アンケート調査の概要と回答者の属性等でシェアすべきものについて以下紹介する。
回答者の年代は以下。筆者のこれまでの活動の繋がりをベースにアンケート協力を依頼したことからか30代及び40代の回答者が多く、20代はいなかった。
4割がプロボノ、6割パラレルワーカーの経験者として回答。
所属2と表現したプロボノ・パラレルワーク先は自身の出身地とは関係のない場所がほとんど。
活動期間については6カ月~1年が最も多く、長期で従事する方が多い傾向が読み取れた。3カ月未満は15名中1名のみ(6.7%)の回答であった。
自身のその後のキャリアについて意識しての参画をしたかどうかについては、最大の回答数=5である「とても意識した」側による傾向があった。
理由として「貴重な時間をつかう限り個人の資産になる取り組みをしたい」「現時点ではプロボノですが、将来的には事業化しパラレルワークできるようにしていきたいと考えています」などの回答があった。
一方で「キャリアのためにやったわけではないため」「どちらかと言うと、今のキャリアを試したかったので、あまりキャリアアップは意識していない」「パラレルワーク自体がはじめてであり、その後のキャリアに活かせるかまでは特に意識せず。まずどのような携わり方ができるかなど、試しにやってみたい気持ちの方が強かった」といった理由の回答もあり、この点については個人のばらつきを感じるものであった。
上記の質問の回答にばたつきがあったに対して、「実際に遠隔プロボノまたは遠隔パラレルワーカーとして働いてみて、ご自身のその後のキャリアへの影響はある(あった)と考えますか?」の回答は以下のようになった。
意図するか否かはさておき、キャリアへの影響があったと捉える人が多い結果となっている。尚、本回答で影響度が低いと回答した2名(2及び3の回答をした方)も、「まだスタートしたところで、影響が出てないから。」や「まだ成果として見えない」との回答を合わせて実施しており、今後さらにそれが高まる可能性はある。但し、このようなアンケートに回答する時点で好影響がある人がセグメントされている可能性については否定できないことも付記しておく。
ローカルへの貢献度を意識したか?という設問については、回答者の多くが「とても意識した」の7に回答。アンケート作成時に筆者が意識した、その意識の低い遠隔プロボノ・遠隔パラレルワーカーが少ないことを示した。
印象的であった回答として「個人の金稼ぎなら効率よくするためにもローカルを選択しない。困っている人や仲良くなった人たちに対して課題解決で支援したいという思いが強かった」というものがあった。そのほかにも「地域の人から学ばせてもらうためにプロボノになったので、地域にリターンがないのは申し訳ないからです」「対象企業の短期的な業績改善だけでなく、地域経済を活性化させられるかも考えないと継続しないと思ったから」など遠隔による活動であったとしても、ローカルへの貢献度や地域へのリターン、当該地域の経済の活性化などを挙げる声が多くあった。
元々、ローカルへの貢献度への意識が高い回答が上記となっているが、その後それがさらに高まったという回答が以下から読み取れる。
さらに、ここでは理由として「パラレルワーカーでありつつ、1度現地を訪問したのでその際はやはりローカルへの意識は高まった」「求められる要件の領域を超えて、さらにローカルに対して何が出来るか深く考えるようになったから」「地域の切実な声や行政の考え方にも触れることができたため」「ヒトとの交流、知識をえることで、愛着がわく」などの回答があり、こちらでも遠隔ではありながらも、ローカルへの貢献度の意識が高まっていく様子と共にそれはローカルとの交流がキーになっていることが分かった。特に遠隔で従事する途中に現地への訪問があることでさらにその意識が高くなる傾向があるように回答から読み取ることができる。
現在及び理想とする本業所属先(所属1)と遠隔従事先(所属2)のコミットメントの度合いについては以下のような分布となった。
表だけをみると少しだけ右側にシフト、つまり所属2へのコミット度を理想的には上げていきたい意向を捉えることができるが、個別の回答を見ると、理想として所属2へのコミット度を上げたい人の割合は4割で、現在のコミット度から変化無しまたは所属1へのコミットを高めたいという人が6割であった。
遠隔プロボノ・遠隔パラレルワーカーがきっかけになって移住を考えたかという質問については移住を考えていない人の割合が多い結果となった。これは今の生活の基盤を持ちながら従事するスタイルを希望している人が多いことを示している。
今後も遠隔プロボノや遠隔パラレルワーカーとして従事する機会があれば実施したいですか?という設問に対してはすべての回答者が「はい」としている。
遠隔プロボノや遠隔パラレルワーカーとしてローカルの仕事に従事したことによって得られた経験やスキルについて問う質問については以下のような回答があった(原文のまま)。
◆遠隔プロボノや遠隔パラレルワーカーとしてローカルの仕事に従事したことによって得られた経験
◆遠隔プロボノや遠隔パラレルワーカーとしてローカルの仕事に従事したことによって得られたスキル
経験に関しては多く回答者が何かしらの「経験」を得たと回答し、ポジティブな印象。一方でスキルの向上という面においては必ずしも向上があったとは取れない内容になっており、遠隔プロボノ&パラレルワーカーで得られるもののイメージが上記の2つの設問の回答からも少しイメージが膨らむ。
他方、遠隔プロボノや遠隔パラレルワーカーとしてローカルの仕事に従事したことによって失われたものが何かあるかと問うと「時間」または「特になし」の2つの回答で回答のほとんどを占めた。また、一部ではあるが「お金」という回答の方もおり、遠隔で実施の場合にその立場によっては金銭的負担が発生している現状を垣間見ることができた。
ここまで、遠隔プロボノ&パラレルワーカーの定義を定めたうえで、その声について収集したアンケートの結果を紹介してきた。本文の後編では、そのキャリアモデルの考察と提示などを行っていく。
(参考資料)
※1:内閣府:第2回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査
この記事を書いた人
森山明能(一般社団法人地域・人材共創機構/代表理事)
1983年七尾市生まれ。07年慶應義塾大学総合政策学部卒。一般企業を経て2010年に地元Uターン。現在は家業の七尾自動車学校、地元七尾の民間まちづくり会社・㈱御祓川、CAREER FORプロジェクトを推進する一般社団法人地域・人材共創機構などで働くポートフォリオワーカー。家業では経営者、その他ではトライセクター・コーディネーターとして活躍。ご当地系アカペラグループ・カガノトーンズの一員でもある。内閣府・地域活性化伝道師。
一般社団法人地域・人材共創機構: https://careerfor.net/
株式会社御祓川:https://misogigawa.com/
七尾自動車学校:http://www.nanao-drive.co.jp/