見出し画像

シン・関係人口論 ~震災10年・withコロナ時代における釜石流の新たな関係性の在り方を 考える~

2020年ローカルベンチャーラボのかまいし共創ラボにて震災後の釜石の”関係人口”をゲストに迎えながら、地域に縁を持ち、活動した人々が長く続く関係性になるにはどのような要素があるのか考えました。この記事はその際に話し合われたことついて記載したものです。

1.はじめに ~関係人口の実態とは? 長く関係が続くには?~

人口減少・高齢化によって地方都市が衰退していくなかで、地域活性化の役割を期待されているのが、「関係人口」です。

総務省の定義によれば、関係人口は、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域や地域の人々と多様に関わる人々を指します。交流人口から定住人口に至る中間の段階だと考えられています。

地域とつながる関係人口の人を増やせば、一部の人たちは継続的に関わるようになり、その地域をつくる担い手となっていきます。そういう人が増えれば増えるほど、地域は活性化されるというわけです。

もっとも、「関係人口=地域や地域の人々と多様に関わる人々」と一口にいっても、そこにはさまざまなグラデーションがあります。立場や役割はバラバラですし、関わっている期間も人によって大きく異なります。

「関係人口とはどのような人か?」「継続的に関わり続ける人とはどんな人なのか」。
これらを明確にしなければ、どんな人を集めれば良いかわかりませんし、誘致などの対策も講じようがありません。

そこで、私たちかまいし共創ラボが取り組んだのは、「関係人口とは何か」をできるだけ可視化することです。

我々が住む岩手県釜石市も、他の地域の例にもれず、人口が減り続けています。
ピーク時の1960年代は8万人を超えていましたが、2020年6月の時点では3万2600人にまで減少しました。60年で6割以上も減ってしまったのです。今後も増える見込みはなく、関係人口を増やしていくことが急務です。

2011年の東日本大震災から、最初の5年間は、ボランティアをはじめとする数多くの個人や企業が、復興のために活動し、支援者として関わりを持ってきました。そのなかから継続的に関わりを続ける人もいれば、その後の復興から創生におけるフェーズで、釜石と関わりを持つようになった人もいます。関わり方も多様になってきました。

復旧・復興・創生。この10年の歩みの中で、釜石に関わり活動してきた「関係人口」はどのような人なのか。どんな人達が継続的に関わりを持ち続けているのか。
それを明らかにするだけでなく、関係人口を増やすアプローチも見出し、釜石だけでなく全国の地方都市に応用できる「シン・関係人口論」の構築に取り組みました

2.調査方法

震災からの10年間で、釜石に関わってきた人たち にインタビューをし、関わり時期・期間等による関係人口グラデーション等を分析。それを踏まえてどんなアプローチをすべきか、ディスカッションをおこないました。

釜石市では、震災以降の10年間で、以下の復興計画を進めてきました。
ハードの復旧に全力を注いだ「応急・前期(3年)」、なりわいや暮らしの再生を目指した「中期(3年)」、持続可能なまちづくりに取り組んだ「後期(4年)」の3つのフェーズがありました。
インタビューに関しては、3フェーズ、それぞれで釜石に関わったゲストを対象とすることで、その違いを調べました。

画像1

3回インタビュー+これまでの施策整理+ディスカッション

全6回すべてオンライン(zoom使用)
①顔合わせ
②釜石納涼祭 ゲスト:石井重成さん、中村博充さん
 ~浜千鳥さん日本酒・ヤマキイチ商店さん泳ぐホタテを味わいながら~
③ゲストインタビュー:山内英嗣さん
④ゲストインタビュー:北辻巧多郎さん
⑤ディスカッション
⑥振り返りまとめ

#石井重成 さん
#釜石市オープンシティ推進室長
#2012年~
#今も釜石(2020年12月現在)
1986年愛知県生まれ。国際基督教大学を卒業後、経営コンサルティング会社を経て、東日本大震災を機に2012年より岩手県釜石市へ。地方創生の戦略立案や官民パートナシップを統括。半官半民の地域コーディネーター釜援隊、グローバル金融機関と連携した高校生キャリア教育、広域連携による移住・創業支援ローカルベンチャーコミュニティ、地域におけるSDGs活用など、人口減少時代の持続可能なまちづくりを推進。釜石市オープンシティ推進室長、内閣官房シェアリングエコノミー伝道師、総務省地域情報化アドバイザー。2021年より青森大学准教授。震災復興・地方創生・リーダーシップに関する講演多数。

#山内英嗣さん
#右腕プログラム(ETIC.)
#2012年~2014年
#今は人事コンサル
1981年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、外資系コンサルティングファーム入社。パブリックセクターのコンサルタントとして、中央省庁や独立行政法人、地方自治体等の業務改革、IT導入、職員研修に従事する。一方で、プロボノとしてキャリアカウンセリングやワークショップを展開。現在、特定非営利活動法人@リアス NPOサポートセンターにて、被災地域の事業者と求職者との雇用マッチングプロジェクトに従事する。米国CCE,Inc.認定 GCDF-Japan キャリアカウンセラー。


#中村博充さん
#復興支援員(釜援隊)
#2013年~2017年
#今は外資コンサル
1986年兵庫県生まれ。商社にて電子機器の輸入販売業務に従事。その後2013年より岩手県釜石市にて、復興・まちづくり組織「釜石リージョナルコーディネーター(通称:釜援隊)」の立ち上げと組織マネージャーを担当。組織は2017年に復興庁から復興功績顕彰を受賞。
 また並行して水産業の6次産業化を推進するKAMAROQ株式会社を設立し、代表取締役に就任。地方創生に関する新規事業の立ち上げと推進を、複数セクターの立場で行った。
その後パソナにて、シェアリングエコノミー企業と連携したソリューション構築に従事。シェアリングを切り口に、地方創生や雇用創出に取り組む。


#北辻巧多郎さん
#地域おこし企業人
#2018年4月~2020年3月
#今は(株)LIFULLにて新規事業に従事 
1988年宮城県生まれ。新卒で(株)LIFULLに入社。総合職採用。LIFULL HOME'Sのコンサルティング営業を6年、岩手県釜石市役所へ空き家利活用業務で出向2年。現在は地方創生分野の新規事業であるLivingAnywhereCommonsの営業企画を担当
https://livinganywherecommons.com/

3.矢印の向こう側論

以上の研究によって、釜石の関係人口にはさまざまな特徴があることが見えてきました。

その1つ目が、「矢印の向こう側論」です。

下の図は総務省が作成した「関係人口」のイメージ図です。

画像2

交流人口から始まり、地域が好きになって、関係人口として地域と関わっていくようになる。さらに地域に深く関わりたいということで、定住人口になる。
このように、矢印が右から左へと流れていくイメージでした。

ところが、釜石の関係人口を調べた結果、矢印は必ずしも右から左の一方向ではないことがわかりました。

一旦、定住人口になってから関係人口に戻る人や、再び定住人口に戻る人など、矢印の循環が見られたのです。釜石は、一定期間、定住人口として住んでいたOB・OG(アルムナイ)が数多くおり、他の地域に住みながら継続して釜石と関わっている人も少なくありません。います。そうした関係人口も地域にとって重要な存在であることが見えてきました。

4.重要なのは、活動の時期や役割よりも「活動の濃さ」

それでは、釜石と継続的に関わりのある関係人口とはどのような人なのでしょうか。

当初、私たちは、次の仮説を立てていました。
「関わりを持った『時期』や『役割』によって現在の関わり方に違いがあるのではないか?」

しかし、調査をするなかで、「時期や役割はあまり関係がないこと」が見えてきました。
インタビューをしたゲストは、まったく違う時期に、まったく違う役割で釜石に関わっていますが、皆、継続的に釜石に関わっていました。

継続的な関係になるかどうか、その差を分けるのは何か。
重要なファクターは「活動期間に濃い経験をしていること」でした。

具体的にいうと、
・誰に出会ったか(※)
・どのような立場でどのような活動をしたのか(※)
・成功体験と失敗体験の中間 の体験をしているか。
成功体験は必要ですが、成功しきってしまうと、他の地域に挑戦の場を移したくなります。関係が継続するには、不完全燃焼な体験があるかどうか。腹八分目感があるかどうかが重要であることがわかりました。

こうした濃い経験をしている人たちは、釜石を離れた後も、釜石に対する並々ならぬ思いを持っていて、継続的な関係人口としてつながっていることがわかりました。

5.「関係人口マトリクス」で関係人口を分類する

冒頭でも述べましたが、一口で「関係人口」といっても、さまざまなバリエーションがあります。関係人口をもう少しわかりやすく分類できる方法はないだろうか? 多様な軸を検討した結果、以下の「関係人口マトリクス」を開発しました。

画像3


横軸は「個人と企業」です。関係人口というと個人というイメージがありますが、企業の地方創生事業もあれば、企業そのものがCSRの一環として地域に関わることもあります。とくに釜石の場合は、企業が関わるケースも多かったことから、企業も「関係人口」とみなすことにしました。

縦軸は「役割・仕事」と「想い・エモさ」です。
従来の関係人口は、その地域に対する想い、つまり「想い・エモさ」で関わっている人が多いと考えられてきました。
しかし、近年はリモート副業やインターン、あるいは地域おこし企業人のような「役割・仕事」の側面が強い人も増えていることから、「役割・仕事」の軸も加えました。

この2軸のマトリクスを使うと、以下の4つの象限で関係人口を分類できました。

画像4

◎パターン1「個人×想い・エモさ」
従来、関係人口といわれていた人たちが当てはまり、今も関係人口を育むベースになっている象限です。
震災復興で関わった10万人以上のボランティアはその代表。
その地域で盛んなスポーツや芸能に取り組んでいる人も含まれます。釜石では日本選手権7連覇を成し遂げた新日鉄釜石からの伝統があり、今もラグビーが盛ん。クラブチームの釜石シーウェイブスが活動し、釜石鵜住居復興スタジアムではラグビーワールドカップの試合も開催されたことから、ラグビー関係者が数多く訪れます。
また、人に会いに行く旅行客や観光客、ふるさと納税をしている人たちも関係人口といえるでしょう。

◎パターン2「個人×役割・仕事」
何らかの仕事をして、役割を果たすのを目的に、地域に関わっている人です。たとえば副業や学生インターン。釜石の場合は、企業からの出向や地域おこし企業人、復興支援員の釜援隊などのパターンがあるのが特徴的です。

◎パターン3「企業×役割・仕事」
企業が何らかの実証実験をしている、あるいは地方創生事業をしているというケースです。釜石の場合は、シェアリングエコノミー関連ベンチャー企業が実証実験をスタート。また、人材会社や不動産会社、IT関連会社が地方創生事業を展開しました。

◎パターン4「企業×想い・エモさ」
企業CSRの一環として地域に関わるケース。釜石でも、外資系金融機関や大手電機メーカー、大手飲料メーカーなど多様な企業が寄付などで関わっています。ちなみに、現在は撤退している企業も少なくありません。

6.継続的な関係人口をつくるには「移行化・複合化」が鍵を握る

次に、この「関係人口マトリックス」を用いて、釜石に関わっている関係人口の人たちを分類しました。
すると、継続的につながっている人たちの特徴が浮かび上がってきました。
それは、「移行化・複合化」することが、関係性をつなぐ上で非常に重要なことです。

画像5

「移行化」とは当初の象限とは別の象限に移ること。
「複合化」とは当初の象限に加えて、別の象限の要素も加わることです。
以下の3人の事例をご覧ください。

【Case1 パターン1「個人×想い・エモさ」→パターン3「企業×役割・仕事」に移行】
Kさん

画像6

Kさんは、当初、NPO法人ETICが主催する大人向けのフィールドワーク「東北オープンアカデミー」をきっかけに、釜石に関わりました。実際に東北の現場を見て回ったこととをきっかけに、「何かこの地域で自分にできることはないか」と模索。勤務先であるロート製薬に、「パレタス」というアイスバーのブランドで、釜石市の特産である甲子柿味のアイスが作れないか、と提案し、実現させました。個人・思いで関わっていた小久保さんが自社のリソースを使って仕事として釜石に関わったというわけです。

ちなみに、本ラボのメンバーであるパソナ東北創生の戸塚も、パターン1からパターン3に移行したケースです。当初は釜石にボランティアで入って個人で関わっていましたが、東京に戻った後、パソナ東北創生という会社を立ち上げ、再び釜石に戻りました。

【Case2 パターン4「企業×想い・エモさ」→パターン1「個人×想い・エモさ」→に移行】
Rさん

画像7

UBSは釜石市と協働宣言を結んで、クラウドファンディングに資金を提供したり、空き家の清掃をしたりしていました。それをきっかけに、UBSで働いていた方が、釜石の食を気に入り、釜石の泳ぐホタテを東京の飲食店に紹介していました。起点は企業の想いでしたが、そこから個人へとつながっていったわけです。


【Case3 パターン2「個人×役割・仕事」→パターン3「企業×役割・仕事」に移行】
Kさん

画像8

(株)LIFULLからの出向で、地域おこし企業人として釜石で活動。その後、同社に戻ってからは、「living anywhere」という遊休施設を改装自治体と組んだワーケーション導入を推進しています(釜石市では未導入)。会社のリソースを役立てた地域とのかかわり方です。

移行化や複合化が進むと、よりその地域に関わりたいという思いが強くなります。自分自身がこの地域を変えていきたいという「オーナーシップ」が芽生えてくると、関係人口として長く関係が続いていきます。


移行化や複合化には移行しやすいパターンとそうでないパターンがあることもわかりました。以下がその例です。

◎パターン1「個人×想い・エモさ」
関係人口を育む基礎。パターン2の「個人×役割・仕事」かパターン3の「企業×役割・仕事」に移行することで、継続する関係が続きやすくなります。一方、パターン4の「企業×想い・エモさ」に移行する場合もありますが、継続しにくい傾向がみられます。

◎パターン2「個人×役割・仕事」
ミッションなど期限があるものに関してはパターン3の「企業×役割・仕事」かパターン4の「企業×想い・エモさ」に移行することがよくあります。誰かとの出会い×ある種の成功体験が継続的にかかわる要素だというのが、現在の仮説です。

◎パターン3「企業×役割・仕事」
個人のスキル・ノウハウでなく、所属する企業・団体のリソースをビジネスとして活用することで、関係性が続きやすくなります。

◎パターン4「企業×想い・エモさ」
入り口になりやすいものの、パターン1「個人×想い・エモさ」か、パターン3の「企業×役割・仕事」に移行しないと、金の切れ目が縁の切れ目となることがよく起こります。
パターン2の「個人×役割・仕事」への移行は難しいようです。

7.まとめ 「震災10年、withコロナ時代の関係人口 3つのポイント」

最近ではコロナ禍まで加わり、関係人口を増やす難易度が増しています。このウィズコロナ時代に関係人口をつくるためには何が大切でしょうか。私たちが導き出したのは、次の3つのフェーズに沿って関係人口を育んでいることです。

1.創るフェーズ(出会い)
「来ればわかるから1回来てみて」「来たら、面白い人を紹介するから」「特産物も食べてみて」――。コロナ禍においては、これまで多くの地域が実践してきただろう(釜石だけ?笑)「とりあえず来て」がなかなかできません。オンラインで出会いを創り出すには、適切なターゲットを設定し、訴求していくことが大切かと思います。各自治体の関係人口マトリクスをつくり、特定の層を増やすためにはどういう施策を打つか考えることが必要です。

2.育むフェーズ
出会いが生まれた後は、「この人がいるから」というエモさを醸成することや、その人が“ある種の成功体験”を積めるようにすることが必要だと考えます。それがモチベーションになります。また、コントロールしにくいのですが、関わり続けるモチベーションを持続させるには、「腹八分目であること」も重要です。地域側と関係人口側双方にプラスになることやメリットになるような事柄を事業化しうることも大切だと考えます。

3.つながり続けるフェーズ
地域との関わり方は、地域のフェーズや自分自身の変化によって必要なもの、あるいはできることによって、常に変化していきます。つながり続けるためには、関わり方の移行化や複合化が必要不可欠です。関係人口のオーナーシップを高めていければ理想的です。
つながり続けるためには、OBOGコミュニティなど、「自分の居場所はここだ」「ちゃんと貢献できている」と思える場の存在も大切だと感じています。

さいごに、このラボでは震災から10年という期間で関わる人たちのどのような変化があったのかをもとに考えてきました。コロナ禍による働き方の変化や地域との新たなかかわり方が生まれる中で、今後また新たな地域との関係性が生まれていくはずです。関係人口とは何か?釜石型といえる特徴は今後どのような変遷を描くのか、引き続き深めていきたいと思います。

2021年のローカルキャリア研究所において、本記事の内容について語り合いました。関心のある方はぜひご覧ください。
この記事を書いた人
戸塚絵梨子 (株式会社パソナ東北創生 代表取締役社長)
早稲田大学教育学部卒業後、新卒で2009年株式会社パソナに入社。都内企業に向けた人材サービスの営業に従事。2011年の東日本大震災発生から被災地でのボラテ ィア活動に取り組む。2012年に休職し、NPO法人Etic.右腕派遣プログラムにより釜石市の一般社団法人三陸ひとつなぎ自然学校に入職。2013年にパソナに復職後、継続した地域との関わり方を模索するなかで社内起業制度を活用し、2015年にパソナ東北創生を岩手県釜石市に設立。都市と地域の関係性を見つめなおし、新たな生き方・働き方を創出することを目指して活動中。釜石と東京との2拠点生活7年目。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?