短編小説:はじめての誘い
デート、だったんだと思う。
出かけない?
誘われて浮かれた。
何着よう。
何日も着ていく洋服を考えた。
好きだと言われたわけでも付き合おうと言われたわけでもないけど、一緒にいられる、と思うと浮かれた。
彼の穏やかな話し声が好き。
ゆったりとした話し方が好き。
面白いことがあると声に出さずに肩を震わせる仕草が好き。
光に透かすと黄金色に輝く薄いブラウンの髪が好き。
見ていると触れたくなる指先が好き。
彼も私といる時間を楽しいと思ってくれるだろうか。
明日、どこに行くんだろう。
私は、浮かれていた。
まさか、行き先がこことは思わなかった。
裁判所。
2人で黙って裁判の傍聴をした。
正直、何も頭に入らなかった。
私はここで隣り合って座って、知らない人の話を聞くために何日も何を着ていこうかと悩んでいたのか。
裁判所を出た後、少し歩こうという彼に、今日は帰るね、と告げた。
彼は驚いていた。
これ以上一緒にいると泣き出しそうだった。
どう言えばいいのか分からなかった。
どんな気持ちで誘ってくれたの。
あのね。
私が聞きたいのは、あなたの声、あなたの話なの。
私が見つめたいのは、あなたの笑顔なの。
素直に言わなきゃ伝わらないのかもしれない。
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