短編小説:コンプレックス
「いつも爪隠してるよね、なんで?」
彼に聞かれた。
慌てて私はさらに爪を握り込んだ。
手のひらに食い込んで痛い。
昔好きな人に変な爪だと笑われて以来なるべく人目につかないようにしている。
誤魔化そうとして口を開いたけど、上手い言い訳が出てこない。
なんとも言えない沈黙が私にのしかかる。
彼の視線が前髪に刺さる。
「そんなことは・・・」
それきりまた何も言えなくなった。
「誰かに何か言われたの?」
彼は図星を指してくる。
私は手をギュッと握り締めたまま、俯いた。
「見せて」
彼はニッコリ笑って手のひらを差し出した。
「大丈夫だから」
そう言って。
私がおずおずとグーのままの手を彼の手のひらに乗せた。
彼は肩を震わせて笑った。
そして、ゆっくりと私の指を開いていく。
「かわいい爪だ」
彼はじっと私の爪を見た後でそう言った。
そのまま私の手を握った。
「今日から手をつないで歩こうね」
彼は私にそう微笑んだ。
今日、私のコンプレックスが一つ溶けて消えた。
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