短編小説:くすり(はなちゃん物語)
はなちゃんは、その薬が大嫌いでした。
その薬はイチゴ味です。
風邪をひくとお医者さんがくれる、イチゴ味のシロップの薬。
妙に甘くて、ドロッとしてて、ザラッとしてて、あとから苦い。
アレは、毒だ!
はなちゃんは思ってます。
飲んではならない。
はなちゃんの本能が告げています。
そんなわけで、はなちゃんは風邪をひいてお医者さんからもらうそのイチゴ味のシロップ薬を、いつも、こっそりと、飲んだふりをして、流しに捨てています。
なんでも他の子供には人気の薬らしく、お医者さんもお母さんもはなちゃんがそのシロップが嫌いだとは知りません。
お母さんははなちゃんの風邪がなかなか治らないので、ちっとも効かない薬だと、思ってます。
はなちゃんは苦くてもいいから粉の薬にしてほしいと思っています。
粉の薬ならオブラートに包んで、上手に飲めば、味がしなくて済むからです。
もし、途中でオブラートが破れちゃって、とっても苦い味が口に広がっても、大急ぎで水をいっぱい飲めば、その苦いのはすぐになくなります。
でもシロップ薬は口に入れた後ずっとあの妙な甘さとドロッと、ザラザラが口の中に残ります。
はなちゃんはそのシロップ薬を口に入れるたびに、ウエっと思います。毎回。
そしてしばらくウェウェと思ってます。
大急ぎで吐き出しうがいして、それでもしばらくウェウェと思ってます。
はなちゃんは、早く大人になりたい、と思っています。
だって大人は自分の好きな薬を選べるのです。
早く、あのイチゴ味のシロップ薬から卒業したい。
はなちゃんの切実な願いです。
おしまい
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