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小説:遊撃サバイバル6_紆余曲折

「結論。ほっとく」

その晩、楠田は福田に電話をかけた。
22時30分。かろうじて常識の範囲内、といえる時間だろうか。
楠田はこういう面では常識を重んじる人間で、23時以降は非常事態を除いて、人に電話をかけてはならない、と思っている。もっとも、その常識は福田には通じない。

「わお、くっすーから電話があるのなんて、初めてじゃん~!?」
無駄にテンションが高い福田を無視して、結論から述べる。前置きも何もない。
決して、初めて電話をかけたわけではない。そりゃ、折り返しの電話だったり、待ち合わせの到着電話だったり、で、夜わざわざ話をするために電話した記憶はないが。
「なんだよ、開口一番」
「手の出しようがない。そもそも『民事不介入』ってことくらい、ふくちゃんも知ってんだろうよ」
「トモダチとして助けるってのは」
「大きなお世話だろうよ、金の使い方に口出しすんのは。ふくちゃん、俺が、『銃買うのやめて、真っ当な道を歩め』って言ったら、やめんのかよ」
「そりゃ、いやだな」
「だろう。自分が稼いだ金を、どう使おうが、個人の勝手だからな。トモダチ面して、んなこと言われりゃ、ムカツクだけだろ。女が絡めば、なおさらだって。『あんな女と付き合うのやめろ』って言われて、やめられるようなら、だいたい貢いだりしないだろうよ」
沈黙した福田に、楠田が結論を言う。
「醒めるまで待つんだな」
「間違ってるって、分かってもか」
「間違っているかどうかなんて、他人が決めるこっちゃないよ」
う~ん。福田が唸る声が電話口から聞こえた。
「俺、おせっかいなんかなあ」
問題の芽は小さいうちに摘みたいんだよね。苦笑と共に福田がつぶやく。
気持ちはわからんでもないが、それを「問題」と捉えるか、どうか、解釈の分かれるところだ。
しばらく様子見ようや。と電話を切った。
福田は恋愛相談から留年対策まで、メンバー全員とやり取りをしていたようだが、楠田はそこまでマメではない。相談されれば話は聞くが、意見を求められない限りは、踏み込まない。
子供じゃあるまいし、余計なお世話だろう、という思いが先に立つ。
それをこっちから、大丈夫かどうか聞くなんて、どうすりゃいいんだ。楠田はPCを前に、メールを打とうとかれこれ30分も頭を悩ませていた。
余計なお世話だと思われずに、懐に飛び込む芸当など、福田じゃあるまいし、出来るわけがない。
相談にのるなら、ミヤさんが、懐に飛び込むならタケが向いてるだろう。しかしマルちゃんがフクちゃんにしか話していないプライベートを、俺が勝手にメンバーに話していいものか・・
良くないよなあ・・・・。
フクちゃんが俺に話したのは、あくまで今のリーダーだからだ。

あーもう。思わず頭をかきむしる。向いてないんだよ、こういうことは!
心の中で盛大に福田に愚痴ってクッション代わりにしている枕を殴る。
様子を見る、と福田に言ったものの、そもそも、チャットルームすらロムってる(いや、そもそもロムってるかすら分からない)マルちゃんの様子を知る為には、連絡を取らなくてはならない。メンバーの中でマルちゃんが一番親しかったのは、福田だろう。それとなく聞ける相手などいない。だからマルちゃんも福田には連絡したのだ。ため息をついてそれから1時間もかけてどうにかこうにか、ミリオタの祭典へのお誘いメールを書いた。

ミリオタの祭典は浜松町で行われる。浜松町駅の北口改札を出ながら、週末に浜松町駅の北口を利用するのは、ミリオタか四季好きかのどちらかしかいないのではないかと、楠田はここで降り立つたびに思うが、偏見でしかない。楠田がここへ降り立つのは、ミリオタの祭典がある時だけだから、そう思うのだ。
四季を目指しているのか、オタクの祭典を目指しているのかは、装いから直ぐそれと知れる。
サバイバル向きの大振りバックパック。軍服。気合が入っている者は、軍靴も履く。いかにも、オタクの軍服!という感じのものから、アウトドアジャケットと相違ないものまでさまざまで、楠田はアウトドア使用(にも見える)の上着を着ている。取り外し可能なワッペンを、ドイツ軍の徽章に変えてみたのが、今日のお洒落のポイントだったりするが、一般人に理解されることはない。お洒落のポイントが四季へ向う者と大きくずれている、という自覚はある。
でも。
いつも楠田は声を大にして言いたい。
スーツだって、トレンチコートだって、セーラー服だって、元は軍服だ!!と。
セーラー服の語源のsailor はそもそも「水兵」だ。あれは女子高生の着るもんじゃない、アレは、兵隊の着るもんだ!!と声高に主張したいが、聞いてくれるのはミリオタくらいだ。
スーツの襟は軍服の立襟が変化したもんだし、トレンチコートのトレンチなんて「塹壕」と言う意味だ。トレンチコートのデザインは軍服そのままだ。肩のあて布は「ガンフラップ」と言って、銃の衝撃を和らげる為のものだし、手首の所のベルトはデザインじゃなく、きつく縛って、ホコリや雨を入らなくするためのものだ。
ここまで考えて、楠田は虚しさのあまり思考を止めた。こだわりのポイント人それぞれ、違うからいい。「みんな違って、みんな、いい」だ。

頭を散々悩ませた挙句、楠田は、マルちゃんをミリオタの祭典に誘った。新作銃だったり、USEDの軍服だったり、オタクには、垂涎の催しだ。牛丼4杯分ほどの入場料がかかるので、前売りチケットをもらったから、と誘えば、乗ってくるかもと誘ってみた。



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