短編小説:最後の晩餐
「来週、出て行くね」
ベッドに入り、彼に背を向けたままそう言った。
「うん」
彼はただそうとだけ応えた。
それからほとんど顔を合わさない生活。
一緒に暮らしているのに、お互い違う生存領域で生きているみたいな不思議な感覚だった。
最後にご飯食べない?
彼からメッセージが来た。
同じ家に住むのに、会話はメッセージだ。
そうだね。でもうち出るまで日がないから、引越し済んでからでもいい?
うん。いいよ。予約しておく。
そうして彼はレストランを予約してくれた。
毎年クリスマスに食事していたレストランを。
最後の晩餐。
別れた後で、毎年一緒に行ったレストランに行くって、なんだか悪趣味だな、私はそう感じた。
彼には違う感慨があったのかもしれない。
でも私たちがその違いをすり合わせることはもうない。
ありがとう、も、ごめん、も違う気がして、お疲れ様、と言ってみた。
別れの言葉、お疲れ様。
口にしたらしみじみ思った。
私、お疲れ様。
バイバイ。
【お知らせ】耳で聴く物語はじめました。聴いていただけたら嬉しいです。
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