短編小説:ちがう道
「転勤、決まった」
「どこ?」
今日は私のお祝いだったはずだ。
コンペで勝ち取った初プロジェクトリーダー。
ずっとやりたかったプロジェクト。
何ヶ月も残業や休日出勤を繰り返し、やっと取ったプロジェクト。
そのお祝い。
「アメリカ」
「そっか」
彼の勤め先は本社がアメリカだ。
いつか本社に行きたい、とずっと言っていた。
「いつ?」
「秋から」
つい数分前にお祝いの乾杯をした。
シャンパンで。
グラスの泡はドンドンたちのぼり消えていく。
ここ数ヶ月、仕事ばかり見ていた。
彼が何を考え今日を迎えたのか知らない。
お祝いしてー!
私から声をかけた。
数ヶ月もほったらかしにしておいたのに。
彼とは学生時代からの付き合いだ。もう8年になる。
それなりの信頼関係を築いてきた。
だから分かった。
これは、私のお祝いではなく、2人の旅立ちのお祝いなのだ、と。
ずるいな、と思うのは彼は数ヶ月かけてお別れの心を整えたのに、私はこれから数ヶ月かけて別れた後に心を整えなければならないこと。
でも。
何ヶ月もほったらかしにしておいたのは私だもんね。
「いつか遊びに行くね」
「そうだね。いつか遊びに来て」
そう言って別れた。
お互いがんばろうね。
心の中でつぶやいた。
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