短編小説:さくらんぼ(はなちゃん物語)
はなちゃんは春になると庭の隅の金網をよじ登る。
その金網は2メートルほどの高さだ。
四畳半ほどの大きさの、金網とブロックの囲いの上にはトタン屋根が斜めにかかっていた。それは大型犬の為の犬小屋だ。
犬はお昼間は庭の真ん中につないである。
そのトタン屋根に登ると、サクランボが食べれるのだ。
サクランボの木はトタン屋根の上に大きく枝を伸ばしていて、下からでは届かないサクランボもこのトタン屋根の上では食べ放題だ。
そんなわけで、サクランボが色づくと、はなちゃんはウンショウンショと金網をよじ登ってトタン屋根に手を伸ばす。
金網もトタン屋根も登る様にはできていないから、実は結構危ない。
万が一にもお母さんに見つかろうものなら金切り声をあげて止められるだろう。
だから、はなちゃんはいつもこっそり登る。
春の日差しでほんのりと暖かいトタン屋根の上で食べるサクランボは格別だ。
選び放題。
一番美味しそうなものから食べる。
食べても食べても食べ飽きない。
でも食べすぎたりしない。
一番美味しそうなものだけ食べる。
はなちゃんは満足したらトタン屋根に寝そべる。
さくらんぼ越しに見える青空は霞かがりそろそろ梅雨を告げる。
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