小説:その夜は妙に暖かった2
「こら、寝るな」
右腕でゆするが、あ~とかう~とかむにゃむにゃと言うばかりで、さっきまで覚束なげながら、歩いていた兼田の足は止まりがちになっている。
どうすんだよ、これ。大沼は痛い頭が更に痛くなった。
おそらく1年でもっともタクシーがつかまらないであろう今日、こんな大荷物を抱えて、俺にどうしろというのか。
1、 捨てて帰る
2、 いつ来るか分からないタクシーを待つ
3、 目の前にあるビジネスホテルに泊まる
しばし逡巡した後、大沼は心を決めて兼田を抱えなおし歩き出した。
「本日は生憎シングルのお部屋は満室で、今空いているのはダブルのみでございます」
ダブル。
つい15分前に告白された男とともにダブルの部屋に泊まる。しょっぱいを通り越して、涙が出そうだ。
グッとつまったが、堪えて、それでいいです、と大沼は応えた。
ホテルに入る寸前に振り出した雨は振り返ると本降りになっている。もう「背に腹は代えられぬ」と心から思う。
ビジネスホテルのダブルは、ラブホとは違う。質素と言うか、簡素と言うか、シンプルだ。
ただ、ラブホテルより狭いので、ダブルベッドが置いてあると、部屋いっぱいにベッドがあるように見える。
大沼はとりあえず、兼田をベッドに横たえた。上着とネクタイ、ベルトをはずしてやると、なんだかゲンナリしてくる。ハンガーにそれらをかけながら、つぶやく。俺はおかんじゃないっつうの。
「風呂はいろ・・・」
ヒットポイントが減りすぎて、ダウン寸前な気分だ。それほど飲んでいないだろうに、悪酔いしそうな感があり、起きたら全て夢だったってことになってくれないだろうかと、ありえもしない願望が浮かぶ。
大沼はシャワーを浴びて部屋に戻った。シャワーから出てそこで待ち受けているのが、いびきをかく大男、ゲンナリにもほどがある。
ビジネスホテルの寝間着ってなんでこんなに間抜けなんだろうな。ボタン付のTシャツを長くしたような服はどうも足元が心もとなく、大沼は好きになれない。
やっぱり日頃ジャージだからか。いやそもそも、これが着心地がいい男なんているんだろうか、妙な疑問が浮かぶ。
すっかり寝入った兼田を転がし隅っこによせ、下敷きになっている上掛けをひっぱる。
たいして疲れるようなことはしていないはずなのに、時間だってまだ23時すぎなのに、これ以上ないくらいに大沼は疲れがたまっていた。
「もう、寝る」
誰に言うともなく、つぶやいてフットランプ以外を消してシーツにもぐりこんだ。
大男二人で寝るにはダブルベッドといえどもそれほど広くは感じず、すぐ近くから気配とぬくもりが感じられるのがしょっぱいな、と大沼はその日何度目かのため息をついた。
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