対談を味わうvol.3 元エレファントジョン ガッテン森枝さん―藤井ペイジさん対談
この企画はYouTubeに上がっている対談動画を見て感じたことを記録していく企画です。
(詳細はvol.1をチェック↓)
第3回目の今回は
藤井ペイジさんのYouTubeチャンネルの企画「辞めた芸人に話を聴こう」から元エレファントジョンのガッテン森枝さんとの対談を味わっていきます。
(藤井ペイジさんYouTubeチャンネルURL)
(辞めた芸人に話を聴こう 元エレファントジョン ガッテン森枝さん回)
森枝さんは98年に人力舎の養成所に入った後、同期のおおかわらさん(現:鬼ヶ島)と「アメデオ」を結成。アメデオ解散後、同期の加藤さんと「エレファントジョン」を結成。2014年にはTHE MANZAI決勝進出を果たします。2017年3月にエレファントジョン解散後は構成作家に転身。人力舎の養成所(JCA)の講師などの活動もされています。
この対談を通じて感じた藤井さんの聴き方、森枝さんの人柄を見ていきます。
藤井さん 究極の伝え返し「けど」
この対談では、私個人としては「シンプルかつ究極」と感じている話の聴き方が登場します。
芸人を辞めて後悔していないかという話の中で、森枝さんが「後悔はないんですけど」と発言したところをその末尾の「けど」のたった二文字で返しています。
例)
(ぺ:藤井さん発言 も:森枝さん発言)
ぺ:で、芸人辞めて後悔したことは。
も:(腕を組んで)後悔したこと。(ぺ:うん)(視線を左下にして)僕はね(ぺ:うん)、今のとこないですね。(ぺ:おおう、おうおうおう)結構悩んだので、(ぺ:あっ)辞める辞めない、辞める辞めないっていうのを繰り返して、辞めるに行ったので、(ぺ:なるほどね)やっぱり、中途半端な気持ち、まあ、みんな、辞める時って、思い切って辞めてるとは思うんですけど(ぺ:うん)、割としっかり考えて(ぺ:未練を残すわけではないから)自分の中では、そう
ぺ:さんざん考えたあげくの(も:辞めた)出した答えだから。
も:そうですね。一応、いまのとこ、後悔はないんですけど、
ぺ:けど
も:別に、どっちが楽しかったかっていうと、芸人やってるときの方が楽しいです。(ぺ:ああああ~)それは、そうです。今がつまんないとかじゃないんですけど、楽しくはあるんですけど(ぺ:なるほどね)、やっぱり、あの、よく言うじゃないですか。「ウケるのは麻薬だ」みたいなね。
もし、藤井さんが「後悔はないということで」というように言葉を返していたら、この後の「芸人やってるときの方が楽しい」という話は聴けていなかったかもしれません。藤井さんは「けど」という言葉に含まれる「後悔はしていない」ことの逆接的な意味を引き出しました。
私もインタビューなどで人の話を聴くときに「けど」だけで返すことってなかなかできないです。「けど」に反応できても、つい言葉を付け足して長々とした言葉で返してしまいます。でも、藤井さんと森枝さんのやり取りを見てわかるように「けど」だけで話は進んでいくんですよね。
森枝さん いろんな立場に気を配る人柄
この対談の中では、森枝さんがいろんな立場の人に気を配る、思いを巡らし生きていた、生活している様子を窺い知ることができます。
例1)
エレファントジョンを解散し、お笑い芸人を辞めた経緯を語る場面。ここでは、自分が続けたい、やりたいということだけでなく、家族、相方の加藤さんそれぞれの人生にも思いを寄せて考えるシーンが出てきます。
(ぺ:藤井さん発言 も:森枝さん発言)
ぺ:2014年に決勝行って、3年後の2017年に解散するわけです。
(省略)
辞めようと決めたときというか、(も:うん)何かしらきっかけになった日とか、時期とか、あったら
も:まあねえ~、僕、子どもいたんで、いあた、いや、まあ、今もいるんですけど、
(省略)
それで、辞める時は、中3になるタイミングで辞めたんですけど(ぺ:なるほど)、それって、高校受験なんですよ。
ぺ:ああっ…
も:結局なんだかんだ、公立の学校とか行って、そんなに贅沢しないで、習い事とかいろいろはやらせてあげられなかったんですけど、そういうのがなければ別に(ぺ:うん)そこまでめちゃくちゃお金がかかるってことではない気がするんですよね(ぺ:ああ)。まあ、もちろんかかるんだけど(ぺ:なるほど、なるほど)、だけど、高校入るときはやっぱり、ドカッとね。(ぺ:…)多分、はじめての、こう、ドカッと、こう、必要になるタイミングかなって、僕は思ってたんですよ。
(省略)
で、やっぱり私立に行くか、ちょ、まあ、東京なんで、都立かでちょっと違うと思うんですけど、都立に行けば、まあ、そんなにはかからない(ぺ:そうやな)んですけど、わからないじゃないですか。
ぺ:わからないね。そればっかりは。
も:その、なんか、自分のやりたいことで、真面目な話ですよ(ぺ:うん)、自分のやりたいことで、こう、なんか、子どもの進む道を、こう狭めてしまうっていうのは、どうなんだろうっていう
ぺ:どうなんだろう。なるほどお
も:っていうのもあったわけですよ。(ぺ:右側に視線をやる)でも、加藤も、元相方ね、加藤も、加藤の人生もあるし
自分がお笑い続けることで金銭面で子どもの進路を狭めてしまうのではないか、そこまでして芸人を続けてよいのか。
その一方で、自分が辞めてエレファントジョンが解散になることでコンビの相方である加藤さんの人生も変えてしまう。自分のまわりの人たちが置かる状況に思いを巡らせています。
構成作家として、そして人力舎の養成所の講師として活動されている日々の中にも1つの事柄をいろんな角度で思考するシーンがあります。
例2)
ぺ:元芸人で裏回った人ってさ、(も:はい)まれにやけど、上から来る人もいるじゃない。
も:ま、いますよね。
ぺ:そういうタイプではなさそうね。
も:(左手を左頬に当てて)いやあ~そうですね。自分がやられて嫌だったことはしたくない。(ぺ:はははは)はは。っていうふうには思うかなあ。難しいですけどね。まあ、やっぱり、こう、なんか、ほら、ネタを見て、アドバイスをくださいっていう時に(ぺ:うん)、持ってきて見せてくれたものを、やっぱり、全否定はしたくない(ぺ:そうね)んですよ、そういう人っているじゃないですか(ぺ:わかるわかる)。「おもしろくねえよ。こんなの」それで終わっちゃう人いるじゃないですか。そういう風には、やっぱり、なりたくないなと思うんですけど、「これを、じゃあ、こうしたら、もっとよくなるんじゃない」とかっていうことを言うようにはしてるんですけど、もちろん。(ぺ:うんうん)だけど、もしかしたら、(ぺ:うん)この時間って無駄なのかもしれない、(ぺ:あああ)「ない」と思ったんだったら「ない」って言ってあげたほうが正しいことなのかもしれないとか(ぺ:なるほどね)。だって、「ない」ものをちょっとよくしてもあまり意味ないじゃないですか。
ぺ:すっ、すっ、わかる
も:だったら、他のことに時間を費やす方がその人のためになるのかな、とか(ぺ:あああ~)いろいろ、だから、考えますね。人によって言うことが全然違います。僕は。この人にはこう言ってあげよう、とか(ぺ:…(大きくうなずき)なるほどなるほど)うーん。
森枝さんは「ネタのアドバイスをください」とお願いしてきた人に対して、そのネタの全否定はしたくないという立場です。それは自分がされて嫌だったことをしたくないという理由からです。
しかし、その一方で「ない」と思ったらはっきり「ない」と伝えることが相手の今後のためになるのではないかという思いも抱えています。その両方の思いがあるからこそ、森枝さんは相手によって何をどう伝えるのか考えて接していると話をされています。
無双だった2013年。行くべき時に行ける「運」があるか
2014年に「THE MANZAI」決勝に進出したエレファントジョン。しかし、そのピークは2014年ではなく、前年の2013年にありました。ライブシーンでは、ウケにウケを重ね、森枝さん自身「無双だった」と語り、藤井さんも「会場が揺れていた」と振り返ります。
当時「THE MANZAI」を見てエレファントジョンを知った私にとっては、その前年が本人にとってはピークであり、そのピークでは決勝に進めなかったという事実は驚きでした。
そして、「売れる・世に出る」タイミングというのは自分たちでコントロールすることができない、運とか流れによるものなのかなと感じました。でも、笑いに限らず、何事も、その運や流れが来ることを信じて日々笑いに取り組むしかない。2013年の無双があったから2014年の決勝進出という運に巡りあったとも考えられます。
この対談では、このほか、森枝さんが自分自身を「芸人時代に嫌だと思っていた状態なっている」と自嘲気味に話すシーンや、芸人を頑張る人たちへメッセージを送るシーンなど見どころがまだまだありますので、ぜひ一度ご覧いただけたらと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。