サッカールーツを辿る旅のススメ【石川編】
容赦なくゴールが積み重なる。気づけば0-8になっていた。「なんでこの時期に大学生と練習試合をするんだろう」2019年4月、わたしは石川県にある星陵高等学校のサッカーグランドにいた
きっかけは学生団体主催のスポーツキャリアイベント。そこで出会ったのが星陵高校サッカー部出身の学生だった。わたしは全国高校サッカー選手権大会を観るのが年末年始の楽しみの一つ。石川星陵はご存知、本田圭佑、松井秀喜を輩出したサッカーや野球の名門校
「当時、自分より上手い部員は大勢いてサッカーの実力でかなわないことは分かっていました。でも3年の選手権大会だけはどうしても出たかった。なので僕は誰よりも練習や試合で声を出し仲間をサポートし鼓舞し続けました。」
サッカーではかなわない、でも大会メンバーには絶対選ばれたい。じゃあ自分にできることは?必死に考え行動し続けた彼の様子が目に浮かんだ
そして選手権のメンバーに見事選ばれた。不思議なのは彼が高校の部活を語る時、とても楽しそうなのだ。3年間厳しい練習を山ほどしてきたはずなのに。サッカー名門校出身であることを自分から積極的に言う感じでもない。そんな謙虚な姿勢が監督や仲間からも厚い信頼を得ていたのだろう
そんな彼の話を聴いているうちに石川を旅してみたいと思った。「土曜日に星陵へ見学に行くんだけど、何時くらいに行けば練習見れるかな」「土曜なら多分練習試合しているのでどの時間に行っても見れますよー」
テキトーすぎでしょ(笑)と最初は思ったが実際来てみると、彼の言う通りだった。部員数も多いため、学年やカテゴリーで交代しながら一日中練習している様子だった
サッカーグランドのすぐ近くに外部の人でも座って見れるようなスペースがあり、見学者がいるのは日常茶飯事といった雰囲気だった。「これは何年生の試合ですか」近くにいた部員に聞いてみた。「3年生と大学生の試合です」
道を挟んで高校の真向かいに星陵大学がある。高校生とよく練習試合をするのだという。4月初旬、まだ新学年として始まったばかり。その練習試合が冒頭の0-8につながる。次々と容赦なく大学生に得点されるのを見ていてなんとも痛々しかった
旅を終えて帰ってきてから彼に聞いてみた「なぜ新学年始動の時期にあんな心折れそうな試合をさせるのかな」彼は少し苦笑いしながら答えてくれた
毎年そうなんですよ。大学生にボロ負けして心が折れているようではうちのサッカー部では生き残っていけない。むしろそういう時こそ前を向ける奴じゃないと上には上がれない。そういう高校でした
そこに彼の気持ちの強さ、成し遂げたいことのために努力し続ける力、今の彼を創り上げたルーツがあった
大学進学後、彼はサッカーではなく学生団体に所属し様々な種目の体育会部員を支える活動を精力的に行っていた。部員の話を聴くのが大好きでインタビュー記事にして発信する企画を自ら立ち上げ、大学内外に選手や種目の認知度向上に貢献していた。もうプレーヤーとしてサッカーはしないのかなと思っていた
大学卒業後、彼から「社会人1部リーグのチームで選手復帰します」と嬉しい報告があった。石川星陵時代から約4年の歳月を経てプレーヤーとしての彼をピッチで見られる日を今から心待ちにしている
(石川のグルメもめちゃめちゃ美味しかったです、それはまた旅の番外編で)