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『聴けずのワカバ』(キャリコン資格取得編)-61

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やりがいの搾取(2)負の連鎖⑤

「鞄持ち、手弁当という名のボランティアで参加することを強いているな」

「何を言っているのです。何度も言わせないでくださいよ。ここにいる資格保持者は全員、自らの意思で来ている。それに・・・」

「ここの卒業生だから、勉強になるから、あなたのためだからってか」

「そ、そうでしょう」

「そう言って人の良いキャリコンの善意につけこんで労働力をただで使おうとする、それは搾取だ」

(あれっ、どこかで聞いたことあるセリフだな)
ワカバはイチジョウの話を聞いてふと思った。

「搾取ですと?勘違いも甚だしい。確かに資格保持者には報酬は支払っていませんよ。でもその分、受験生の皆さんは会場費用だけの安い受講料で参加できている。何かこれが問題でも」

「正当な報酬を払わない表向きの理由としては、そうだろうよ」

「表向きですって?何を仰っているのか、さっぱり分かりませんね」

「それでは受験生のみんなに聞こう。今まで別の勉強会に参加するよう誘導されたことはないか」

イチジョウは周囲を見渡すとほとんどの受験生がうなずいていた。

「だろうな。構図はきっとこうだろう。まずは間口を広げて、無料もしくは低価格で参加者を集客し、そのあと厳しいフィードバックで自己効力感を落として別の割高な勉強会へ誘導する、こんなところか」

「あっ!」

「どうした親方」

「いや、前に話した勉強会に参加した時にこの中の何人かいたなあって思い出して」

「ああ、あの罵詈雑言の言葉を浴びせられたところか」

「そう、まさかそういう構図になっていたとはね。さらにいうとその勉強会でも思いっきりダメ出しされて、もっと高いプランに無理やり契約させられそうになったから。あっ、これ言っちゃいけないやつだっけ」

「つまり主催者だけがボロ儲けする集金システムになっている。結果ここの勉強会ではフィードバックの質が悪ければ悪いほどいい。だって、その方が受験生を誘導しやすくなるからな」

「ああ、だから前におっさんが言ってた洗脳手法っていうのは、これだったのか。あっ、これも言っちゃいけないやつだっけ」

会場がざわつき始めたのを見て代表が再び話し始めた。

「全く・・・よくもそれだけ憶測で語れますね。我々はそんなことは考えてもいないし、誘導するなんてもってのほかです。だって我々は受験生に愛情を持って接しているのですから」

「また愛情かよ・・・、愛情があれば何を言ってもいいのかよ。愛情という言葉を盾にして、横暴な態度を正当化している。それは愛情の搾取だ!」

イチジョウの発する言葉に難しそうな顔をして、考え込んでいたワカバが何かを思い出したようだ。
「・・・、あっ、そうか分かった!おっさんのセリフ、逃げ恥の10話でミクリが言ってたやつだ」

「に、ニゲハジ?、味栗?親方なんだそれ」

「えっ、おっさん知らないの!?逆に知らないとしたらある意味、奇跡だよ!」
また、周りの空気を読まずにワカバが話していると代表が割って入ってきた。

「もうここまで来たら誹謗中傷ですね。キャリアコンサルタントの倫理綱領にも書いてあるでしょう。これは大問題ですよ」

「はっ、何を言っているんだ」

「代表、イチジョウさんが言っているのは誹謗中傷ではありませんよ」
今度はサオトメが割って入ってきた。

次回の更新は2023/4/14予定です

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