『聴けずのワカバ』(キャリコン資格取得編)-57~62(4月第3週+α)アップデート版
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やりがいの搾取(2)負の連鎖
「負の連鎖?答えによっては許される言葉でありませんよ」
「それではここにいる資格保持者に聞く。本当に受験生のために集まっているのか?」
「それは当然でしょう。みな高い志を持ってこの勉強会に参加している」
「あんたには聞いてない。他のヤツラはどうなんだ?」
会場にいる資格保持者が顔を見合わせている中、ついさきほど喫煙所で無礼な男と話していた腰巾着気質の男(仮に「スネオ」としておこう)がイチジョウへ駆け寄って小声で威圧してきた。
「おい、てめえ、ナメたマネしてんじゃねえぞ、コラ!」
「ここの勉強会はこんな横暴な奴しかいないのか。俺も一応、受験生枠で参加させられてるんだが」
「目には目をですよ。あなたの言動が横暴だから、合わせているに過ぎない。我々はいつも受験生に愛情を持って接していますからね」
「愛情?詭弁だな。今日会ったばかりの受験生に愛情を注げるのかよ」
「それが伝統だというのです。すがるものには愛情を注ぎ、あなたのような粗暴にみえる人間は排除する」
「排除ねえ。とても愛情を持っている人間の発する言葉とは思えないが。おい、さっき俺に凄みをきかせてきたあんた、愛情はあるのか?」
「答えるまでもねえ。当然だ」
「当然ねえ・・・。それじゃあ、あんたが考える愛情ってのを教えてくれるかい」
「はあ、何でお前なんかに教えてないといけないんだよ」
「いや、俺にじゃない。ここにいる受験生の皆さんにだ」
「はあ、面倒くせえなあ。そんなもん決まりきったことだが、まずはここに来ている受験生の気持ちに寄り添っている。それにフィードバックの時も相手の目線になって、言葉をきちんと選んでいる。最後に、資格の有無に関わらず全員平等に接している。それが愛情ってもんだろう」
「ふーん」
「何だよ。そのふーんってのは」
「いや、さっき喫煙所で言ってた話とずいぶん違うなと思って」
「・・・!?、さっきだと。てめえ喫煙所になんかいなかったろ」
「ああ、俺はタバコは吸わん。でもさ・・・聞こえちゃったんだよね」
「・・・!?ああっん!な、何がだよ」
「『追い詰めるwそれは楽しみですね~。俺たちボランティアですから、ここでストレス発散しないと割に合わないですもんね』とか」
「おいおいおいおい!」
「あとは『それに俺たちは資格持ってますけど、あいつらは持ってないですからね。立場の違いを教えてやらないとすぐ図に乗りますよ』って言ってたよな」
「ああ、あああ、バカ、言ってねえよ。そ、そんなこと」
イチジョウは言語的追跡の正確さでは誰にも負けない自信があった。
(もう、分かりやすくキョドってんじゃん)とワカバは思った。
「確認しますが、本当にそんなことを言ったのですか?」
サオトメがスネオを問い詰めた。
「いや、ま、まさか、そんなこと言うわけないじゃないっすか、サオトメさんも何言ってんすか」
「本当にそのような暴言を吐いていないのですね」
今度は代表がスネオを詰めてきた。
「も、もちろん神に誓ってそんなこと言ってません。だって考えてもみてください。そんなこと言うと思います。こいつのでっち上げに決まってますよ」
「ほお、俺に罪をなすりつけようとはいい度胸だ。本当に言っていないんだな」
「も、もちろんだ。か、賭けてもいいぞ」
「何をだ」
「もし俺がお前の言ったことを本当に言ってたとしたら、ここの勉強会やめてやるよ」
「はあ、お前が辞めたところで俺には何の得もねえけどな」
「いや、イチジョウさん、この老舗の勉強会を辞めるとなったら、彼が今後他でやっていくのも難しくなる。かなりの覚悟だけど大丈夫なのかね」
サオトメがスネオをフォローすると同時にイチジョウへ引き下がるよう促した。
「ああ、別に俺は何も困らないからいいんだけどよ。じゃあ、俺も何か失うものを賭けないといけないわけか」
「はは、そんな覚悟、てめえにはないだろうがよ。一体、何を賭けてくれるんだ」
「そうだなあ、じゃあ俺は・・・」
(おっさん、一体何を賭けるんだよ)
「それじゃあ俺のイノ・・・」
「おっさん!」
ワカバが急いで止めに入った。
「バカじゃないの!もう一回いうよ。バカじゃないの!」
「は、何だよ、親方」
「あのさ、おっさん今「命かける」って言おうとしたでしょ」
「それがどうしたよ」
「あきれた・・・こんなことに命かけてどうすんのさ」
「俺は何事にも全力投球だ」
「バカじゃないの!もう一回いうよ。バカじゃないの!」
「何だよ、俺はお前のために・・・」
「だったら大丈夫。私にだって覚悟はあるよ」
イチジョウと話し終えたワカバはスネオにこう告げた。
「だったら、私が賭けます。どのみち、この人は私の保護者代わりで来ただけだし」
「はあっ、何だよ。冷めるなあ。もうどっちでもいいから、早く何を賭けるか言えよ」
「もしイチジョウ、さんが嘘をついてたなら、わたしこの試験を受けるの辞めます」
「ほぉ」
「親方、お前!いいのかよ、本気だったんじゃないのかよ」
「・・・本気だよ。だからこそ許せない。もし本当にコイ・・・この人が受験生をバカにしたような発言したなら、私だけじゃなくてここにいるみんなに対しても失礼だもの」
「親方・・・今、スネオのことコイツって言おうとしたろ」
「それは関係ないでしょ。でも最後は私が責任取るよ。考えてみたら私がおっさん誘ったんだしね」
「そうだな・・・確かに。じゃあ、あとは任せた」
「ん、ん、どうした。おい、おっさんどうした、急に。本当は何か証拠になるものあるんでしょ」
「・・・ない」
「えー、あれだけタンカきっといて、それはないでしょうよ。おっさんが命賭けるまで言ったんだから、こっちは確信めいたものあるって思うじゃんか。早くこの状況を打開するもの出しなさいよ」
「・・・ない」
「バカじゃないの!もう一回いうよ。バカじゃないの!」
「あのさ、今何待ち?」
二人のやり取りにしびれを切らしたスネオが追い込んできた。
「ああ、すみません。もうちょっと待ってもらえますか。すぐ終わるんで」
「とにかく俺が言ったっていう証拠出してくれないとお前受験できなくなるぜ」
「分かってますよ。だってあんなにカッコよくタンカきったんだから、当然ありますよ~」
「だろうな。何でもいいから早く出せ、証拠を」
ワカバの慌てっぷりをみたスネオは平静を取り戻した。まだイチジョウとワカバは折り合えていない。その様子をみた代表が声をかけた。
「どうやら、彼が無礼な発言をしたというのは虚言だったってことで宜しいですね。それでは騒ぎを起こしたお二人には退場してもらって、続きを始めましょうか」
ワカバとイチジョウは顔を見合わせて、声を発しようとした瞬間、会場の隅から声が上がった。
「ちょっと待ってください!」
参加者のひとりが声を上げた。
「あ、あの、わ、私・・・」
「何なのかね」
代表が聞き返した。
「わ、私も聞きました」
「一体、何をだね」
「き、喫煙室でお二人が話していること」
「・・・!!あなた自分が何を言っているか分かってますか」
代表がキツイ口調で参加者に問い詰めた。
「は、はい、もちろん、分かっています。もしこの勉強会の意に反することを言えばどうなるのかも」
「分かっていれば宜しいんですよ。では、それを踏まえてもう一度お尋ねしましょう。何を聞いたというのかね」
「えーと、えーと・・・」
「そうでしょうとも。言えませんよね。だから当然、あなたは何も聞いていないのですよ。さあ、それでは続きを始めましょうか」
「ま、待ってください!」
もう一人の参加者が声を上げた。
「ぼ、僕もき、聞きました」
「はあ、一体何をです。あなたも今日初めてここに来たわけではないでしょう。だったら分かりますね」
「ぼ、僕だって、分かっています。今までもこうして言いたいことが封殺されてきたことも」
「封殺?随分、大げさな表現を使いますね。聞く人によっては勘違いしてしまうかもしれませんよ。今のあなたにそれだけの覚悟があるんですか!!」
代表は全体を見回し、他の参加者も含めて威圧するように声を荒らげた。
「これってパワハラじゃないの」
ワカバは空気を読まずに思ったことをつい口に出してしまった。
「バカ野郎!誰が見ても分かるこんな絵に描いたような幼稚園児にでも分かるパワハラのことをいちいち指摘するんじゃねえよ」
イチジョウが慌ててワカバを静止した。
「いや、そこまで私は言ってないけど・・・これ私が言ったことになるのかな」
「空気読めよ、親方!」
「あっ、幼稚園児をたとえに出したらコンプライアンス的にはNGかな」
「そこはどうでもいい!ほら、見ろ!皆さんあっけに取られてるだろ」
「いや、それはおっさんのたとえがマズかったんじゃないの」
「いや、いや、いや親方がそこは・・・」
「二人とも!」
サオトメが興奮しているイチジョウとワカバに声をかけた
『はい』
二人は声を揃えてサオトメを見た。
「今日初めて来たのに申し訳なかったね」
「えっ、サオトメさんどうしたんですか」
ワカバが謝るサオトメを見て驚いている。
「参加者の皆さんも今まで話したいことも全然聴けてなくて本当に申し訳なかった」
「サオトメくん、自分が何を言っているか分かっているのですか」
「はい、代表。私は今まで間違っていたのかもしれません。受験生のことを第一に考えて、一生懸命やってきたはずなのに・・・。まさか皆さんが思っていることをひとつも聴けていなかったなんて」
「サオトメくん、ここの勉強会はこれまでの伝統に則って、ずっとこのやり方で続けてきたではありませんか。今更、それを反故にしようなどと、考え違いも甚だしい」
「ですが代表、今日私は気づいてしまったんです。このままではいけないのだと」
「サオトメくん、あなたにはほとほと呆れましたよ。もし今の話が本音だとしたら、もうここにあなたの席はありませんよ」
「おい、そこまでにしとけ!」
イチジョウがしびれを切らして声をあげた。そしてサオトメに声をかけた。
「サオトメさん、あんたは何も間違っちゃいない。人間はいつからだってやり直せる。気づいたんなら変わればいい。それだけだ」
「イチジョウさん、ありがとう」
「まったく上に立つ人間がこれだから負の連鎖が止まらないんだよなあ。改めて教えてやるよ、その理由を」
「我々の伝統ある勉強会を負の連鎖だという極めて無礼な発言、理由によっては無事にここから出られませんよ」
「ああ、そうかよ。今の発言だけでも十分にヤバいが、その前においお前、いつからこの勉強会にいるんだ」
怒りの塊のような代表を一旦スルーして、スネオに問いかけた。
「はあ、何でお前にそんなことを答えねえといけねえんだよ」
「いいから答えろ」
「うるせえなあ、受験生の時からだよ」
「やはりそうか。そして今は資格保持者側で参加しているんだな」
「そうだよ、それがどうした」
「ここにいる多くの資格保持者が同じような感じだろ」
「だったら何だよ」
「じゃあ、質問しよう。いつまでここにいるんだ?」
「はあ、いつまでだと・・・そんなもんお前に答える必要があるのか」
「答えるつもりがない、というよりは答えられないんだろ」
「なんだって!こいつ調子に乗りやがって」
「図星か。そうだろうな、それが負の連鎖だからだよ」
「なに!言ってることが分からねえ」
「じゃあ、今度は受験生のみんなに聞いてみようか。もし今後、試験に合格したら、次は資格保持者として参加するよう強制されてるんじゃないのか」
イチジョウがそう言うと受験生がみな下を向いてしまった。
「ええ!そんなこと強制されてるの!それじゃあ、いつまでたってもこの勉強会から抜け出せないじゃん」
ワカバがまた無邪気に声に出してしまった。
「そうなんだ。この勉強会に限らず、ほとんどの勉強会で同じようなことが起こっているはずだ」
「それってもしかして、受験生時代にボランティアでお世話になったから、今度は奉仕する側に回れってこと?」
「まあ、そういうことになるな。しかも、フィードバックする側になったら受験生時代に受けていた「あの」やり方しか認められていないのだろう」
「それって体育会系の部活に入って、先輩に受けていたシゴキを後輩に強いる構図と一緒じゃん」
「それを伝統という名目で当たり前のように繰り返される。それが現状だ。違うか代表!」
「・・・ここまで来たら言いがかり以外の何物でもないですね。ここにいる皆さんは全員、自らを高めるために参加しているのですよ。何も強制などしていない。皆さん自発的に来ているのです。それを何も知らない部外者が何をいっているのやら。全く呆れて何も言えませんよ」
「自己研鑽ってやつか。主催者側がこんな考えだから、キャリコンがいつまっで立っても食えない資格なんて言われるわけだ」
「なんですって」
怒っている代表を尻目にイチジョウはスネオにまた問いかけた。
「おい、お前フィードバックに対する報酬はもらっているのか?」
「はあ、今の代表の話を聞いてなかったのかよ!ここにいる資格保持者は全員、自らボランティアで参加しているんだ。当然、報酬なんてもらうわけがねえ」
「そうか、そうだよな、キャリコンではそれが当たり前の世界なんだよな・・・」
イチジョウが手を震わせて、怒りをためているのをワカバは見過ごさなかった。
「おっさん、また何かとんでもないこと言いそうだな、これは(ワクワク)」
「鞄持ち、手弁当という名のボランティアで参加することを強いているな」
「何を言っているのです。何度も言わせないでくださいよ。ここにいる資格保持者は全員、自らの意思で来ている。それに・・・」
「ここの卒業生だから、勉強になるから、あなたのためだからってか」
「そ、そうでしょう」
「そう言って人の良いキャリコンの善意につけこんで労働力をただで使おうとする、それは搾取だ」
(あれっ、どこかで聞いたことあるセリフだな)
ワカバはイチジョウの話を聞いてふと思った。
「搾取ですと?勘違いも甚だしい。確かに資格保持者には報酬は支払っていませんよ。でもその分、受験生の皆さんは会場費用だけの安い受講料で参加できている。何かこれが問題でも」
「正当な報酬を払わない表向きの理由としては、そうだろうよ」
「表向きですって?何を仰っているのか、さっぱり分かりませんね」
「それでは受験生のみんなに聞こう。今まで別の勉強会に参加するよう誘導されたことはないか」
イチジョウが周囲を見渡すとほとんどの受験生がうなずいていた。
「だろうな。構図はきっとこうだろう。まずは間口を広げて、無料もしくは低価格で参加者を集めて、そのあと厳しいフィードバックで自己効力感を落とす。そして、別の割高な勉強会へ誘導する、こんなところか」
「あっ!」
「どうした親方」
「いや、前に話した勉強会に参加した時にこの中の何人かいたなあって思い出して」
「ああ、あの罵詈雑言の言葉を浴びせられたところか」
「そう、まさかそういう構図になっていたとはね。さらにいうとその勉強会でも思いっきりダメ出しされて、もっと高いプランに無理やり契約させられそうになったから。あっ、これ言っちゃいけないやつだっけ」
「つまり主催者だけがボロ儲けする集金システムになっている。結果ここの勉強会ではフィードバックの質が悪ければ悪いほどいい。だって、その方が受験生を誘導しやすくなるからな」
「ああ、だから前におっさんが言ってた洗脳手法っていうのは、これだったのか。あっ、これも言っちゃいけないやつだっけ」
会場がざわつき始めたのを見て代表が再び話し始めた。
「全く・・・よくもそれだけ憶測で語れますね。我々はそんなことは考えてもいないし、誘導するなんてもってのほかです。だって我々は受験生に愛情を持って接しているのですから」
「また愛情かよ・・・、愛情があれば何を言ってもいいのかよ。愛情という言葉を盾にして、横暴な態度を正当化している。それは愛情の搾取だ!」
イチジョウの発する言葉に難しそうな顔をして、考え込んでいたワカバが何かを思い出したようだ。
「あっ、そうか分かった!おっさんのセリフ、逃げ恥の10話でミクリが言ってたやつだ」
「に、ニゲハジ?、味栗?親方なんだそれ」
「えっ、おっさん知らないの!?逆に知らないとしたらある意味、奇跡だよ!」
また、周りの空気を読まずにワカバが話していると代表が割って入ってきた。
「もうここまで来たら誹謗中傷ですね。キャリアコンサルタントの倫理綱領にも書いてあるでしょう。これは大問題ですよ」
「はっ、何を言っているんだ」
「代表、イチジョウさんが言っているのは誹謗中傷ではありませんよ」
今度はサオトメが割って入ってきた。
誹謗中傷の定義とは
「サオトメくん、どういうことだ。まさか彼の肩を持つつもりじゃないだろうね」
「はい、代表。もちろんそのようなつもりではありません。でもキャリアコンサルタントとして、言葉の定義を明確にしたいだけです」
(サオトメさん、助け舟出してくれるのと思ったのになー。おっさんと共闘してくれたら嬉しいんだけど)
「まず『誹謗中傷』については、キャリアコンサルタントの倫理綱領の『第 1 章 基本的姿勢・態度』の中にある『第6条(誇示、誹謗・中傷の禁止)』に『キャリアコンサルタントは、自己の身分や業績を過大に誇示したり、他のキャリアコンサルタントまたは関係する個人・団体を誹謗・中傷してはならない。』と定められています」
(さすがサオトメさん、よくそんな細かいところまで正確に覚えているなー)
「そうでしょう。これまでの彼の発言は倫理綱領に反しているではありませんか」
「私も最初はそう思ったのですが、改めて誹謗中傷の言葉の意味を確認してみたのです」
「言葉の意味?」
「広辞苑の第七版によると『誹謗中傷』とは『根拠のない悪口を言い相手を傷つけること。』と解説されています」
「そうですか。では言葉の意味でも彼が倫理綱領に反しているということに変わりありませんね」
「いえ、イチジョウさんの発言は誹謗中傷にはあたらないかもしれません」
「一体、どうしてだね」
「『根拠のない』というところです」
「根拠?」
「先ほどからイチジョウさんは我々に確認を取りながら、話をすすめていました」
(おー、確かにそうかも。サオトメさんよく気づいたなー、さすが歩く広辞苑!)
「確認?ただの言いがかりでしょう」
「いえ、イチジョウさんなりに根拠のない発言はさけていたはずです。違いますか」
「まあ、当然だわな」
(うわあ、絶対ウソでしょ。たまたまに決まってる。よくまあ、この場で平然としたり顔で・・・)
(聞こえてるぞ)
(うわっ、心の声システム、バレてたかー。おっさん、すまん)
(しかし、親方の上司のおかげで風向きが変わってきたよ。これはありがたい)
「ただし、イチジョウさん側も感情的で言葉が乱暴なところは反省せねばならない」
((速攻、足元すくわれた!))
「もちろん過去の判例による法的な解釈や相手がどのように感じたのかによっても誹謗中傷にあたるのかは判断が難しいでしょう。だからこの場では一旦、イチジョウさんの今日の発言は、我々に対する『意見』として受け止めませんか、代表」
「サオトメくん、君の講釈はこの辺でよいのかね。君が何と言おうと、少なくとも私個人は彼の発言を誹謗中傷と受け取ったよ。おそらく他の資格保持者も同じ気持ちじゃないのかね」
「そうだ、俺も同じような気持ちになったぞ!みんなもそうだよな!」
スネオがここぞとばかりに声を張り上げ、周囲に同意を求めた。しかし、周りの反応は思ったより薄く、皆うつむいたまま黙っていた。
「そうか、誹謗中傷だと思ったのは二人だけか。でもよ、俺から見たらお前らの方が誹謗中傷しているように思えるぜ」
「一体、誰にですか!」
「ここにいる受験生にだよ」
「はあ、またお得意の言いがかりですか、全く根拠もなくよく喋る」
「サオトメさん、さっきの倫理綱領をもう一度、言ってみてくれ」
「他のキャリアコンサルタントまたは関係する個人・団体を誹謗・中傷してはならない。のところかな」
「さすがサオトメさん、分かってる。そして誹謗中傷の言葉の意味は?」
「『根拠のない悪口を言い相手を傷つけること。』だね」
「倫理綱領の『他のキャリアコンサルタントまたは関係する個人』っていうのは受験生も含まれていませんかね、サオトメさん」
「・・・確かに、解釈によってはそうかもしれないね」
「そして、誹謗中傷の意味だが、今日のフィードバックを聞いていて思ったけどよ。どう見ても「根拠のない悪口」にしか聞こえなかったんだよな」
「確かにおっさんが代表ロープレした時のフィードバックも悪意に満ち溢れてたもんな。言われた方は悪口だって思うよね・・・あっ!しまった」
また、ワカバは空気を読まずに思ったことを口走ってしまったが、受験生は皆うなずいていた。その様子を見た代表が周囲を威圧するように言葉を発した。
「我々のフィードバックに根拠がないですって。それこそ誹謗中傷も甚だしい。ここにいる皆さんはもちろん知っていますが、ちゃんと根拠はあるんですよ」
「なんだと。根拠がある?」
(ホントに根拠あるのかなー。ロープレには正解ないっていうけどね)
疑うイチジョウとワカバを高笑いをするかのように代表が語り始めた。
【出所】
キャリアコンサルタント 倫理綱領
https://www.career-cc.org/files/rinrikoryo.pdf
次回の更新は2023/4/17予定です