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『聴けずのワカバ』(番外編)RPケース95高田あかねさん(後編)

読了目安:約12分(全文4,825文字)※400文字/分で換算

 *キャリコン・技能士の学科・論述・面接試験対策を希望される方は

背景(ロープレ小説風)

内省シーン

高田あかね(15歳)中学生

「あかね、パパからお芝居のチケットもらったんだけど、土曜日一緒に行かない?」

「ありがとう!嬉しい。久しぶりだな。楽しみにしてる」

 友人に誘われて週末、一緒にお芝居を見に行く二人。あかねは驚いた。なぜならいつもの会場より何倍も広い会場だったのだ」

「えー、すごい。チケット代、ものすごい高かったよね」

「そうなのかな。知らないけど、高そうだね」

「何か私達、場違いじゃない?」

 開幕のブザーが鳴ると暗闇からひとりの役者が舞台の中央に立ち、スポットライトが当たると語り始めた。さきほどまでは分からなかったが、舞台全体に照明が当たると、大掛かりな舞台装置や大勢の役者が登場し、圧倒的な輝きを見せ始める。それを目の当たりにしたあかねは二度目の衝撃を受ける。

「・・・今まで自分が見てきたお芝居とは全然違う・・・舞台と照明と役者さんが一体となって、全員本気でお芝居に取り組んでいることが分かる・・・すごい・・・」

 舞台を見て感動したあかねは自分でも芝居に関わりたいと強く願い、演劇部へ入部することとなる。

現在(面談場面)に戻る

「ご覧になった舞台に感動されて、演劇部に入部されたんですね」

「はい、その後、本気でお芝居に向き合って、演劇部の部長として高校演劇の全国大会にも出場することが出来たんです」

「そうだったんですね。全国大会に出場されていかがでしたか」

「最初はまさか全国まで行けるなんて思ってなくて。でもあの時、いろいろ大変だったけど、みんなで一丸となって演劇に向き合って、本当に良かったと思っています」

「演劇を通してとても良いご経験をされたんですね。その後のことをもう少し聴かせていただいても宜しいでしょうか」

「はい、そのあとお芝居で割りと有名な大学があるんですけど、勉強もすごい頑張って何とか入学することができました」

「お芝居と同時に勉強も頑張られたんですね。入学されていかがでしたか」

「もちろんすぐに演劇サークルに入部して、一年間は下積みというか、覚えることがたくさんあって全然余裕がなかったんですけど、2年生になって少しゆとりが出来てきたので、今働いているホームセンターでバイトすることになったんです」

「そうだったんですね。ホームセンターを選ばれたのはどうしてですか」

「はい、1年生の時に大道具とか小道具とかよく買い出しに来ていたのが、縁ですかね。材料とか工具とか舞台装置とか技術的なことも身につくから一石二鳥かなあと思って」

「実際、働いてみていかがでしたか」

「うーん、思っていたより、事務作業も多くて、仕事が楽しいかと言われれば微妙なところですが、当時採用してくれたマネージャーがお芝居にとても理解のある人で助かっていました」

「助かっていたというのは」

「実は話を聞くとマネージャーも昔、お芝居をやってたらしくて、シフトの調整とか舞台で使えそうな資材とか道具とかいろいろ教えてもらっていました。だから期待に応えようと思って一生懸命頑張りました」

「バイトもお芝居を両方とも頑張ってらっしゃったんですね」

「はい、そこから4年間はずっとバイトとお芝居漬けの毎日でした」

「そうだったんですね。バイトとお芝居漬けの毎日というのは?」

「はい、本来なら私3年で引退して、あとは就活でもして、時間のある時に後輩のサポートでもしようと思っていたんです。でも人生なかなか思い通りにはならないですよね」

「思い通りにはいかない・・・差付けなければそのお話を聴かせてもらっても宜しいでしょうか」

内省シーン

高田あかね(22歳)大学4年生

「先輩、就活しなくて私達の手伝いしてて大丈夫ですか」

「何言ってるの、就活は就活でやってるよ」

「そうですか、で、どうなんですか」

「どう?まあ、お芝居に関係する会社いろいろあたってるけど、難しいわよね」

「・・・まだ決まってないってことですね。大丈夫ですか?もう10月になりますけど」

「焦っていないって言ったら嘘になるけど、卒業した先輩で1月に就職決まったって人もいたから、まだまだ大丈夫よ、たぶん」

「ふ-ん、私達としては演劇界のニューヒロインって言われてる先輩がいれば百人力だし、チラシに名前も出してもらって集客にも一役買ってもらってるから、ありがたいですけど、あとで悔やんでも知らないですよw」

「なーに言ってるの。本当は後輩たちに花を持たせてあげたいから、あんまり出しゃばりたくないけど、私自身、楽しいからいいの!」
 その後、卒業公演は大成功。大いに盛り上がったが、あかねはその後も就活に全く身が入らずに、結局就職浪人することとなる。

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「そうでしたか。お話しいただきありがとうございます。その時のご自身をご覧になっていかがでしょうか」

「・・・もし、あの時の自分にひとこと言えるなら『現実から逃げるな!』と言いたいですね」

「現実から逃げるな、とは」

「あの頃、就活が全然うまくいかなくて、ちょっと自暴自棄になっていたと思います。演劇界では3年生の時に書いた脚本で全国学生演劇祭の審査員賞もらって調子に乗っていたのかも。何か特別な才能あるんじゃないかって勘違いしてました」

「振り返ってみるとそのように思われてるんですね」

「だから就活のときもどこかで就職しなくても私なら大丈夫じゃないかって根拠のない自信があって、全然身が入りませんでした」

「身が入らなかったんですね。その後はいかがでしたか」

「しばらくは親に頭下げて一年間の猶予をもらいましたが、結局自分自身が芝居以外に情熱を持てるものがなくて、就活はうまくいきませんでした。そんな時にマネージャーから声をかけてもらったんです」

「声をかけてもらったとは」

「バイトだけはずっと続けていたんですけど、あまりにも就活がうまくいっていないことを心配して、いっそのこと契約社員になってみないかと誘われたんです」

「誘われた時はどう思いましたか」

「その時は嬉しかったですね。自分も特にやりたいこともなかったし、何と言っても契約社員なら両親も少しは安心するんじゃないかと思って

「ご両親を安心させたかったんですね」

「はい、特に父は中学生の時に私をお芝居の世界に誘っちゃったから、罪悪感を持っているみたいで・・・実際は高校の時に自発的にとびこんだんですけどね」

「自らとびこまれましたか」

「はい、おかげでどっぷり浸ってしまいました。だって、それから一年は契約社員として頑張っていたけど、どうしてもお芝居のことが忘れらなくて劇団を立ち上げましたから」

内省シーン

高田あかね(24歳)契約社員

「先輩、久しぶりですね。誘ってもらえて嬉しいです」

「こっちこそありがとう。そういえば卒業公演どうだった」

「ああ、今年も盛り上がりましたよ。私はちゃんと就活して後輩のサポートに徹していましたけどねw」

「・・・胸が痛いっ!就活はどうだったの」

「はい、第一志望に内定もらって今はフレッシュな新卒一年目です!」

「フレッシュって・・・、やっぱ私と違ってしっかりしてるわ」

「そんなことないですよね。ところで先輩話ってなんですか」

「いや、無理だったら断っていいんだけど、うん、きっと無茶なお願いだから引き受けてくれるわけないと思うんだけど、たぶん難しいってのは分かってるから・・・」

「先輩なんですか!珍しく回りくどい。そりゃあ、劇団を立ち上げるから手伝ってとか言われたら困りますけどね」

「・・・痛たたた・・・さすが察しが良いわね。やっぱ困るよね」

「そりゃあ、困りますよ。まだ入社して仕事も覚えていないのに、こんなに嬉しい誘いなんて」

「そうだよね、嬉しい誘いだもんね・・・えっ?」

「そりゃあ、嬉しいですよ。もちろん先輩が脚本書くんでしょ。だったら私絶対演じたいです!」

「もちろん書くよ。実は今、書き進めてね。ちょっと見る?」

「いいんですか!見ます見ます・・・ふむふむ、これメチャメチャ面白いじゃないですか!私、大学時代のメンバーにも声かけてみます。先輩、一緒に頑張りましょう!」

「う、うん、ありがとね。私も裏方に徹してみんなのサポートに全力を尽くすよ!」
 そう言って涙ぐんだ高田は、後日後輩たちを率いて劇団を立ち上げ、主宰として活動を始めることとなる。

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「そのような経緯でしたか。そこから現在に至るまでのお話を伺っても宜しいですか」

「はい、お芝居としてはそこそこうまくいっていると思います。公演をうつと小劇場の箱を今でも埋められますし。たくさんのファンの方にも応援いただいているので、大変だったけど、今日まで何とかやってこられました」

「大変だったんですね・・・でも現在、正社員の話があるんですよね」

「はい、最初はお芝居がこんなに継続できるとは思っていなくて、やりたいことが出来ないストレス発散みたいな感じで活動していたのに、主宰としての責任もどんどん大きくなってしまって」

「責任が大きいのですね。そのことについてどのように感じますか」

「劇団の主宰って会社でいうと社長の立場だから、みんなを率いていくと同時に毎回の舞台も成功させないといけなくて・・・そのうえ、正社員だなんて、また責任が上乗せになるような気がして、躊躇しているのかもしれません」

「そのことはどなたかにお話しされているんですか」

「一度、マネージャーには相談しようかと思ったんですけど、何だか聞きづらくて・・・」

「聞きづらいというのはどういうことでしょうか」

内省シーン

高田あかね(28歳)契約社員→正社員の話

「マネージャー、お話というのは何でしょうか」

「高田さん、ここに来てから何年になるかな」

「そうですね。大学2年の時からだから、もう8年ですかね」

「そうだね、これまで本当によく頑張ってくれた。仕事も販売や接客だけじゃなく一般事務のようなことも今ではそつなくこなしてくれている」

「それはマネージャーのおかげですよ。シフトも融通きかせてくれたし、舞台に役立つからって仕事もたくさん教えてもらったし。そうそう契約社員にもしてもらいましたからね」

「高田さん、この機会に正社員にならないか。契約社員から5年経つし、将来のことを考えたら、ここが転機じゃないかな」

「・・・、そうですね。それがいいかもしれないですね。私ももうすぐ30歳になるし、そろそろ潮時かなって思うこともあります。でもお芝居もまだ続けたいって思いもあるんです」

「分かった。すぐに結論は出さなくてもいいけど、少し考えておいてくれないかな」

「はい、分かりました」
あかねはマネージャーとの話が終わると売り場に戻ろうとした。そこへたまたまパート職員のおばさま達の話を聞いてしまった。

「また、高田さん、マネージャーに呼ばれたってよ」

「なになに~、またシフトの調整かしらね。いつもマネージャー高田さんのシフトばっかり調整して、私達なんて余ったところに入れられてるもんね」

「それにさ、噂だけど、高田さん今度正社員になるんじゃないかって」

「そうか、もう5年経つもんね。その話がきてもおかしくはないよね。私達なんて契約社員の話すら聞こえてこないのに。ああ、羨ましいったらありゃしないわね」

「まったくね。若くてカワイイからって贔屓されてるのよ、きっと。全くいいご身分だわね」
 その話を聞いてしまったあかねは聞いていないふりをして二人に明るく声をかけた。しかし、問題は何も解決していない。正社員になるのか、今後お芝居を続けていくべきか・・・。職場で相談出来る人はいない。ましてやこんな話、劇団のメンバーには話せるわけもなく。

 そんなあかねが今の気持ちを誰かに聞いて欲しくて、探しに探して今日この面談に来たというのがここまでの流れです。

おわり

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